7.隠されていたもの
家の東側の探索をして見つけた横穴に入り、中の探索を続ける。
もし中がダンジョンになっているなら途中で引き返し、充分な準備をして他の二人を連れてくる予定だったが、意外にも早く最奥に到達する。
そして、横穴の奥で見つけたものは……。
「……女の子……?」
周りにガラクタのようなものが散乱しており、その中心部に女の子は座していた。
一糸纏わぬ姿に驚いたものの、普通の人間とは異なる部分が目を引いた。
それは、胸の下に埋め込まれている球体。
「ゴーレム……か?」
ゴーレムとは人間が造り上げた魔導生命体で、コアと呼ばれる核となる球体を身体に埋め込まれた存在。
このコアに魔力を供給することで稼働させることができ、その後はゴーレム自体が魔力を自力で供給するため、一度稼働させれば損傷がない限り半永久的に活動を続けることができる。
しかし、目の前のゴーレムは活動を停止している……もしくはまだ未稼働なのだろうか。
「呼吸はしていない……脈もないな」
念のため確認したが、人間であるという可能性はこれで否定された。やはりゴーレムで間違いないようだ。
……となると、魔力を供給すればおそらく起動するだろう。
「……とりあえず、二人に相談してみるか」
**********
「ゴーレムなんて初めて見たにゃ!」
「ああ、確かに今では廃れている。全盛期は100年ほど前だと言われているな」
ゴーレムは永久機関を持ち、普通の人間の数倍の力を持つと言われている。
そんなゴーレムがなぜ廃れてしまったかというと、ゴーレムの核となるコアの製法が一子相伝の秘術であるためだ。
そして、ゴーレムは敵国からは脅威とみなされ、量産される前に作り手が暗殺される事件が多発した。
作り手は暗殺の恐怖に怯えて術を使えることを隠し、また自分の子に危険が及ばないように術の継承を止めてしまった。
……そんな過去があったため、現存するゴーレムの数は非常に少ないとされる。
戦争の「隠し玉」として所持を秘匿している国もあるらしいが、あくまで憶測の域に過ぎない。
「……この子は、コアに魔力を注げば再稼働するだろうか?」
「おそらく。ゴローはこのゴーレムを手駒にするのか?」
「いや、このままじゃかわいそうだなと思っただけなんだ」
この子もおそらくは戦争の道具として作られたんだろう。
でも、ゴーレムも自分の意志を持つ存在だ。
形は違うかもしれないがミィやリーフのような亜人に属する存在と考えてもいい。
そんな子がここでただ朽ちるのを待つだけなのは不憫に思えてしまう。
「幸い、この山奥は戦争なんてない。ゴーレムだとしても、普通の生活を送って幸せになる権利はあると思うんだ」
「……ゴローは優しいにゃ。だからミィもゴローが大好きににゃったんだけど……ミィも手伝うにゃ!」
「ふふ、そういうことなら私も手伝おう。魔力はコアに触れることで注ぐことができるはずだ」
「よし、じゃあやってみよう!」
俺たちはゴーレムのコアに手を重ね、魔力を注ぎ始める。
注ぎ方は分からなかったものの、ただ触れるだけで身体から魔力が吸われていく感覚を覚えたので、おそらく勝手に吸収されるのだろう。
「なんだか不思議な感覚にゃー……」
「そうだな、スキルを使った時とはまた違った感覚だ……」
「二人とも、無理はするなよ。魔力切れを起こす前に手を離し……うわっ!?」
突如ゴーレムのコアが目が眩むほどの光を放った。
穴の中の暗闇は一瞬にして光に満たされ、そして徐々にまた暗闇が辺りを支配し始める。
「す、すっごい光だったにゃ……」
「これで起動できたのか……?」
俺たちはゴーレムの方を見ると、先程までくすんでいたコアが透き通るような鮮やかな色になっていた。
おそらく魔力を注いだためとは思うが……当のゴーレムの反応はない。
呼吸もなく、脈もないため、起動に失敗したのだろうか。
念のためもう一度コアに手を当ててみる。しかし魔力を吸われる気配はない。
「……もう魔力は吸収されないみたいだ。だからコアには充分な魔力が溜まっているはずなんだけど……」
「もしかしたら魔力が定着するまでに時間がかかるのかもしれないな」
リーフの言葉に「そうかもしれない」と頷くと、今後の方針を考える。
