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 その出来事は妹と継母から私に結婚話があると聞かされてから二日後のことだった。


 午後に父の執務室に呼び出され、行ってみると私だけでなく、継母と妹のカタリナもいた。


「遅いぞ」

 久々に聞く父の声は相変わらずだった。私には一切興味がないといった感じだ。屋敷の中でもこの執務室から一番遠い場所にあるのが私の部屋だ。継母や妹より遅くなるのはわかっているだろうに。


「申し訳ありません」

 とりあえず頭を下げておく。しかしこのメンバーで話など、一体何なのだろうか。やはり私の結婚の件なのだろうか、と思っていると父が引き出しから何かを出して机の上に置いた。


 きちんとした封蝋がなされた手紙である。何かの招待状だろうか。しかも三通。


「お父様、これは?」

 妹のカタリナが尋ねると父が手紙を持ち上げて説明する。


「こちらは三日後に行われるリリエスタ公爵家でのお茶会の招待状だ」


 リリエスタ公爵家。


 社交に出ていないレーアでも知っている、我が国の筆頭公爵家だ。

 

 そして現王妃のご実家でもある。


「三通?私とお父様とお母様の分かしら」

 カタリナがお父様に確認している。多分そうだろう。私には関係ないだろうに何故この場に呼ばれたのか。するとお父様が驚くことを口にした。


「いや、私ではなくレーアの分だ」

「「え?」」


 継母と妹がハモっている。私も驚いている。それこそ、何故?だ。


「どういうことですの、旦那様」

 継母が気を取り直してから尋ねる。


「どうもこうもそのままの意味だ。今回のお茶会は女性限定らしい。男性は入れない。招待状も各々名前が入っているため、誰かに譲るとかはできない」


 中々珍しい仕様だ。招待状が名前入りとは。招待した者以外は絶対に入れない、ということか。


「注意書きで念押しされている。招待状に書かれている名前の者以外は公爵家にも入れない。本人が来られない場合は代理を立てるのではなく、その来られない理由を伝えよ、とのことだ。こんなのは珍しいな」

 

 父の説明に継母と妹、私も驚いている。普通のお茶会なら招待状を誰かに渡すことも可能なやつの方が多いのだが。やはり公爵家ともなると違うのだろうか。


 そう思っていると父が続けてきた。


「今回のお茶会は王妃様以外に前王妃のルカリスティア公爵夫人、それにレーツェル・シュヴァルツ様も参加されるらしい」


 レーツェル・シュヴァルツ。


 その名前は今一番このリヴィアニア王国を騒がせている名前と言っても過言ではない。


 以前から前国王のルカリスティア公爵の養い子として噂にはなっていたが、先日とうとう表舞台に出てきた。


 黒髪黒瞳で長身。その姿を見たものは一目で心を奪われるような感じの美貌らしい。デビュタントをすませたばかりなので、まだ十六とのことだが、その立ち居振る舞いからは落ち着いた感じがただよっていると。


 引きこもりのレーアでも耳に入ってくるくらいだ、お会いしたことはないが、とても綺麗な方だというくらいの認識はある。


 さらに話題になっているのはその『立場』である。


 前国王のルカリスティア公爵の養い子というだけでも後ろ盾としてはかなりなものだが、さらにその立場を強固にしているのが『黒竜』である。



 ここリヴィアニア王国や近隣国では何十年、何百年かに一度くらいで『竜化』といわれる、その名の通り自身の身体を変化させ、竜になる者が現れる。


 その『竜化』した者が現れた国は『加護』を施され、安寧と繁栄が約束される。


 その『竜』に先日レーツェル・シュヴァルツ様が変化されたのだという。それだけでも凄いことだが、さらに凄いのが、そのお相手である。


 『竜化』した者には一緒に行動する『契約者』が付く。それは『竜化』した本人が『契約者』を指名すると言われている。今回レーツェル様が指名したのは王弟殿下であらせられるアルフォンス殿下だ。


 噂によるとアルフォンス殿下の方から頼み込んだとは言われているが、詳しいことはわからない。でも、『竜』と『契約者』の発表の際、お二人の婚約も発表されたらしいので、仲が良かったのは間違いないのだろう。


 ルカリスティア公爵の養い子で拾い子のため、元々の身分はわからず、平民扱いで、魔力も持たず、黒髪黒瞳という、このリヴィアニア王国では他にいない風貌であるレーツェル様のことは今この王都内で知らぬものはいないし、皆、応援していて、とても暖かいムードである。


 引きこもりのレーアでさえ、そのくらいの話が耳に入ってくるのだから、かなりのことなのだろう。


 そしてまだ発表されたばかりとのこともあり、夜会やお茶会にはほとんど現れたことがない。そのレーツェル様がいらっしゃるというとこでかなりの注目度なのだとか。


 レーアの隣で継母と妹のカタリナがはしゃいでいる。


「え、じゃあ王妃様やシュヴァルツ様にもお会いできるの?すごーい」

「凄いわね、ご挨拶できるのかしら?お近づきになれるといいわね、カタリナ。あなたなら齢も近いし」


 二人ではドレスはどうしましょうか、とワイワイやっている。三日後なら新たには無理だろう、手持ちからとなる。


「というわけでお前も行ってこい。なに、挨拶したら端に寄っておけよ、くれぐれも目立たたないようにな」

「………わかりました」


 話が終わり自室に戻って、ベッドに腰掛ける。


「………お茶会か」

 ため息とともに漏れた一言に虹色の友達が心配そうに顔を覗いてきた。私は慌てて友達の頭を撫でる。


「大丈夫よ。久しぶりだから緊張しているだけ」


 そうなのだ、お茶会なんてまともに出たことがないのだ。一度だけよくわからない人のお茶会に連れて行かれたことはあるが誰とも話さず終わったので、お茶会自体に良い思い出がない。


 それがいきなり公爵家のお茶会である。普通なら子爵家の我が家が出られるようなものではないだろう。どういう基準で招待状を出したのかはしらないが、レーアにしたら最初で最後になるのではないかと思うくらいのレベルだ。


 レーアは虹色の友達を撫でながら


「……確か、黒竜様ってあなた達の王なんだっけ?」

 そう尋ねるとニコッと笑って頷いている。


 昔何かで読んだことがある。『竜化』した者は精霊達の王にもなる、と。精霊達は無条件で竜に従うのだと。


「会えるといいわね」


 レーアの声に友達は微笑んでいた。




明日からは一日一話、21時過ぎに毎日更新となります。

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