10月27日(2)
「鷹野君、起きて。着いたよ」
肩を揺すられて、僕はようやく目を覚ました。変な体勢で寝てしまったせいか、首筋が痛い。
「ああ、山倉……」
「大丈夫? なんだかうなされてたけど」
「うん、なんとか……」
寝ぼけている頭をはっきりとさせ、席から立ち上がる。
少し離れたところで三村と吉沢が心配そうにこっちを覗き込み、他のクラスメイトはすでにバスを降りていた。
「何をやってんだよ信也。彼女をほったらかしにして眠るなんて」
三村のもっともな意見を受け、耳が痛い。
「三村君、わたし気にしてないから。信也君ちょっと疲れてたみたいだったし」
「まったく、先に行ってるからな」
あきれながら三村が去り、それに吉沢が続いていく。
「ごめん、山倉」
「気にしてないって。ほら、行こうよ」
山倉が僕の腕を引っ張る。バスを降りた僕たちは、木造の古風な観光客用の食堂で、昼食を取った。
その後はバスで所々の観光地を巡る。歴史の教科書でしか見たことのない威風堂々の建造物が、まるで僕を鼓舞しているように見えた。
今日のスケジュールを終わらせ、一日目の宿泊施設へと赴く。いかにも観光地らしい、和風の旅館だった。
黒色の瓦屋根に、板張りの廊下。室内に入ると畳のい草の匂いが、鼻をくすぐる。
さすがに部屋は男女別なので、僕は三村と話をしていた。どうやら三村も吉沢と順調にいっているらしい。ただ、まだ付き合うとか告白するといった状況ではなさそうだ。
「まったく、信也がうらやましいよ」
そう言ってため息をつく三村が、妙に印象的だった。
夕食の時間になり、大広間へと移動する。食事も席がすでに決められており、山倉とは離れて座っていた。
目の前の食事は刺身、ステーキ、エビチリなど、和洋中のおかずが丹精込めて作られていた。
さすがは旅館の料理人というか、だれもが舌鼓を打ち、箸を進ませていた。
あまり食欲のなかった僕も、ちょくちょく手を出していく内に、どんどん口の中へと食事が入っていく。
気がつけば、普段より明らかに量の多い夕食を、いとも簡単に完食していた。
食べ終わった食器を片付けていると、山倉が僕の方へと小走りでかけてきた。
「どうかした?」
山倉に尋ねると、僕の耳元で山倉は一言だけ告げると、またそそくさと離れていった。「消灯五分前、部屋の前で待ってるね」
それが山倉の言葉だった。