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「……単純な方法……?」
レーアがヨリナス男爵に嫁げなくなった今、一体どんな方法があるというのか。
「とても単純だよ。ヨリナス男爵に嫁ぐのはストリア子爵令嬢、としか取り決めしてなかったんだろう?ならもう一人いるじゃないか『ストリア子爵令嬢』が」
ベルンハルト国王陛下のその言葉を聞いて一瞬意味がわからなかったが、あ、と思って振り向くと妻もそちらを見ていた。
カタリナ・ストリア子爵令嬢を。
「………え?」
視線の先のカタリナは目を見開き、変な声を出した。
カタリナ自身も意味がわかったのか、スカートの部分を握りしめて、カタカタと身体を震わせながら
「………あ…え?……わ、私…」
私も妻も声を出せないまま、カタリナを見ている。
「ストリア子爵令嬢がヨリナス男爵に嫁げばいいのだろう?間違いないよね?」
ベルンハルト国王陛下がとても良い笑顔で問いかける。確かにそうなのだが。
「そ、そんな!カタリナがあんな男に嫁ぐなんて!」
叫んだのは妻だった。カタリナもハッと我に返ったように妻にすがりつく。
「そうよ!何で私が!お姉様が嫁ぐのでしょう?嫌よ!何でそんな年上に……」
「あんな男とは失礼じゃないかい?君達の借金を返してくれるんだろう?」
「そ、それはそうですが……その男爵は…」
こちらが言い淀んでいると国王陛下はスッと手をこちらに指し示しながら
「何を言っているんだい?子爵も夫人も。先程とてもいい相手だと言っていたではないか。年齢などは関係ないのだろう?ならその娘が嫁ぐのに問題あるまい。それとも先程の言葉は嘘だったとでも?この私に対して嘘を言ったのかな?」
誰も何も言えない。言えなくなった。国王陛下に対して嘘を言っていたというのなら、それはそれで問題となる。さらに国王陛下は微笑みながら続けてくる。
「君達が作った借金は君達で返さないと、ねぇ?子爵夫人と子爵令嬢」
「……それは、そうなのですが…」
何とか声を絞り出す。
「まぁ他にも返済方法があるならそれでもいいけどね。私が決めることではないから。ヨリナス男爵なら正妻として迎えてくれるのだろう?立場的には子爵令嬢から男爵夫人だ、良かったね。あぁここ数年、ヨリナス男爵夫人は何人も変わっているように思うけど、イーヴォ、訳を知っている?」
いきなり何を言うのかと思っていたら宰相様はそうですね、と呟き始めた。
「私が知っているだけで、四人?五人ですか。皆数ヶ月から数年でお亡くなりになっておられますね。届けは病死となってはおりますが」
「……え?」
思わず出た声に国王陛下は驚いたように
「……え、って、知らなかったのかい?仮にも娘が嫁ぐ相手だよ、少しも調べてないってことはないよね。もしそうなら貴族としてだめだよね、仕事ちゃんとしてる?」
知らない知らない、そんなことは知らなかった。
後ろで聞いていた妻と娘の顔色は蒼白だ。私も同じようなものだろう、きっと。
「……それって…どういう…」
カタリナが青褪めた顔でどうにか声を出す。ベルンハルト国王陛下は澄ました顔で答えてくる。
「どういうことだろうね。身体の弱い方ばかり嫁いだのかな?大変だよね、ヨリナス家も」
そんな訳はないと三人とも気づいている。どう考えてもおかしい。お金はあるが問題のある家だとは聞いていた。だが夫人がそんな何人も亡くなっているなんて聞いてない、教えてもらっていない。
―――教えられなかった。
そういうことは表立っては話に上がらないだろう。だからこそ、少しでも探って調べればわかったことであって。
どうせレーアが嫁ぐのだからと調べなかった自分が無知なだけだ。
「まぁヨリナス家はお金はあるからね。納めるものもきちんと納めているし、仕事はきっちりしているし。問題になるのは夫人がよく亡くなるってことぐらいかな。あとは問題ないからそこの娘も安心して嫁げばいいよ。男爵夫人になれるし借金も返せるしね。自分達で作った借金だもの、自分達で返さなきゃね」
と、こちら側の三人の表情とは反対のとてもにこやかな表情で告げてきた。
あまりにも色々なことがありすぎて動けない三人にさらに国王陛下は告げてくる。
「あぁもう君達とは関係ないから気にしないかもしれないけど、レーア嬢のことは心配しなくていいよ。私やアルフォンスが責任を持つから。いいところに嫁がせるからね」
「……は?それは一体どういう…?アルフォンス殿下は怒っているのではないのですか……?」
陛下やアルフォンス殿下が責任を持つとは?言葉の意味がわからず、思わず変な声が出てしまった。レーアも借金ができたのではないのか?アルフォンス殿下や黒竜様を怒らせるほどの何かを壊して、その弁済のために働かせられるのではなかったのか?
訳がわからないといった顔をしている三人にベルンハルト国王陛下はさらに続けてきた。
本日もありがとうございます。
お兄ちゃん本領発揮です。
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