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10月24日α(1)

 十月二十四日 金曜日

 学校の授業は瞬く間に過ぎていき、放課後になった。

 はっきり言ってしまえば、すぐに死ぬ身として、勉強をする気が起きなかった。勉強などする暇があれば、山倉を救う術を考えたほうが、有意義に過ごせる。

 今日の目的は、すでに決まっている。家に帰ったり、部活に出る生徒が、昇降口へと向かう中、奴らは人気のない場所――体育倉庫へと集合する。

 奴らとは、この学校のはぐれ女子の集まりだ。山倉を突き落とした間宮涼子もその一人になる。

 学校の生徒達は、奴らが放課後に体育倉庫へと集まると知っている。女だからと甘く見ると、痛い目にあうことも。

 部活動に使う道具の数々も、いまは部室へと押し込められているという話だ。

 だからといって、僕はひくわけにはいかなかった。

 連中が、故意に山倉へと嫌がらせをしているならば、それを止めなければならない。

「よしっ!」

 気合を入れると、僕は体育倉庫へと向かった。一度は死んだ身だ。なんでも来い――と何度も呟きながら。

 体育倉庫の建物が見えてくる。同時に、見慣れた人影が体育倉庫の前でうろうろしているのが目に入ってきた。山倉である。

 山倉は入り口の前をいったりきたりして、ノックをしようと手をかまえた。その動きが止まり、またうろうろし始める。

 どうやら山倉も僕と同じ考えらしい。

 だが、僕一人でならともかく、山倉一人はさすがに無茶だ。

「山倉?」

 何も知らないフリをしつつ、声をかける。

「う、うあああ! な、なんだ。鷹野君か。ど、どうかしたの?」

 わかりやすい動揺の仕方だった。まるで猫にみつかったネズミのようだ。

「山倉こそ、こんな所でなにしてるの? ここは変な噂が多いから近づかないほうがいいよ」

「う、うん、分かってる。だけど……」

 気まずそうに僕の顔を伺いながら、たまに体育倉庫へと目をやる。その潤んだ瞳が、僕の決意を強いものにしていた。

 山倉を落ち着かせるようと、僕はできるだけ安らぎを与えるよう、柔らかく微笑むと、山倉の手を握った。 

「それじゃあ、行こうか」

「えっ? どこへ?」

「体育倉庫の中さ。間宮涼子に話があるんだろ?」 

 一度はおびえた目つきになった山倉も、最後には深く頷いていた。

 錆びた鉄の扉を開ける。戦車の走行のような仰々しい音をたてて、ゆっくりと開いた。

 中からカビとたばこの混じった、異様な臭いが漏れてくる。僕と山倉は顔をしかめていた。


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