表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/47

10月26日(2)

 病院内に入り、幾人かの病人や看護士とすれ違いながら、三○六号室へと向かう。

 ノックをすると、山倉の元気な声が聞こえてきた。

「どうぞ!」

 ノブを回し、ドアを開ける。山倉は元気に手を振っている、以前にも見た光景だ。

 ただ、あの時と違うのは、山倉の瞳に涙のかけらすら浮かんでいないことだ。

「おはよう、信也君!」

「おはよう」

 昨日と同じ丸椅子へと腰をかける。今日は特にこれといった用事はない。

 そばにいて、談笑をかわすのが、一番の目的ともいえるだろう。

「そういえば、明日から修学旅行だよね。楽しみだなぁ」

 芸能人やドラマなどの話がひと段落ついたころ、不意に山倉の口から出たのは、そんな言葉だった。

「山倉……修学旅行に行けるの?」

「うん。先生に聞いたら大丈夫だって。こんなところで一人落ち込んでるより、友達と一緒に遊んだほうが楽しいだろうって」

 確かに事情を知っている先生ならば、そう言うだろう。

 だが、それは表向きの事情だけ知っている者の意見だ。

 裏の事情を知っている僕としては、修学旅行へ行ってほしくなかった。

 修学旅行に行かなければ、サーカス会場にも行かない――そうなれば、必然的に山倉の命が救われるという結果になるからだ。

「そうなんだ。よかったね」

 僕なりに心情をうまくごまかして、嬉しがっているつもりだった。

 だが、山倉はすぐに顔を曇らせて、首をかしげる。

「あんまり嬉しくなさそう。わたしと修学旅行に行きたくないの?」

「そ、そんなことないよ!」

「フフッ、分かってるって。冗談だよ」

 白い歯を見せる山倉に、必死になってひきつった笑顔を返す。

「簡単に運命は変えられないって事か……」

「えっ?」

 僕のぼやきに、素早く反応を示す。

「いや、なんでもないよ」

「本当に? 苦しんでるんだったらいつでも相談してよ? わたしだって信也君の力になりたいんだから」

「分かってる。僕だって無理はしないさ」

 心配そうな山倉に、修学旅行の予定について話すと、山倉はすぐに食いついてきた。

 こうなった以上、覚悟は決めなければいけない。未来は分かっているのだから、慌てる必要はない。

 要するに、僕が山倉を死なせなければいいんだ……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