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 リリエスタ公爵家でのお茶会から数日。


 帰ってきてからも妹と継母からの妬みによる口撃は凄かったが、いつも通り受け流していた。父も継母と妹から話は聞いただろうに何も言ってはこなかった。だが、そのことが逆に気にはなっていた。


 レーアは自分の部屋で椅子に座り本を読んでいた。時折、虹色の子と今だけ一緒にいてくれる緑色の子を撫でては話しかけていた。二人で仲良くレーアの周りにいてくれている。


 パタンと本を閉じ、考える。


 本当に私でも役に立つことがあるのだろうか。


 小さい時から家族には疎まれ、社交も全然できていない。かといって何か得意なことがあるわけでもない。


『役に立ちますし、大歓迎だと思いますよ』


 レーツェル様がおっしゃっていた言葉を信じてみてもいいのだろうか。


 色々考えているとノック音が聞こえた。侍女から父が呼んでいると伝えられた。何だろうと思いながら父の執務室に向かう。


 ノックをして許可をもらい部屋の中に入ると、父だけではなく、何故か継母と妹もいた。二人とも何だかニヤニヤしている気がする。嫌な笑い方だ。


「相変わらず遅いな」

「……申し訳ありません」

 いつも通りの会話だ。言わないと気がすまないのだろうか。


 くいっと顎を動かしている。近くに来いということか。声に出せばいいのに、と思うが口にはしない。したって無駄なのはわかっている。


 執務机を挟んで父の前に立つとポイっと書類を投げてきた。何だろうと見るより先に声が響いた。


「お前の結婚が決まった」

「………」

 

 横に立っている継母と妹はニヤニヤと笑っている。父が続ける。


「相手はヨリナス男爵だ。引きこもりのお前でも構わんと言っておられる。喜べ」


「……ヨリナス男爵」

 

 思わず口にしてしまった。聞いたことはある。確か……。


「ほんと、喜ばしいことよね。引きこもりで化け物のようなお姉様でもいいって言ってくださるなんて」

「本当に。よく尽くすのですよ。まぁあなたで良かったわ、私や旦那様より年上なんて、カタリナにはとてもとても」

 と笑っている。父より年上ということは五十を越えているということだ。


 レーアは立ちつくす。一気に血の気が引くのがわかった。スカートを握り、何とか意識を保つ。


「………」


 言葉が出ない。


 結婚自体は聞いていたが、相手までは聞いていなかった。普通の相手だと思っていた。知らない、会ったことのない人でもそれが貴族同士の結婚としてどうしようもないことぐらいはわかっていた。


 でも、流石に父より年上の相手だとは思わなかった。一体、どうして。いくらなんでも、と思っていると継母が目の前に来ていた。


「喜びなさいな、あなたみたいな娘でもいいってくださって、さらに一千万もの大金をくださるのよ。これでストリア家も借金がなくなるわ。やっと役に立つことができるわね」

「ありがとう、お姉様。おかげで私は好きな人のところに嫁げるわ。いい人見つけなくちゃ。あぁこれからシュヴァルツ様から招待状が来たら私が行くから」


 二人の言葉が遠くに聞こえる。


 借金?好きな人?いい人?私は?私のことは?


 頭の中が真っ白になって呆然としていると父が立ち上がって、指をさしてきた。


「一週間後、お前はこの家を出ていくんだ。自分の部屋の物なら持っていってもいいが、それ以外は許さん。あぁ服はあちらで用意してくださるそうだ。男爵が自分の好みの服やドレスしか着て欲しくないそうでな。ちゃんとヨリナス男爵のいうことを聞くんだぞ。わかったなら、さっさと部屋に戻れ」


 何を言っているのだろう、この人は。


 今までは父だと思って、唯一の血縁なのだから少しでも情はあると思っていたが、どうやらそれは私の勘違いだったらしい。

 自分の娘を自分よりも年上に嫁がせるなど、何をどうしたらそうなるのか。


 フラフラとした足取りで自分の部屋に戻った。ベッドに腰掛けて、頭がどんよりとしていることに気づく。


 借金と言っていた。この家にはそんなに借金があったのか。継母も妹もあんなにお茶会だ、夜会だのそのたびにドレスを新調していたではないか。私に見せびらかしに来ていたではないか。お金もないのに作って、買っていたのか。なら、借金は彼女らのせいであって、私のせいではない。


 何故、私が、私だけが我慢しなければならないのか?


 ふつふつと心の底で何かがうごめく。涙が一筋流れ出る。すると堰を切ったように溢れ出てきた。とまらない。


 ひとしきり泣いたあと、目元を拭き取り、立ち上がり、手を伸ばす。



「伝言を頼めるかしら」



 緑の子はニコリと笑った。




 



本日もありがとうございます。


明日もお待ちしております。





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