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三人とも、自分達もお茶会にお呼ばれだと思い、慌てて登城準備をして外に出ると、待っていると思っていた王宮からの馬車はいなかった。仕方がないので我が家所有の馬車で向かう。
この馬車もだいぶ傷んでいて、元々安いせいもあるがかなりの振動がある。レーアを嫁がせて、金が入ったらまず買い替えたいものの一つだ。
しかし先程のレーアの迎えは王宮からの立派な馬車だったのに、何故家族である私達の迎えはないのか、と考えたが、王宮からのお誘いに浮かれていた私はそんなに深く考えてはいなかった。
妻と娘も、やはり私達も呼ばれないとね、あの娘だけのはずがないわ、とかウキウキな気分がその言葉でわかる。自分もそう信じて疑わなかった。
王宮の馬車止めに着いて、降りると侍従姿の男が近づいてきた。朝、我が家に来た男と服装は同じだが、違う男だ。
「ストリア子爵とそのご家族ですね。こちらへ」
とだけ告げて、歩き出した。名乗りもせずに冷たい視線を向け、早足で歩き出すその姿に、なんと失礼なことかと声を出しそうになったが、なんとか抑えて三人でその男性の後をついていく。
こちらを振り返ることもなく王宮内の廊下を進んでいく男に対して、少し息が切れてきた妻と娘が声を出す。
「……っなんて失礼な感じなの。王宮勤めかもしれないけど、あくまで使用人でしょ?私達の方が上なのに」
「……本当に。なんとかおっしゃったら旦那様」
自分は付いていくだけで精一杯で、声をだせなかった。かなり奥まできたところで、ある扉の前でその男は立ち止まった。クルッとこちらを向き、
「国王陛下がいらっしゃるまで静かにお待ちいただくようお願いいたします」
国王陛下?アルフォンス王弟殿下と黒竜様ではないのか?そう頭の中でぐるぐるしていると、重厚な扉が開いた。侍従の男が一礼して中に入っていく。妻と娘は気後れしたのか、私に先に入るよう促してきた。
「……あなた」
「……お父様、先にいかないと」
「……あぁ」
なんとか足を動かし中に入ると前に階段が見え、上に椅子が置かれている。豪華な椅子だ。そこまでも赤い絨毯がひかれている。どうやら謁見の間のようだ。
ストリア子爵は一応爵位持ちだが、子爵という下位の立場のため、このような国王陛下と一対一になるような謁見の間には入ったことがなかった。周りの柱や壁も重厚な造りで、その雰囲気に圧倒された。生唾を飲み込むほど自分が緊張しているのがわかる。先程まで声を出していた妻と娘も何も言えなくなっている。
どれだけそこに立っていたのかわからなくなってきた。長いような気もするし、短いような感じもする。
入ってきた扉とは違う奥の扉が開き、何人か入ってくるのが見えた。ベルンハルト国王陛下だ。間違いない。
三人、ぼおっとしていると前に立っていた侍従姿の男がこそっと呟く。
「頭が高いですよ」
その言葉にハッとなり、頭を下げる。ベルンハルト国王陛下は階段を上がり、椅子に座る。横には宰相のイーヴォ・スタアスト侯爵子息だ。さらに騎士の方々は国王陛下の横に二人と階段下に六人ほど。
「カール、ご苦労だったな」
ベルンハルト国王陛下の声が響く。自分達の前に立っていた侍従姿の男が一礼して横に移動していった。貴族である私達より先に声を掛けるということは彼の方が立場は上だと示されたようなものである。周りにいる騎士も皆貴族出身の者であるため、実質この場で一番下であるも同然だ。
三人は頭を下げながら、心中穏やかではなかった。一体私達は何故ここにいるのか。お茶会ではなかったのか、レーアと同じように呼ばれたのではなかったのかと。どうすればよいのかさえわからないまま、動けずにいた。
「ストリア子爵とその妻と娘だな」
落ち着いた少し低い声が響いた。
「……っは、はい。このたびは」
「堅苦しい挨拶はいらん。時間もないのでさっさと本題に入る。イーヴォ」
慌てて出したちょっと上ずった声を遮られる。ベルンハルト国王陛下は隣に立っていた宰相様に手を出すと何か書類を渡されて目を通している。一体何が書いてあるのだろう、とその動作を見ていると一読した国王陛下がこちらに視線を動かす。その眼力と雰囲気に圧倒されて三人とも動けない。もう一度頭を下げる。
「いくつか確認したいのだが」
「は、はい何でしょうか?」
どうにか返事をする。物凄い緊張感が自分を包んでいるのがわかる。
「レーア・ストリアはお前の娘で間違いないな?」
「あ、はい、その通りでございます」
「…………」
何やら少し考えている。一体何なのか。レーアが一体………。
「……あ、あのレーアが何か……」
「聞かれたことだけ答えるように」
先程カールと呼ばれた侍従が指示をしてくる。カッとなりそうだったが、抑える。でも何故侍従如きにこのような言われ方をされなければならないのか。妻達もそう思ったらしく、顔が少し怒っているのがわかる。
「では、レーア・ストリアとその女は?継母にあたるようだが、養子縁組はしているのか?」
今度は妻の事だ。何故そのようなことを尋ねてくるのか訳がわからないが大人しく答える。
「い、いえ、妻とレーアは養子縁組をしておりませんが、そのことが何か……」
侍従がギロッと睨んでくる。余計なことは喋るなとの牽制だ。
「そうか。ならレーア・ストリアの戸籍上の繋がりがあるのは子爵だけ、ということで間違いないな?」
「あ、はい。間違いございません」
一体何の確認なのか。
「わかった。なら本題に入ろうか」
ベルンハルト国王陛下の瞳がこちらを睨みつけ、冷たい声が部屋に響いた。
本日もありがとうございます。
やっと影の主人公を出せました。
しばらくお兄ちゃんにお付き合いくださいませ。
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