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〝真実の解〟を見つけて婚約破棄をしたい

作者: さとう
掲載日:2025/10/08

パンの甘く香ばしい香りが染み付いた、古いが清潔な店の2階。朝の光が差し込む時間になっても木の板で窓枠を閉ざした一室でリリアナはすやすやと眠っていた。

町の人気パン屋の娘、リリアナ・ブランシェ(18)。彼女は町の誰もが認める美少女だった。絹のような金髪に夜空を閉じ込めたような深い青の瞳。人形のように整った顔立ちは唯一無二の輝きを放っていた。だが、最近は昼夜逆転の引きこもり、というところが玉に瑕だ。

パン屋の仕事はまだ暗い早朝から始まるが、ここ数年、彼女が手伝うことは全くなかった。幼少期は今店の一番の人気商品、もちもち揚げパンを開発するほど手伝っていたらしいが、今となっては両親からため息混じりに「いつになったら起きるんだ!?」と叫ばれるのが日課だ。

そんなある日、パン屋に一人の訪問者があった。


「ごめんください。この店の娘さん、リリアナ・ブランシェ様にお目通りを願いたい。」


店の扉を開けたのは、黒い服を着た中年の男性、この町の教会の牧師だ。


「ああ、ヨハネス牧師。いらっしゃいませ。リリアナですか?あの子は…恥ずかしながらまだ寝ておりまして…」


牧師は静かに微笑み、手に持った羊皮紙を広げる。


「構いません。実は昨夜遅く、神殿より緊急の伝達がございました。神の啓示により、次の聖女が選ばれたと。」


両親は顔を見合わせる。聖女。それは神に選ばれし者。一時的に神から治癒の力を授かり、人々に奇跡の治癒を施す尊い存在だ。


「そして、その選ばれたお方が…リリアナ様でございます。」


両親は呆然とした。あの、昼夜逆転の引きこもりの娘が、聖女…?


「…リリアナが?でも、あの子は真面目に教会にも通わず、こんな生活で…」


牧師は静かに首を振った。


「神の思し召しは我々人間の理解を超えるものです。聖女の選定は純潔とうちに秘めた力によるものだと言われています。リリアナ様の美貌はその表れやもしれません。」


牧師は申し訳なさそうな顔をして言葉を続ける。


「つきましては、王都にある神殿へ速やかにリリアナ様を引き渡していただきたい。新しい聖女様にはすぐにでも役目を引き継いでいただかねばなりません。」


両親は一瞬の沈黙の後、歓喜した。


「ひ、引き渡す!よろしいのですか!?言質は取りましたからね!リリアナをどうかよろしくお願いします!!」


この両親もリリアナの引きこもりっぷりにはかなり手を焼いていたのである。

こうして、本人に一切の相談もなく、リリアナはパン屋の娘から聖女へと大出世したのである。



リリアナが目を覚めると、見慣れた自室のそれとはかけ離れた雰囲気の天井が目に入った。身体に染み込んだ甘く香ばしいパンの香りは一切しなかった。


「目が覚めたのですね、リリアナ様。」


声をかけてきたのは、白い修道服を着た穏やかな女性だった。彼女こそ前任の聖女であり、リリアナの指導者となるシスター・セシリアだ。彼女はリリアナが目を覚ますとすぐさま聖女としての生活を教え始めた。


「まず、早寝早起きは必須です。神の光は朝の清らかな時間に最も強く降ると言われていますから。あなたの治癒の力を最大限引き出すため、日の出とともに目覚める訓練から始めましょう。聖女の力は健やかな身体と清らかな心から生まれるもの。怠惰は神への冒涜ですよ、リリアナ様。」


リリアナの顔は苦い表情で歪んだ。聞いたことはある。突如若い娘が聖女に選ばれることがあると。しかし、神への冒涜が本望のような自分が聖女に選ばれるとは夢にも思っていなかった。だが、こんな美貌なら仕方ないか、と一人納得した。


3年間続けた昼夜逆転生活は、そう簡単に治るものではなかった。最初の一ヶ月ほどは朝の祈りの時間に意識を保つのさえ一苦労だった。

しかし、シスター・セシリアの指導は、厳しくも愛情に満ちているように感じられた。リリアナの体調を細かく察知し、無理をしすぎないように配慮しているようだった。


(これが聖職者か…なぜ神はこんな素晴らしい人から私に聖女の役目を移したんだ…?)


