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果し状

 梨華は伴太郎への仇討ちを果たすため、果し状を手渡しに奴が普段詰めている南町奉行へと愈々(いよいよ)向かう。申し入れる決闘の日時は明後日の夕刻、廃墟と化した稽古場(道場)の四隅に行灯あんどんを燈し、真剣にて行うという内容だ。

 しかし、決闘と言うのはあくまでも伴太郎をおびき寄せるための手段であって、真剣手合わせなどというのは真っ赤な嘘である。完全な騙まし討ちに等しい。まさに武士道としては卑怯千万であり、いくらこの時代、『仇討ち』の正当性が認められているとはいえ、また、伴太郎が悪業の限りを尽くしているとはいえ、武士の女房として、この振る舞いは許されるのであろうか。

 梨華は、ふと自分のしようとしていることを振り返って余りに理不尽な最期を送ることに少し悔いが残った。

 しかし、もう後戻りなどすることは出来ないし、そんな気は微塵たりとも梨華にはない。


 梨華が、仕置人である能面の男、その手下の狐、狸とともに伴太郎を討つことが出来るか否かは全くわからない。今回のようなほとんど不意打ちと言ってもいいような手段を以ってしても、それは容易なことではないと考えられた。


 梨華はもはや自らの命を、義父と三途の川を隔てた此岸(しがん:現世)に残したまま仇を討つなどということは考えていない。その心は既に義父がありし彼岸(ひがん:あの世)にあった。


――たとえ、刺し違える(互いに命を奪い合う)ことが出来なくとも、仇である伴太郎に父と同じく命奪われるのなら、それはそれでまた、本望なこと……。


 その覚悟だけが、唯一、彼女が許される余地を与えているようにも感じられた。


 梨華は、伴太郎に会わずして命を落としてしまうわけにはどうしてもいかなかった。髪を束ね、着物の袖を束ねるためのたすきを手に持ち、滑舌の悪い狸に言われた通り念のため、一尺八寸の長めの脇差を帯止めに巻いて奉行所へ向かった。

 果たし状は本来当人に手渡しするものだ。人づてに渡すものではない。

 しかし梨華は、伴太郎本人に会わせてもらうことが出来なかった。これは彼女が決して予想していなかった展開ではない。彼女は作戦を切り替え、門の外にいた番方に『大切な恋文』といって必ず本人に手渡してもらえるよう言伝てた。着物の裾をちらりちらりと開いて『ご褒美に期待してね』と言わんばかりにだ。

 番方は、『恋文』をしたため直々に持参してきた女子おなごの格好が、それらしくなく、脇差まで携えていることを異様に感じた。そして、すぐさま伴太郎へ『大切な恋文』を届けに行った。


 かくして、彼女の悲しい結末は刻一刻と迫りつつあった。

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