プロローグ(2)
しんみりとした部屋の雰囲気に、自分の気配を交わらせて一体化させる。ふわりと浮かんだような感覚に包まれ、ふいに襲ってくる眠気にうとうとしかけた瞬間だった。
「信也君!」
豪快にあけられた玄関の扉は壁へとぶつかり、爆音を響かせる。
一気に眠気が飛び散った僕はパッと目を全開にしながら、わたわたとのけぞってベッドの上へと倒れてしまった。
「な、なんだよミリア……」
玄関で頭を掻きながら、悪気もなしに微笑んでみせるミリア。ポケットからなにやら取り出すと、それを僕に差し出してきた。
それは一本の青いビデオテープだった。背表紙には『鷹野信也 十七歳』とかかれているだけで、内容についてはなにも触れられていない。
「なんのテープだ、これ」
「あの一週間が収められたテープだよ。それよりちょっと前の話も入ってるらしいけど、久しぶりに見たら面白いんじゃないかって」
「あの一週間のテープ? そんなものがあったのか……」
驚き目を丸くしている僕に、なぜかミリアが自慢げに胸を張っている。別にミリアが録画、編集したものではないだろうに……。
「じゃあ、ここに来るきっかけも入ってるってことだよな?」
「まあ、そうだろうねぇ」
「……それって面白いか? まあ懐かしいかもしれないけど」
手の上でビデオテープを弄んでいると、ミリアが僕の肩をポンと叩いた。
「いまだから落ち着いて見られるっていうのもあるんじゃない?」
「まあ、確かに……」
「わたしも一緒に見たいんだけどね。仕事がなかったら……あっ!」
突然声を上げて、慌てて玄関へと走り出すミリア。後ろ手で僕に手を振りながら、
「あんまり遅くなるとテラに怒られちゃう! それじゃあね信也君!」
そのままこちらが声をかける間もなく飛び出していく。またもや玄関の扉は開けっ放しのままだ。
「まったく、そそっかしいのも昔から変わってないよな……」
玄関の扉を閉めて、再びベッドへと腰を下ろす。手に握られたビデオテープをまじまじと見つめた後、小さくうめき声を漏らしていた。
「確かに今日は非番で、特に予定があるわけでもない……」
ビデオテープに引っ張られるようにデッキにいれ、再生ボタンを押す。最初は砂嵐が流れたテレビから、意味のある映像が流れ出した。
階段から落ちた山倉を、必死に保健室へと運んでいく僕と、保健室の先生が山倉の様態を確認し、救急車で山倉が病院へ運ばれていく姿が映し出される。あの時の映像が、ありのまま映し出されていた。
机と一対になっていた椅子をテレビの見やすい位置へと移動させると、腰を下ろしてテレビへと集中する。
胸のうちはすでに、三年前の自分だった。