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 三人が呆然としているとベルンハルト国王陛下が声をかけてきた。


「今後のことは帰って三人で決めるがいい。あぁ最後にもう一つだけ言っておくが、金がいるからといって領地の税金を上げるのは許可しないからな」


 ビクッとなった私に気づいたのか、更に続ける。


「お前達が作った借金だ、領民に負担させるのは間違いだろう。ただでさえ来年、収穫は厳しいものになるかもしれないしな。寧ろ税金を下げてやれ」


 国王陛下のその言い方にひっかかった感じがしたので、どうにか声を出し、尋ねてみた。


「な、何故収穫が厳しくなると?どうして……」


 どうして来年のことが今わかるのか?天候などはこれから先どうなるかなどわかるはずがないのに。


 ベルンハルト国王陛下はわからないのか?と手を組み直してこちらを見る。何だろう、何故だ。ふぅと溜息を一つついた国王陛下がゆっくりと話し出す。


「知らないからできたことなんだろうな。この国は精霊によって色々な恵みをもらっている。もちろん民の働きも大きいが、その働きに対して精霊達も返してくれるのだ。だが貴様等はその精霊に愛されし娘を蔑ろにした。ということは精霊に愛想を尽かされても仕方のないことをしたということだ。レーア嬢がストリア家から離れた今、精霊達も離れたと思った方が良い。まぁ今までのレーア嬢に対する行いにしてはよくしてくれたとは思うよ。宥めてくれていたレーア嬢に感謝だな」


 もう何も言えなかった。妻もカタリナも何も言えないまま呆然としている。


「領民に罪はないから、何らかの対策はしたいがストリア子爵の対応次第だな。レーツェルが頼めば精霊達は戻ってくれるとは思うが、このままではレーツェルが頼むことはない。どうすれば頼めるかはその頭で十分に考えてくれ。領民を蔑ろにはするなよ、その場合は王命を出すことも考える。そうなると全て剥奪となると思ってくれてもかまわない」


 全て剥奪、そのことは何を意味するのか。王命が出るということは爵位返上ではなく、爵位剥奪だ。

 

 手元には何も残らない。領地も屋敷さえも。三人、平民となり、働くことになる。もしかしたら王都にさえ住めなくなり、地方に行かなければならないかもしれない。それだけは……と手を握りしめて考えていると最後の通告とも取れる言葉がベルンハルト国王陛下の口から発せられた。


「爵位返上か、そこの娘をヨリナス男爵に嫁がせて、借金を返すか、だな。返上なら領民のことはこちらが考えてやってもいい。彼等に罪はないから悪いようにはしない。ヨリナス男爵に嫁がせて借金を返したとしてもその後は今までのようにはいかないと思え。少しでも領民の負担を増やすようなら、わかっているな?」


 ―――剥奪、だ。


 そう冷たく突き放された三人は兵士達に追い立てられるように謁見の間から出された。


 気づいた時には来たときと同じ我が家の古い馬車に乗っていた。


 行きと違い、誰も何も話さない。話せない。これから先どうすればよいのか。たった数日でこれ程までに人生の岐路に立たされるとは考えていなかった。


 あの娘のせいで。


 いや、せいではない。今までレーアにしてきたことの報いが全て返ってきただけだ。そしてレーアは今までのことを全部捨ててやり直して行くだけだ。


 ただそれだけだ。


 もうすぐ屋敷に着く。長い、長い夜が始まる。

 



 ******************


 ストリア子爵家の三人が兵士によって謁見の間から追い出されるのを見送ったベルンハルトとイーヴォがふぅと溜息をついていた。


「うまくいったな」

「そうですね。言ってはなんですが賢くなくて助かりました」


 ベルンハルトはクックと笑っている。


「だな。まぁ元々爵位持ちの器ではなかったということだよ。さてどうなるかね」

「あの娘が素直に嫁ぐとも思えませんが」

「だろうね。ま、どっちでもいいさ」

「とりあえず領地を引き継げる者を選定しておきます」

「よろしく頼む」


 ベルンハルトは立ち上がり、書類をイーヴォに渡してカールと一緒に謁見の間から出ていく。自分の執務室に向かう。歩きながらカールがポツリと呟く。


「レーア嬢はしばらくヴァイツェン様の屋敷で暮らすそうですよ。ライラ様と二人で面倒を見てくれるそうです。一ヶ月ほどの予定で、その後は魔道士部門の寮に入ると」

「凄いな、あの二人にそこまで気に入られたのか」

「そうですね、ここまでの方は初めてかと。まぁレーツェル様に気に入られた時点で凄いですけどね」


 ベルンハルトはニヤッと笑って


「レーツェルの有用な人材を見つける嗅覚は凄いからな。昔からレーツェルが気にしてきた人物は皆出世しているから」

「何か特殊な力があるんでしょうかね」

「さぁ。お兄ちゃんとしては可愛い義妹と弟のためにできることを頑張るだけさ」

「ではこの後のお仕事も頑張ってくださいね」

「………ちょっとくらい休ませてくれよ」

「ちょっと、だけならいいですよ」


 後ろについていた騎士達が二人のやり取りに微笑んでいる。侍従のカールはベルンハルト国王陛下が敵わない数少ない人物の一人だ。


「では、お茶をお淹れしますね」

 と執務室の扉を開けた。



本日もありがとうございます。


すぐさま19話を投稿いたします。

それでこの話は完結となります。


よろしくお願いいたします。

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