突如連行されてから2カ月後、リリアナの生活リズムは劇的に改善し、治癒の力もかなりモノになり毎日病院に通い、治癒の施しをしていた。今まで部屋に籠もっていて世界について何も考えていなかったが、医者

や看護師たちのように誰かのために必死に働いている人がずっといたのかと思うと、罪悪感が胸に込み上げてきた。患者の治癒にひと段落つき、お茶を飲んでいると突然、病院の扉が勢いよく開いた。


「リリアナ様!騎士団が魔物の奇襲で重傷者多数!治癒をお願いしたい!」


ボロボロの騎士団からの使いが病院に駆け込んできた。使いに治癒を施しつつ、シスター・セシリアとともに現場に向かうと、見るに耐えない惨状が広がっていた。魔物は倒されているようだが、無事と言える人がほとんどいなかった。

実はリリアナには最近考えていた事がある。聖女は対象に手のひらを掲げて治癒の力を使うのだが、それはもちろん手のひらの形に治癒されるわけではない。手のひらの中心あたりから円筒状に広がり、傷に染み込んでいく感じだ。しかし、なぜ手のひらなのだろうか。神が力を授けるときにそういう契約にしたのだろうか。こんなこと言ったらシスター・セシリアが発狂しそうだが、もし自分が神なら…


「全知全能なる神よ。魔物との戦いにおいて傷つき倒れた勇敢なる騎士たちのために切なる願いを捧げます。彼らはこの国とそこに生きる隣人たちを守るため、恐れることなく剣を振るい、その身を盾としました。彼らの流した血と、受けた傷は献身と愛の証でございます。どうか、慈悲深き神よ、あなたの限りない御力をもって、彼らの肉体を癒やし給え。」


治癒の力は健康な人に使いすぎると毒になるらしい。リリアナが神なら、その力を悪用されたらたまったもんじゃないので、普段はそこそこの治癒の力を与える。そして、どうしても、というときは強力な治癒の力を一時的に使えるようにする。

どうやら、リリアナの考察は当たったようだ。騎士たちの傷がどんどん治っていく。そして、何故かリリアナの視界もやうやう白くなりゆく。


「うおお!聖女様が!聖女様が助けてくださったぞー!!」


騎士たちの雄叫びが聞こえたが、リリアナは意識を失った。 



「どうも。私は神だ。私のことよくわかってるじゃない。あんたセンスあるね。」


リリアナが不思議な声で目を覚ますと、目の前に白い光があった。声を出そうとしたが、何故か出なかった。


「あんた聖女の役目早く辞めたいんだろ?そのためにはこの世界の〝真実の解〟を見つけて……何?もうすぐ『〝真実の愛〟を見つけて婚約破棄をしたい』が始まる時間だと…?!いかん、あれはリアタイと録画、サブスク全部で見ると決めているんだ!!!……というわけで、〝真実の解〟を見つけろ!じゃあな!」 


(真実の愛もじっただけかよ…)



白い光が消えると、目の前には慌てたシスター・セシリアがいた。


「…よかった!目を覚ましたわ!」


それからこの出来事は国中に新聖女リリアナが自分の身体を犠牲にしてまで騎士団を守った、と広まっていく。本当はただ神に呼び出されただけだが。そして、今はなんと、国王に呼び出されている。


