表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/25

苦笑

どういう育て方をしたんだと怒鳴ってやるつもりだった。

実際育てたのはきっと他の人間なんだろうけれど。それでも何か一言言いたかった。

ツバキには兄弟というものがいないから、どういうものなのかはいまいちよくわからないのだけれど、それでも一応上の立場であるなら諌めることも可能だろう。

次顔を見せたらそう伝えるつもりだった。

けれどシオンは来なくて。王に呼ばれたあの日から、ぱたりと顔を見せなくなった。

ミモザに聞くのは待っているのかと思われそうで出来なかった。幼稚な意地だと自分でも思う。

悶々としながら日々を送り、気づけば半月が経っていた。

小さなプライドに救いの手を差し伸べてくれたのは、腹が立つことに勇者だった。

「そういえば、ツバキの友達のことだけどさ」

のんびりと何気なく、脈絡もなく放たれた言葉に心臓が跳ね上がる。

「シオンがどうかしたか?」

平静を装いながらさり気なく尋ねる。

「アカシアから聞いたんだけど、ずっと臥せってるんでしょ?いつものことだってアカシアは言ってたけど、やっぱ心配だよねぇ。お見舞いとか行った?」

そういえば、と思い出す。王女は体が弱いらしいと風の噂で聞いたような気がする。その頃ツバキは自分が王家と関わることになるかもだなんて全く思っていなかったから、話半分で聞き流してしまった。

「小さいころから年に何回か高熱を出していたんだって。一度倒れると結構長引くらしいよ。それにしても今回は長いって言ってた。もう二週間だってさ」

二週間。

王と対面したのと同じ頃だ。

そんなに、長く。

知らず知らずのうちに拳に力が入る。

「ツバキ」

「なんだよ」

「鉢植えの花はダメだよ。縁起が悪いからね。ていうか相手お姫様だから、変に何か持っていったら失礼かも」

「なんの話だ」

なにって、とレンは涼しい顔だ。

「行くんでしょ?お見舞い」

「……誰もそんなこと」

「知らなかったでしょ、でも」

ずばりと言われて口を噤む。

「そんで、なんで来ないんだろうって思ってたでしょ。気にしてたでしょ」

わかりやすいんだよツバキは、とレンは苦笑した。

「しばらくあんなに怒った顔してたのにさ。なんか最近不安そうにきょろきょろしてるんだもの。……お姫様が来ないから心配してたんでしょ」

何か言い返そうとして、結局何も言えなかった。

認めるのが嫌だった。

シオンは自分のことを『友達』と言った。『友達』であれば見舞いに行っても構わないだろう。

けれど今のツバキにとってシオンは『友達』ではなく『王の姉』だった。

あんな、じぶんたちのことを考えない王と血がつながっている人間のことを考えるなんて。あまつさえ心配してしまうなんて。そう思うととても嫌だった。

レンは苦笑したままツバキから目を逸らした。

「むっとした顔してる。……ほんと、意地っ張りなんだから」

そういうところが、と小さく呟いたところまでしか聞こえなかった。

「そういうところが、なんだ?」

「ううん。なんでもない」

レンの顔は相変わらず苦笑のままだった。

「さ、善は急げだ。お見舞い行っといでよ」

急かしながらレンはミモザの方を向いて「いいよね?ミモザ」と確認を取る。

「ええまぁ、そろそろ休憩を入れようとは思っていましたが……」

「だってさ。ほら、準備して」

再びツバキに笑顔を向けたとき、それはいつもの笑顔で。

先ほどの苦笑が頭を掠める。

少し寂しげな色が混じっていた気がするのは、気のせいだったのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