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『竜王の契約者』スピンオフ第二弾となります。こちらだけでもわかるようには仕上げてありますが、もしよろしければ本文も読んでいただけると嬉しいです。本文の65話あたりからリンクしております。


 私には物心ついたときから『友達』がいた。



 他の誰にもその『友達』が視えないと知ったのは八歳くらいの時だった。他の子に話しても、大人に話しても不思議な顔をされた。

 そこにいるよ、と説明しても変な顔で見られるだけだった。


 でもいつも自分のそばにいてくれた。


 楽しい時も、悲しい時も。

 


 母親だと思っていた人が継母だと知った時も、『友達』は私の近くにいてくれた。


 妹しか可愛がらない継母と父親。元々父と私を産んだ母親は政略結婚だったため、そこに愛情などはなかったようだ。母親そっくりの私にも興味はないらしい。父親と継母は私の母と結婚する前からの恋人だったらしく、母が亡くなってすぐに後妻としてこの家にやってきた。

 継母とそっくりな妹は金髪で青い瞳で誰が見ても可愛らしいと思う容姿だったため、蝶よ花よと育てられた。

 対する私は薄い金髪に薄い紫色の瞳で、小さな時から一人で何かに話しかけている、と気味悪がれ、必要最低限のことしか与えられてはこなかった。


 殆ど屋敷からも出してもらえることもなく、義務的に十六歳の時にデビュタントはさせてもらえたが、既製品の一番シンプルなドレスだった。


 今年デビュタントだった妹のドレスはとても手の込んだデザインのものだった。王宮に出かける際にとても自慢げに継母と共に私の部屋に見せにきたのだ。


「レーアお姉様どう?素敵でしょう?」

 妹のカタリナがスカートの裾を持ち上げてクルッと回って見せてくる。

「本当に。カタリナだから着こなせるデザインだわ」

 継母も笑顔で話してくる。


「そうね。お似合いだわ」

 ポツっと呟いた私に

「せっかくのカタリナのデビュタントなのよ!もっと明るくできないのかしら」


 継母のその言葉に、ごめんなさいと答えるしかなかった。私に何を言えというのだろうか。


「仕方ないわ、お母様、だってこんな化け物みたいなお姉様だもの。今日も何かとお話していたのかしら?せっかく見せに来たけれど意味がなかったわ。お母様、遅れてもなんだし行きましょう」

「そうね。早めに行って色んな方に挨拶しないとね。あなたの可愛らしさをもっと広めないと。どうしましょう、王族の方に結婚とか申し込まれたら。困ってしまうわね」


 二人で話しながら去っていった。何だったんだろうか今のは。


 窓に近づき外を見ると馬車に乗り込む三人が見えた。父親も楽しそうだ。


「私の時の顔とはえらい違うわね……」

 

 思わず呟いた。私の時には笑顔一つなく終わったのに。


 馬車が走って行ったあともしばらく外を眺めていたら、肩に『友達』がやって来て心配そうな顔をしていた。私は『友達』の頭を優しく撫でで


「大丈夫よ、私は。あなたがいるもの」


 頬を擦り寄せるとその虹色に視える『友達』は安心したようにニッコリと笑った。そして他の子達も寄り添ってくれた。



 私、レーア・ストリアは子爵令嬢とは名ばかりだ。社交らしい社交も何一つしたことはない。ない、というより「させてもらえない」と言った方が正しいか。

 父親曰く


「気味悪い者をおいてやってるだけ、有り難いと思え。お前みたいな者を表に出すと碌なことにならん。カタリナの邪魔にならないようにな」


 だそうだ。父親が可愛いのは自分が愛した継母の娘のカタリナだけ。好きでもなかった女との娘である私は関心がないらしい。ならなんで私をもうけたのか。本当に不思議でならない。


 二つしか変わらない私達姉妹はかなりの差をつけられて育った。


 玩具や絵本、ドレスなど、私には今までで両手で数えられるほどしか与えられていない。もしかしたら片手でも大丈夫かも。


 食べ物だけは、とりあえず、食べさせてはもらえた。痩せこけたりしていると体裁が悪いと思うのだろうか。


 でも、それだけだ。


 顔も知らない母についていた侍女が乳母として私を育ててくれたが、五年前に病で亡くなってしまった。


 それからは本当に一人きりだ。いや『友達』がいるから一人きりではないか。この子達がいなかったら私はどうなっていたのだろうか。誰にも話してもらえず、話しかけもせず。


 このまま一生、こうやって生きていくのだろうか―――。


 でも、変え方がわからない。


 どうしたらいいのかがわからない。部屋からも出られないし、外に出るなんてもってのほかだ。メイド達が見張っている。父に何を言われているのかは知らないが、出ようとすると止められるし、報告されて、呼び出しだ。


 もう疲れた。やはり私はこのまま、なのだろうか。




「………え?今なんて……」

「聞こえなかったの、お姉様。お姉様の結婚が決まったらしいわよ」


 用事もないのに人の部屋に入ってきて、いつも通りさんざん罵ったあげくに、そうそう、と思い出したようにそう告げてきた妹。

 

 結婚?私が?どうして?


 呆然としている私に、あらここにいたの、と入ってきた継母に妹が確認するように聞いている。


「ねぇお母様、お姉様の結婚決まったのでしょう?」

「あら言ってしまったの?だめじゃないギリギリまで内緒にしておかないと」


 ごめんなさ〜い、と小馬鹿にしたような声が聞こえる。


 継母は私の方を向き


「とてもいいお話なのよ、あなたのような娘でも気にしないとおっしゃってくれたみたいだし。旦那様から正式にお話があると思うけれども、断るなんてしないわよね?」


 ニヤッと笑って、妹と二人、部屋を出ていった。


 残された私はベッドに倒れ込んでしまった。


 ―――結婚。この私が?向こうは会ったこともないような私で本当にいいのだろうか。


 でも、この家から出られるのも事実だ。



「………少しは希望を持ってもいいのかしら」



 

本日3月3日21時過ぎに2話目を投稿いたします。

明日以降は21時過ぎに1話ずつ、毎日投稿いたします。


よろしければブックマーク、評価等、よろしくお願いいたします。

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