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前で、また別のライトが光った。
「おい、君たち!」
50代の男の人だ。
「ここに入っちゃダメだぞ!」
「すみません」
剛志くんが謝る。
「オレたち、黒い怪物の噂を聞いて」
「黒い怪物?」
男の人が、眼を丸くした。
そして、すぐに「ハハハ!」と笑いだす。
「そんなバカな話になってるのか。どうりで最近、若者が集まるはずだ」
男の人が、チラッと私を見る。
「珍しいグループだね」
「じゃあ、黒い怪物は…」
優希くんが訊くと、男の人は首を横に振った。
「そんなもの居ないよ。誰かが面白おかしくするために流した嘘だろう。そうだ…怪物は居ないが…」
男の人が、悲しそうな顔をした。
「昔、この病院で、ひどい火事があってね。その時に何人も犠牲者が出たんだ。特に高齢の方は逃げ遅れてしまって…その人たちの幽霊を見たって話は何度か聞いたことがあるよ」
優希くんの身体が強張った。
この話も怖いから、仕方ないよね。
私は彼の細身を、そっと抱き締めた。
「さあ。それじゃ、おじさんは奥を見てくるから、君たちは早く帰るんだぞ!」
2人をにらみつけた男の人は、最後に私にニッコリ笑いかけて、廊下を奥に歩いていった。
優希くんは震えて、私から離れた。
剛志くんと並んで、こっちを見ている。
2人とも、顔が真っ青だ。
そんなに、今の話が怖かったのかな。
「どうしたの? 何故、黙ってるの?」
不安になって、私は訊いた。
2人は答えない。
困ったな。
「ねぇ、優希くん、剛志くん。どうしたの?」
私は曲がった背中を出来るだけ起こして、覚束ない細い足で2人に近寄って、枯れ枝のような、しわしわの手を伸ばした。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
大感謝でございます\(^o^)/




