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友達

『契約』の効果は意外なものだった。

お互いの存在がどこにいるか、どういう状態にあるか。

望めばすぐに脳裏に浮かぶのだ。

つまり。

「つーばきっ。どうー?魔法コントロールできるようになった?」

上機嫌な声が後ろから聞こえる。

振り向く必要を一切感じない、本意ではないが聞き慣れてしまった声が。

「うるさいばかしね」

「あ、はい。すみませんでした」

ちょっと小さ目の声とともに気配が遠ざかっていく。

『契約』によって得る力。

勇者にとってはこの上なく必要なものであり、ツバキにとってはこれ以上ないほど不要なものであったといえる。

「なぁミモザ。契約って解除できねぇのか?」

「できない。……というか前例がないためやり方がわからない」

そっけなく返された言葉にはわずかながら憐れみが含まれているような気がして、ツバキは頭を抱えた。

魔法を使えるようになったとはいえ、コントロールするのはできないままだった。

要するに力が強すぎるのだ。

調節をしなくても発動できる魔法、ようするに単に炎を出すだとか風を起こすだとか、そんなのは簡単にできるのだが、蝋燭に火を灯すだとかさざ波を起こすだとか、そんな調整が必要な魔法はできない。

言ってしまえば。

「不器用ねぇ、ツバキは」

「うわぁっ」

耳元で囁かれた軽やかな声に心臓が止まる。

「ふふ、驚かせちゃった」

楽しそうに笑うのは、あの日以来毎日ツバキのもとを訪れるようになったシオン姫だ。

「ミモザ、どう?ツバキは魔法を使いこなせるようになりそう?」

ミモザが困ったような顔をする。

「もともと赤は破壊の色だから、細かな調整が必要な魔法は不得手だと聞いてはいたのですが……予想以上でした」

「あらまぁ困ったわね。ふふ」

困っているようにはとても見えない。

「馬鹿にしてんのかあんた」

「あらやだ、してないわ!面白いなぁって思ってるだけなの」

それを馬鹿にしているというのではないだろうか。

「ってか何しに毎日来てるんだよ」

シオン姫は口に小さく手をやった。

「気にしているならごめんなさいね。ツバキを見ているとなんだか楽しいから、つい」

しょぼんとする姿ですら美しい。

というかしゅんとされると、なんかこう。

悪いことしてないのに罪悪感が。

これが姫パワーというやつなのか恐ろしい。

「タキツスベルス。姫様は心優しい方だ、決してお前を馬鹿にしたいわけではないんだ」

フォローを入れようとしてか、ミモザが口を挟んだ。

「深窓のご令嬢には楽しみが少ない。……さらし者になってやってくれ」

おい、それフォローになってないぞ。全く。

「ったくしょうがねぇな……わかったよ。いつ来ても俺は何も言わない」

ツバキとて妖精のような可愛らしいお姫様を苛めたいわけではない。

同い年くらいの女性など今まで周りにいなかったから、接し方がわからないだけだ。

だからまぁ、実はこうやってシオン姫が毎日来るのが嬉しくないわけではなかったりするのだ。

「いいの?」

ぱぁっと憂い顔が明るくなる。

「わぁ、それではツバキ、私を『シオン』と呼んでくださいな」

「なぜそうなる」

「だっていつでも遊びに来てよいのでしょう?それってお友達ってことでしょう?お友達なら名前で呼び合うべきだわ!」

なんだその三段論法。

「私、お友達って今までいたことがなかったの。ツバキが私の初めてのお友達ね」

無邪気な笑顔にはなぜかツッコミを入れられない。

「これが姫パワーか…」

「違うぞタキツスベルス。これは女子力というものだ」

ミモザが冷静に答える。

「これが女子なら俺はなんだ」

「まさかお前は自分に女子力が備わっているとでも思っていたのか」

残念そうな顔をされた。

やめてその顔。ちょっと本気で傷ついちゃうから。

シオン姫がツバキの服の裾をきゅっと掴んだ。

「ね、ツバキ。名前を呼んでくださいな」

どいつもこいつも名前で呼べ名前で呼べと。

呼んでほしかったのはこっちだ。

ずっとずっと。『タキツスベルスの娘』じゃなくて。

ツバキって、呼んで。

「ほら、ツバキ」

シオン姫がせがんでくる。

ああ、と思う。

そうか、もういるんだ。

名前で呼んでくれる人。『ツバキ』を望んでくれる人。

初めての、友達。

「……シオン」

シオンは花のように笑った。

「なぁに、ツバキ」

胸の中が温かくなる。なんだか鼻の奥がツンとする。

名前で呼び合うというだけで、こんなにも幸せな気持ちになるだなんて知らなかった。

「呼べっていったのはそっちだろ」

ぶっきらぼうなのはただの照れ隠しだ。

「ふふ、そうね。今度からもずっと名前で呼んでくださいね」

わかった、と答えると、シオンはまた嬉しそうに笑った。

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