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 少し時間は早かったが、あのまま中にいるのもあれなので、外に出ると向こうから馬車が一台やって来るのが見えた。

 

 朝見た馬車と同じだ。遠目で見てもシンプルだが重厚な感じがする。我が家の馬車とは全然違う。段々とゆっくりになり、自分の前で止まった。御者の席には手綱を握っている方と先程の侍従の方が座っている。


 侍従の方が降りてきて、馬車の扉を開けた。そしてこちらを見て確認するように


「よろしいですか?こちらに乗る覚悟はありますか?」


 と告げてきた。覚悟はできている。真っ直ぐに見つめ返して


「はい、よろしくお願いいたします」


 はっきりと告げてから、馬車に乗り込んだ。座ると侍従の方は一礼をしてから扉を閉めた。そして先程と同じ御者の隣に座ったようだ。


 中とを繋ぐ小窓からトントンと叩く音が聞こえたので顔を上げると


「では出発しますね。ゆっくりしていただいて結構ですから」


 優しい声が馬車内に響く。わかりました、と頷くとゆっくりと馬車は動き出した。


 ふぅと一息つく。窓から街並みが見える。こんな風に見るのは初めてかもしれない、とレーアは思った。


 何度か馬車で出かけたことはあるが、必ずといっていいほど、誰かが一緒だったのでずっと下を向いていた。外を見ていると怒られるか嫌味を言われるかなので足元を見ていた。

 

 まぁそんなに出かけたこともないのだが。


 しかしこんなにも違うものなのか、とレーア考えた。座っている部分を少し触ってみてもストリア家所有の馬車とは全然違う。

 街中の道を走っているはずなのにそんなに揺れも感じない。やはり王家所有の馬車は凄い。それに今考えるとストリア家の馬車はかなり古い物だった。もう何年も乗っているし、飾りなどもなく、ガタツキも凄かったと思う。多分直したり新しくするお金などなかったのだろう。かといってまがりなりにも爵位持ちの家が馬車を所有していないというのと外聞が悪い。どうにか維持していたということか。


 だが、それもかなり立ちいかなくなってきたのだろう。


 私を売り飛ばすように嫁がせるくらいに。


 一千万と言っていた。かなりの額である。それくらい借金があるのか。それならばあの二人の社交を少し減らせばよいのに、と思ってしまうが、多分無理なんだろうな。妹カタリナのお相手が見つかるまでは出続けて、売り込むのだろう。そして少しでもよい相手を、と思っているはずだ。


 しかし、これから先はどうなるのか。私は戻るつもりはないし、自分がいなくなるとヨリナス男爵との話も白紙だろうし。


 レーアは知らず知らずのうちに足元を見ていた。


 いけない、いけないと思いながら首を横に振り、顔を上げて窓の外を見る。肩の上にいた虹色の子も一緒に覗いている。


「とてもいい天気ね。あなたの友達も気持ちよさそうに飛んでいるわね」

 

 ニコッと笑ってくれた。それだけでこれから先、何があっても大丈夫な気がした。


 しばらくすると王宮が見えてきて、馬車の速度も落ちてきた。一度止まり、何か話し声が聞こえたかと思うとまた動き出した。どうやら王宮内に入る門の所だったみたいだ。今度はゆっくりな速度のまま進み、完全に止まった。馬車の扉をノックする音と侍従の方の声が聞こえた。


「開けてもよろしいですか?」

「あ、はい」


 返事をするとゆっくりと扉が開き、侍従の方が手を出してくれていた。作法としては習っていたが、こんな風にエスコートされるのは初めてなので、少し慌ててしまう。


 馬車から降りて周りを見渡す。どうやら王宮の馬車止めらしく、何台かの馬車が止まっている。


「こちらになります、ストリア嬢」

 どうやら侍従の方がそのまま案内してくれるらしい。

「あ、よろしければレーア、と」

「ではレーア嬢、私のこともテオ、とお呼びくだされば。鞄もお持ちしますので」


 そんな扱いをされたことがないので慌てたが、大丈夫ですよ、と言われたのでお言葉に甘えた。


 デビュタントの時以来の王宮だが、思ったよりも人がいない。あのときは夜だったのと、やはり夜会だったからかと思っているとテオ様が告げてきた。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。今から行く所は王宮の中ではなく、離れになります。殆ど人に会いませんから。会えないと言った方が正しいかもしれませんが」


 確かに歩いていてもあまり人気がない。王宮というところはもっと人がいっぱいいると思っていた。


「あちら側に行くとかなりの人が働いていますので、かなりの人とすれ違うのですが」

 と、一本向こうの廊下を指さしている。

「こちら側は離れに向かう廊下でして。離れには許可のない者は入れませんので、ほぼこんな状態ですね」

 そう歩きながら説明してくれた。


 庭に出ると素晴らしい花々が咲き乱れている。ここも人がいない。


「こちらも奥庭となりますので、あまりというか殆ど人はいませんので」

 

 その奥庭を抜けると建物が見えてきた。二階建てのようだが、微妙に違うか?と思って見ていると、何か膜?壁?のような紫色のモノが見える。 何?あれ?通れるのかしら、と思って一瞬立ち止まるとテオ様が


「もしかして、防御壁視えてます?」

「え?あの紫色の……」


 見えてはいけないものだったのか、と思っているとテオ様が苦笑しながら


「凄いですね、流石です」

「あれは、何なんでしょうか?危ないものですか?」


 気になってしまって恐る恐る聞くと


「我が主アルフォンス様が離れに張り巡らせている防御壁です。あれによってアルフォンス様の許可のない者は入れませんので」

 ご安心ください、と。

「今回はレーア嬢は許可されてますのですんなり通れますが次回許可のない時に通ろうとすると弾かれると思いますのでお気をつけくださいね」

「あ、はい、わかりました」


 その防御壁?と呼ばれる紫色の所を通ると、黒髪の長身の女性とその隣に銀髪のこれまた長身の男性が目に入った。レーツェル様とアルフォンス殿下だ。


 たどたどしくなってしまったが、どうにか挨拶をすませると、庭に案内された。


 そしてこのあと、自分の人生が180度ひっくり返ることとなる。




 ××××××××××××××××



 次の話までの間に『竜王の契約者』本編90話から95話が入ります。もしよければそちらを読んでいただいてから次話10話を読んでいただけると助かります。


 お手数おかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

本日もありがとうございます。


明日もお待ちしております。

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