「もし目覚めたときに誰もいないとこの子もかわいそうだし、家に連れて帰ろうと思うんだけど……ミィ、手伝ってくれるか?」
「もちろんにゃ!……その代わり、帰ったら撫でて欲しいにゃ……」
ミィがこちらを上目遣いで見つめてくる。かわいいなあ。
もちろん撫でてあげることに抵抗感はないので、言われなくても存分に撫でてあげるつもりではあったのだが。
「リーフは上空で動物などの動きを警戒してくれないかな? もちろんリーフも帰ったら……」
「もちろんだ。ゴローのためでもあるからな」
俺が全てを言う前に言葉を遮る。ミィより年上だからと恥ずかしがらなくてもいいのに。
「よし、じゃあこの子を持ち上げよう……あれ、思ったよりも軽いな……」
ゴーレムは俺一人でも持ち上げられるぐらいの軽さだった。ゴーレムと言えば土や石でできてるから重いと思ったんだけど。
とりあえず俺はお姫様抱っこの形でゴーレムを持ち上げ、家までミィと交互に持つようにした。
そして、無事家にたどり着いたころにはお昼の時間となっていた。
ゴーレムの子は空き部屋のベッドに寝かせて様子を見ることにし、ミィとリーフにご褒美のなでなでをしてあげることにした。
ミィは喉をごろごろと鳴らし、リーフも黙って目を閉じてされるがままだ。
……食事を豪華にして欲しいとかそういうお願いじゃなくて、撫でるだけでいいなんてそんなにこれが気に入ったのかなあ。
数分間二人を撫でた後、昼食の準備をして三人で昼食を採った。
そしてゴーレムの子のようすを見に行ったが特に動く気配は感じられない。
うーん……魔力が充分なら起動してもいいはずなんだけど……もしかして、起動スイッチか何かがあるんだろうか?
でも、それを探すために裸の女の子の身体をべたべた触るなんて、二人に見られたらなんて言い訳をすればいいのやら。
とりあえず経過観察だ、そうしよう。
俺は気分を切り替えるために、ミィと一緒に狩りに行くことにした。
リーフはゴーレムの子のために今日はお留守番だ。
「それじゃあリーフ、俺たちはいつもの狩場にいるから、もしその子が起きたら知らせて欲しい」
「分かった、気を付けて」
「いってきますにゃー!」
**********
さて、狩りに来たのは気分を切り替えるためでもあるけど、一つ確かめたいことがあるからだ。
それは【身体能力強化】と【加速】スキルの併用。
「ミィ、ちょっと危ないかもしれないから離れててくれる?」
「分かったにゃ、でも……何をするにゃ?」
「まあ見てて……よっと!」
俺は【身体能力強化】を使い、石を大岩に向かって投げつける。
すると投げた石は大岩にめり込んだ。
「いつ見てもすごい威力にゃー……」
ミィが感心するように大岩の方を見つめる。
しかし、本命は次だ。
俺は【身体能力強化】を使い、更に石を手から離す際に【加速】のスキルを発動させる。
すると、目に見えない速度にまで石が加速され、次の瞬間大岩に激突する……はずだった。
「あれ……?」
「どうしたにゃ?」
「大岩に石がぶつかったはずなんだけど……めり込む音がしなかった……ような……?」
俺とミィは不思議に思い大岩に近づくと、そこには石の大きさの穴がぽっかりと開いていた。
大岩の裏側に回ると、そちらの方にも石の大きさの穴が開いていた。
もしかして……貫通した……?
「ゴロー……なんかすごいことやってないにゃ……?」
「う、うん……」
まさかこれほどの威力になると思わず、思わず言葉を失う。
リーフに加速の調整の仕方を教えてもらわないと、危なくて使えないな……。
でも、万が一リーフを追ってきたドラゴンに対抗できるスキルかもしれないと考えると、これはこれでアリなのかもしれない。ちょっとチート過ぎる威力だけど。
「さ、とりあえず狩りをして帰ろうか。リーフやゴーレムの子を待たせてるんだし」
「分かったにゃ、ミィもがんばって狩るから……その、またなでなでして欲しいにゃ」
「ああ、もちろん」
その後、いつものようにバトルボアを狩り、いつものようにミィにご褒美なでなでをする。
しかしゴーレムの子は目覚めておらず、もうしばらく様子を見ることにしたのだった。
無事に目覚めてくれるといいのだけれど……。