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安堵

ツバキはぼうっと天井を眺めていた。

命を狙われたことがただショックだった。






「役立たずが」





ずっと昔、言われた言葉だ。

吐き捨てるように、虫けらでも見るような目で言われた。

勝手に期待をかけて。魔法を使えと急かして。できないとわかれば手のひらを返す。

そんな人間を何人も見てきた。

初めは辛かった。そのうち慣れた。それでも心地よいものではなかった。

(役に立てるようになったら…)

魔法を使えるようになったら。

褒めてくれるかなぁと、思った。

父と母の子だからではなくて。ツバキとして見て、必要としてほしいと。

自嘲ぎみの笑みが口元に浮かんだ。

ああ、やっと魔法が使えるようになったら、役に立つようになったら、今度は命を狙われる。

狙ったのが誰かは知らない。理由なんてどうでもいい。

ただ哀しかった。

どうしようもなく哀しかった。それだけ。

こんな髪でなければよかった。こんな瞳でなければよかった。

両親譲りの外見がただ疎ましかった。

こんな外見だから。

髪を一房握りしめる。




『俺はね、お前を花のようだと思ったんだ』




不意にレンの顔が浮かんだ。

この外見を、魔力を持つ者としてではなく、ただ花のようだと。

そう言ってもらえたのは初めてだった。

(お礼、言ってなかった)

嬉しかったのに。とてもとても嬉しかったのに。

今更言うのもなんだか照れくさい。というかあんまりあいつにお礼なんて言いたくない。

元はと言えばあいつがこの世界に来たから。

全部諦めていたのに。それでよかったのに。

ああ、でも呼んだのは自分か。八つ当たりだ。わかってる。

急に連れてこられた勇者だって立派な被害者だ。

そこまで考えたとき、強いノックの音と、ほぼ同時にドアが開く音がした。

「ツバキ!大丈夫!?」

勢いよく開けられたドアからレンが飛び込んでくる。何事かと身を起こしたツバキのもとに駆け寄ってレンはツバキの顔をがしっとつかんだ。

「怪我は!?平気!?」

レンのあまりの動揺ぶりにツバキは驚いた。というか若干引いた。

「どっか痛い!?あぁ、俺でも魔法使えないんだ。薬も持ってないし。でも勇者権限でなんとかする!だからどんどん言っていいからね!」

なんだ勇者権限って。

「まだショックで声も出ない?あぁ、やっぱ俺がついていればよかった」

不安そうな、泣きそうな顔。

こんな至近距離で勇者の顔を見たのは初めてだ。

というか、異性の顔を見たのも初めてかもしれない。

うわ。まつ毛長ぇ。目でけぇ。お前ほんとに勇者か。前世はお姫様だったんじゃないのか。

本来ここでドキドキするのがお約束なのだろうが、とりあえず。

「……痛い」

「!!!!!やっぱり!!!どこ!?」

「ほっぺ」

「えええ!!!ほっぺ怪我したのか!?」

勇者があわてて手を放す。

ツバキは自分の頬に手を当てて勇者をじろりとにらむ。

「おめーがあんまり強くはさむからだよ。怪我なんざしてねぇ」

思い切りよく地面にたたきつけられたのでたんこぶはできたが。

レンは安堵したような泣きそうな顔をした。

「そっか~~~~~よかったぁあああ」

顔をくしゃくしゃにしてレンは笑う。

なんでこんなに嬉しそうなんだろう。

思っただけだったのに、声に出ていた。

レンはきょとんとした。

「なんでって……そんなの、ツバキが大事だからに決まってるだろう」

いやそんな、なにを当たり前のことを、みたいな顔されても。

「大事な人が殺されかけたかもしれないのに平常心でいられるわけないだろ。……ほんとによかった」

なんで俺のことを大事だと思うんだ。

そう聞こうと思ったけれど声がでなかった。

聞けなかった。聞くのが怖かった。

「ツバキ」

黙り込んだツバキの頬にレンがそっと触れる。

「無事で、よかった……」

不意にレンがツバキを抱きしめた。

そう強い力ではなかったから振りほどくことなど簡単だった。

そうしなかったのはレンの肩が小さく震えていたから。

暖かな腕の中でツバキは目を閉じる。

なんだか心地好いから、もうちょっとだけこのままでいさせてあげよう。そんなことを思いながら。

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