10月22日(1)
十月二十二日 水曜日
気がつくと僕は、レンタルビデオ屋にいた。周りにはカップルや学校帰りの学生が、ビデオやCDをあれこれ探索している。
そんな様子を眺めながら、僕はふと思考を張り巡らせる。最初に考えたのは時間が戻ったという記憶についてではなかった。
「今までの記憶は、夢だったのか?」
疲れが溜まっていて、白昼夢を見たという可能性もある。いや、その可能性のほうが高いだろう。
天界に地界、中界にドジな案内人、改めて思い出しても馬鹿げている。
顎に手を当てて思考を繰り返す。まるで夢だという検察側と、夢ではないという弁護側が裁判を行っているようだ。
結論が出ないまま、レンタルビデオ屋の中を歩く。そういえば今日は、いま話題の洋画を借りに来ていたのだ。
大量に並ぶその洋画のビデオを、手にとってみる。だが、おかしなことに、拍子を見ただけで内容が把握できてしまった。
どこで主人公がピンチになるか、どうやって切り抜けるか、ラストはどう終わるか――一つ一つ説明できる自信があった。
だが、僕は今日この洋画を借りにきたわけで、一度だって見ていないはずなのだ。
「やっぱり……さっきまでの出来事は……」
もう一度だけ、脳を回転させる。とりあえず、今日の日付の確認をした方がいい。
レンタルビデオ屋のカウンターには、今日の日付と返還予定日が書かれた、プラスチック製のカレンダーが置いてあった。
そこには十月二十二日 水曜日と記されている。やはり今日は洋画を借りに来た日に違いない。
となると、考えられるのは、すでに洋画を見ており、夢でなく本当に死んでいて、時間を戻されたという可能性……。
「いやいや、そんな馬鹿な……」
まるで自分に言い聞かせるように、声を出して呟く。自分の記憶違いなだけかもしれない。
いろいろと悩んだ結果、僕はその洋画を借りて、家へ帰ることにした。その内容を確認すれば、全ては明らかになる。
もしもまったく知らない内容なら、僕の思い過ごしであるという証明になるし、もしも予想通りの内容なら、その時は……。
カウンターで手続きを終わらせ、家へ帰るために足早に出口へと向かう。
と、なぜか背後から、明らかに僕に向かって近づいてくる足音があった。
顔を向けると、そこには一人の女性が歩いていた。肩までの黒髪は手入れが行き届いているのか、ふんわりとしたボリュームをもっていた。
宝石のように輝く瞳と、モデルを思わせる完璧なスタイル。素足で履いている高いヒールが大人の魅力を存分に感じさせた。
その女性の視線は、確実に僕を捕らえている。だが、僕にとってその女性は赤の他人であり、見覚えもなかった。