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暗殺

一度できてしまえばそれは簡単だった。

自分の体を取り巻く魔力が自分が望む形を取るよう強くイメージするだけだ。

「できるようになった、というより思い出した、に近いみたいだな」

背に翼を生やしたツバキを見てミモザが感心したように呟いた。

「教えるのに時間がかかるかと思っていたけれど、特に教えることはなさそうだ。その容姿はダテじゃなかったということか」

なんとなく居心地が悪くなってミモザから目を逸らす。

魔法が使えればいいとずっと思っていた。

やっと望む自分になれた。それは望まれていた姿でもあった。

それなのにこの気持ちはなんだろう。もやもやする。

そもそも自分は本当に魔法が使えるようになればいいと思っていたのだろうか。

「…ベルス。タキツスベルス!」

ミモザの声に我に返る。

「どうした?ぼーっとして」

心配そうな顔でミモザが問うてきた。

「なんでもない」と答えたのに表情は変わらない。

「久々に魔法を使って疲れたのかもしれないな。部屋に戻るか。無理をさせるわけにはいかない」

有無を言わせずミモザはパチンと指を鳴らす。

景色が一瞬にして白く塗りつぶされ、次の瞬間二人はツバキの部屋に立っていた。

「転移魔法…」

人の身にはかなり高度な魔法を指先だけで発するとは、さすがはエルフ族といったところか。

思ったことをそのまま口にするとミモザは苦笑した。

「私は指を鳴らさなければ発動できない。タキツスベルスならきっとそのうち何もせずに想いだけで発動できるようになる」

ふむ、と自分の手を見る。

魔力の質が時を経るにつれますます濃くなっていくのが見えた。

そのうち、どころか今でも実現可能な気がする。

下級魔導師とて上級魔導師と同じ魔法を使うことは可能だ。ただそれにはより多くの手順を踏まなければならない。魔法をいかに簡略化できるかがそのまま自分の位置を示しているのだ。

やってみようか。

知らず知らずのうちに笑みが漏れた。

このまますべて捨てて。思い入れのある家具たちを捨てるのは忍びないが、最低限のものだけ持ち出して城の外に転移しよう。そうしてどこか遠くへ逃げるのだ。国が亡ぼうとしったことではない。魔法が使えるようになったことだし、こんな場所にもう用など無い。

「…あくどい顔をしているから考えていることがバレバレだぞ」

ミモザが呆れた顔をした。

「え?なんのこと?」

とりあえずしらばっくれることにする。

「言っておくが、城の中から外に転移することはできない。逆もまた然りだ。そういう魔法がかけてあるからな」

そうじゃなきゃ機密盗まれ放題だろ、とさらりと言われる。

確かに。

内心ショックを受けつつ「へーそうなんだー」と誤魔化す。

「そんなこと考えたこともなかったけどなー。まぁそりゃそうだよなー。まぁそんなこと思いつきもしなかったけどなー」

「…嘘が下手だって言われないか」

「いやぁなんのことかさっぱり」

きっぱりと言い切る。

「………」

ミモザが何も言わずじっと哀れむような目でツバキを見た。

ある意味罵られるより辛い。

不意にミモザの目が大きく見開かれる。

「伏せろ!」

声と見えない力に押さえつけられるのはほぼ同時だった。

床にたたきつけられたというほうが正しいかもしれない。

わずかに遅れてガラスが割れる音がし、ツバキの頭があった位置を矢が数本駆け抜けていった。

ふぅ、とミモザが息を吐く。

「間に合った…」

「おい待てどういうことか説明しろ」

這いつくばったままのツバキは勿論自分がもう少しで死んでいたことなど気づかない。

ミモザはガラスを修復させ、矢を消滅させると力を解いた。

ツバキは立ち上がって埃をはたいた。

「なんでいきなり俺は潰されなきゃなんねーんだよ」

じと目でミモザを見る。

「それは…」

ミモザは話そうとして黙った。

「それは?」

「…どこから話せばいいのか」

「全部に決まってんだろ。初めから話せ初めから」

「長くなる」

「いーから」

「いずれ主さまから話がある」

「要するにめんどくさいんだろ」

「…………」

「あ、図星なんだ…」

嘘を吐けないという点においてミモザとツバキは同レベルだった。

ふぅ、とミモザがため息を吐いた。

「…主さまの力は強大だが、中にはそれをよく思わぬ輩もいる。早い話、お前は今暗殺されかけた」

「…はぁ?」

「何かが割れるような音がしただろう。窓の外から射られた矢がもう少しでお前の頭を貫くところだった。私たちが護衛につくのはエルフは人の悪意を感じ取ることができるからだ。とはいえ向こうもなかなかの使い手のようだな。ぎりぎりまで殺気を隠していたから気づくのが遅れた」

たんたんと続けられる言葉にようやく恐怖が訪れる。

「怯えることはない」

ミモザが力強く言い切った。

「お前は私が守る。だから安心しろ。エルフ族は約束を違えない」

励ますような声も今のツバキの耳には届かなかった。

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