「聖女リリアナよ。そなたの功績には目を見張る物がある。第3王子アーサーと婚約し、我が国を支えよ。」


「は??」


周りは「はっ。」と受け取ったらしく拍手喝采である。それから別室に通され、第3王子と初顔合わせをした。


「君が新しい聖女リリアナか。確かに見目は美しいが、所詮パン屋の娘、庶民だろう。何故、王族の私がパン屋の娘と結婚せねばならんのだ!」


「あら、パンが嫌なら雑草を食べればいいじゃない。」


「不敬罪だ!こいつを捕らえろ!…何?!王命だから無理だと?!父上は何を考えているのだ!」


アーサー王子もリリアナと同じ金髪碧眼で大変美しい。しかも、18歳という若さで数々の経済政策を打ち出し、貴族だけでなく平民までもかなり豊かに生活できるようになったのはこの方のおかげだとか。

しかし、初顔合わせの第一声がこれである。性格には少々、いやかなり難があるようだ。もったいなさすぎる王子だ。もったいないおばけが出る。

こんな、どこか遠い何処かで幸せになってほしい人ランキング第1位(※リリアナ調べ)の王子と結婚するわけにはいかない。


「一刻も早く聖女の役目を終わらせて婚約破棄しないと!!」


リリアナは〝真実の解〟を見つけだすべく、徹夜で聖書を読むことにした。シスター・セシリアには、神に授かったこの力をうんぬんかんぬん、と言うといい顔はしなかったが徹夜を許してくれた。

そして、小鳥が窓のそばの木で鳴き始めた頃。


「ようやく見つけたーーッ!」


そう叫ぶとともにリリアナの意識は途切れた。そしてまた白い光が現れる。



「見つけたか。真実の解を。」


「…はい。それは隣人愛です。」


今度は答えるためか声を発することが出来た。


「うむ。あんたならすぐわかると思ったよ。…実は聖女というのはな。有能なのに性格に難ありの奴のための更生プログラムだ。」 


「は??」


神の口から「更生プログラム」という単語が出てくるとは思わず、リリアナはただただ困惑した。


「あんたさ、何でも上手くこなせるだろ?小さい頃は大活躍だったのに、下らない周りの期待と嫉妬に負けちまった。…こりゃもったいないと思ってあんたを聖女にしたんだ。おかげであんたも隣人愛を取り戻した。」


「じゃあ、シスター・セシリアも…?」


あんなに素晴らしいシスター・セシリアも実は昔は怠惰だったりしたのだろうか?


「あの子は真面目すぎて空回りしてたから周りに役に立った感を出せば満足してくれるかなと思って聖女にしたんだ。予想通り満足して今は普通の真面目だ。」


「真面目すぎた…」


「あの子が聖女のときは大変だったよ。神っぽい感じに振る舞わなきゃいけなかったから。」


かなりレベルの違う話でリリアナは驚愕を隠せなかった。


「ところで、あんた治癒の力のセンスあるね。教えられてすぐできるようになってたし。ホントに何でも上手くできるんだね。というわけで、聖女の役目を終えても手のひらサイズの治癒の力を使えるようにしちゃいましたー。」


「は???」



そう言うと白い光は消えてゆき、リリアナの目の前にはシスター・セシリアがいた。


「大丈夫ですか?!…もう徹夜はしちゃだめです!」


「私、聖女の役目終わりました…」


「神に呼ばれていたのですか!」


扉の向こうからドタドタと足音が聞こえてくる。扉が開くと教皇が息を切らして立っていた。


「リリアナ様!神から治癒の力を分け与えられたのは本当ですか!」


「あ、はい」


クソ、ぶっちしようとしてたのバレてたか、とリリアナは心のなかで地団駄を踏んだ。


「それに伴って、次の聖女の啓示を受けたのですが……」


教皇は言いにくそうにモジモジしている。


「どうかなさったんですか?お水を持ってきましょうか?」


シスター・セシリアが教皇に心配そうに尋ねる。


「次の聖女は…アーサー王子です。」


リリアナの脳内には大笑いする白い光が浮かんでいた。



それから、第3王子と聖女は度々大活躍し、歴史に残るケンカップルとなることは神のみぞ知る…


神:リリアナは治癒の力残しとかないとまた引きこもるからな


名前とか適当です。

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