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宝石魔宴  作者: 奏主
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Regret and restart#0 Prolog

 真っ暗闇の水底へ。黒い火が鎮火した時の如き煙をふわりふわりと溢れさせながら、ゆるゆると首を振り、水底へと堕ちていく濁りきった金の瞳をした男が。


「ーーーー痛い。痛い。痛い。……なんで、だよ。どうして」


血を吐くかのように地を這い蹲る。


「……どうして。こんな苦しい思いしなきゃ、ならないんだ。……兄弟姉妹を。……助けたいだけじゃんか……」


 水滴が、水泡と共に落ちゆく。力の伝わらない水底に、拳を振るって、必死で抵抗する。もう、その抵抗も意味の無いものとして潰えてしまえばいいのに。


「……もう。赦してくれ。…いい加減。掬わせてくれ」


 水底に、紫色の光が差し込む。ふと、その光に顔を向ける。そこには、同じ紫の髪をして、ただそこに悠然と佇む、蹲るだけの男によく似た人物が立っている。


「……掬えると?お前が幾度頑張っても。掬えやしなかったのに?この、地獄のような深淵の底から」


 屍山血河が水底に映り込んで……。その瞳に消化されたはずの激情が水底であるにもかかわらず燃え上がる。その炎の色は、赤ではなく……黒だった。真っ黒だ。焦げ付いたような。もう消火寸前で、まだ燃えようと足掻く、弱りきった感情の発露。


「……もう、わかんねえよ。……お前は、誰だ……。誰なんだよ!何度、諦めさせようとすりゃあ気が済むんだ」


当たり散らすかのように胸ぐらをつかんで、咆哮する。


「当たり前だ。誰しも血を吐いて頭をうちつけて、狂気の渦に降り立つような真似をしている己に、助け舟を出したくなるものだろう」


 憐憫をかけるような色の見えない瞳を向けられる。紫色の光が、輝きを増し。胸ぐらを掴んでいた男は、ゆっくりと、項垂れるように、驚いたように、困惑したように。するりと手を離す。


タンザナイト「待て。…それは、どういうーーーー」


紫の光に包まれて。それでもまだ会話しようと口が動いてーーーーーー






++++++++++++++++++++++++++++++







タンザナイト「くそっ、寝覚め悪い。……なんだ、あの、夢……」


 ベッドの上、周りを見渡せば扉があって、遮光カーテンで隠された窓があって、俺の勉強机と分厚い書物が置いてある。どうやら悪夢によってしっかりと布団を握っていたらしい。力を抜いてゆっくりと起き上がって、真横を振り向けば、紫髪、瑠璃色の瞳をした少女が微かに心配そうな表情をして此方を向いて、口を開く。


「おはよ、タンザナイトにぃ。……めっちゃ冷や汗かいてるけど大丈夫なの?」


 夢見心地が悪く、変な汗がかいてピタリと張り付いた紫色の髪をかき分けながら、俺はなんとか微笑んで、


「……はは、大丈夫大丈夫。お前の兄貴だぜ?」


などと嘯く。すると、紫髪の少女が微笑みながら


「そうね。私のお兄ちゃんがその程度でへなちょこになるわけないもんね。……なんてったって私のお兄ちゃんだもんね」


なんて返すことだろう。それに対し俺。ーータンザナイトは、呆れ顔で


「なんというか、その性格この家以外で出すなよ?」


などと言ったあと、苦笑をうかべる。


「はぁ?私がこの世で最も偉いっ」


なるほど。


「本気で言ってるんだな、OK、さすがバカ」


けらけらと笑いつつ、そう言ってやると、紫髪の少女はよよよ、と泣き真似をして


「うわぁ、ひどいっ、ひどいよザナにぃ」


扉が開かれ、廊下の太陽光がじわりと此方を明るくする。


「なーんだなんだまた泣かせてんのか」

「俺が悪いのかこれ!?」


ぎょっ、とした顔でぎゃいぎゃいと騒ぐ。


「うん。まずお前が悪いことにしとく。まぁ大概アメジストが悪いけどな?」

「あ、あれえ?」

「こほん。……エメラルド兄さんと、サファイア姉は?プリズムちゃんも居ないし」


少女、もといアメジストが分が悪いと思ったのか、話題を変える。


ルビー「プリズムはなんでお姉ちゃん呼びしてやらないんだ……?……んまぁ、その3人は任務だよ、事変のな」

タンザナイト「……事変、かあ…」


 事変…それは、人智を超えた力「術式」や「異能」を扱う存在達が巻き起こす怪事件や、災害などの事。そこに、腕の立つ兄貴や姉貴、異能が優秀なプリズムの3人が一同に介す任務となれば。


 “やな予感がするな”。


 少しして、皆でリビングへ。居ない兄弟姉妹もちらほらいるが、まぁその人達も別件でいないようだし。唐突、トントンと扉を叩く音がして、玄関へ続く扉から人がやってくる


「……ルビー副支部長……【TRUMP】からの要請です」


 TRUMP、TRUMPか。…こいつは大方、ルビーの兄貴の部下だろうな。TRUMP。それは世界的な自警団とされ、事変の対処や防衛に追われている。世界政府は、自国の警察や軍人的な存在もいるにはいるが、基本的には面倒事にはTRUMPが派遣されることが多い。中でもルビーの兄貴は、四つある支部の副支部長。今日は非番だったらしいが。そんな事をおくびにも出さずに。


「…………嫌な予感がするが。……なんだ?言ってみてくれ」


 ルビーの兄貴がそういったと同時に、重苦しい空気が流れて、しばしの沈黙が落ちる。いつもならアメジストが茶化すものだが、事情を察してか、黙っている。口を開いたのは部下、…リオンという男だった。


「……和音にて。……超、大型事変発生。……民間人100名死傷、ここから更に、放っておくと増加するかと」

「カルヴァさんは?」


 TRUMP本部、その本部長にして、“人類最強”の異名を持つ、最強の正義。それがカルヴァ・ブロークン。確かにあの人に頼めばなんとかなるじゃないか。基本、カルヴァさんは任務しか受けないらしいし…。


「あの人は既に同レベルの事変を90平定してますので……」


蒼い髪が靡いて、敵を殴り倒してる光景を妄想し、少し苦笑してしまう。確かにあの人ならやりかねないが…。


「いつも通りイカれてんな……!?」


まさしくその通りである。なんなんだあの人……。


リオン「まぁ、……“人類最強”ですからね。あの方は」


まぁ……。こうも信頼されているのは、強さだけでは無いだろうが。彼のその、人徳の為すものだと言うことは、想像に難しくない。


ルビー「はあ。……和音に出向けばいいんだな?……タンザナイト、アメジスト。手帳持っとけ。TRUMP提携組織の手帳」


 TRUMPは、世界政府から指名を受け、事変解決や異能犯罪の取り締まりを円滑に行うため、世界を守るという思想を同じくする組織、例を出すなら、一応俺がリーダー(TRUMPに入っていないのが俺しかいなかった)となっている、【罪宝】などが挙げられる。そんな組織と提携を結び、TRUMP隊員の証明書と同レベルの入国審査をパスできる権限を有する『TRUMP提携組織手帳』が渡されるのだ。…まぁ、和音は世界最大の貿易国だし……入国審査がそこそこ難しいのだが。     

 空港を経て、空路から降り立つ。和風の屋敷が建ち並び、様々な桜が咲き誇る都市へとやってくる


「到着。……ルビにぃが居るなら千人力だな」

「そーだね」

「もっと頼れっ、ふふん、末妹と三男から頼られるのは嬉しいぜ」

「兄弟姉妹に頼られるなら誰だって嬉しいでしょ兄貴は」

「そうとも言う」

「ブラシスコン……」

「そこまでじゃねーから。彼女居るもん」

「言い訳にするのダサい」


ポンポンと軽口を叩きあって、馬鹿らしい会話を繰り広げていたのだが、リオンさんに怒られてしまった。

「私語はそこまでにしてください。任務ですよ。……貴方達には」

「ーーーー【地雷事変】と【粘体事変】の二種類を攻略して頂きたいのです」


ここから。…ここから、“彼”の兄弟姉妹を、世界を。救う為の永い、永い旅路が。再スタートする。

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