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38.食事会

「せんせー、さよならー!」

「ああ、帰り道は転んでけがしたりしないように気をつけてな」


 今日も学校が終わる。

 今では共通語である『日本語』の他に、算数も教えるようになった。

 いつか商業が発展してきた時のために教える、というのもあるが、普段からお菓子を何等分とか使い道は多いからだ。

 理科は……地球とは物理法則が違うかもしれないからダメで、社会はこの世界の歴史を知らないからダメ。

 特に理科は俺みたいな質量のものが宙に浮いたり、何もない所から火や水が出たり、本当に何でもアリだからなあ……。

 スキルや魔法は個人個人で違うから教えるというのはできないし、日本語と算数を教えるのが一番いいのかな。


「それじゃ、みんな帰ったみたいだし、フィーリアたちもお疲れ様」

「お疲れ様、ゴロー。みんなも勉強楽しそうだったね」

「ああ、できるだけ事例とかを混ぜて飽きないようにした甲斐があったかな。楽しめれば覚えるのも早くなりそうだし」

「アノ、ソレジャ、ワタシ……」


 授業を手伝ってくれている【能力無効化(スキルキャンセル)】の子も帰ろうとする、が。


「あ、よかったら君もうちに来て一緒にご飯を食べない? 今日は俺が料理当番でさ」

「ゴローの作るご飯美味しいんだよ。アタシもついついたくさん食べちゃうぐらい」

「……ソ、ソレジャア……」


 よかった、来てくれるようだ。

 この子は授業が終わったらすぐに自分の家に帰ることが多く、あまり話す機会がない。

 だからこうやって話す機会を作って、仲良くなれたらなと思っていたのだ。




「そういえば普段はどんなものを食べてるの?」

「木ノ……果物、トカ……食ベテマス」


 帰り道、歩幅を合わせて歩きながら他愛ない話をする。

 この子も授業に一緒に出ているためか、少しずつではあるが話し方が変わってきている。

 最初は本当にカタコトでしか喋らなかったのだが、少しずつ話し慣れてきた感じがする。


「果物に手を加えたりとかはしないの?」


 俺がそうたずねると、首を横に振る。

 なるほど、普段は果物をそのまま食べてるんだな……もしかしたら、他の子も、その家族も料理をしないかもしれない。


「ありがとう、君のおかげで思いついたよ」

「エ? エ?」


 そうだ、給食を出したり、料理の教室を開いたりするのもいいかもしれない、と彼女との会話で気づかされた。

 授業で教えることで、こどもが家で料理をして親に伝わり、そこから料理が発展していって……。


「ゴロー、一人で完結してないで、アタシたちにも説明してよぉ」

「ああ、ごめん。実は――」


「なるほど、料理を教える、かぁ」

「料理? オイシイ?」

「それは今日、うちに来てゴローの作ったものを食べれば分かるよ」

「ウン」


 ちょっとハードルが上がってしまったが、肉料理とデザートを食べさせてあげれば恐らく料理の良さが伝わるだろう。

 火を使うのは危ないから、学校で教えるのはまずは火を使わないものがいいかな?と思いながら、俺たちは帰宅するのだった。




**********




「オイシイ……」


 【能力無効化】の子が目を輝かせながら、俺の作った料理を食べてくれている。

 他のみんなもだけど、こうやっておいしそうに食べてくれるとこちらとしても嬉しくなる。


「ふっふーん、ゴローの料理はおいしいにゃ! それを分かってくれるならミィも嬉しいにゃ!」


 俺の料理の味に共感してくれたのが嬉しいのか、彼女の隣に座っているミィが嬉しそうに抱きつく。


「ヒャッ!?」

「こら、ミィ。怖がってるだろう?」

「あ、つい嬉しくて……ごめんにゃさい」

「ア、アノ……チョット驚イタダケナノデ……ギュ、ッテシテクレルノハ……嬉シイ、デス」


 ……そうか、そういうスキンシップがなかったから、愛情に飢えてるのかもな……。

 そういう意味ではミィと隣の席になったのはよかったかも。


「ぎゅってされるのが嬉しいなら、ゴローにもしてもらうといいにゃ! ゴローのぎゅっはすっごいにゃ!」

「エッ!?」

「たぶん一回でゴローのことすっ……ごく好きになっちゃうにゃー」

「ジ、自分ガゴローノコト、好キ、ダメ……」

「どーして? ぱぱはおねえちゃんのこと、すきだとおもうよ?」


 更に隣に座っているスーが畳みかける。

 それに対し、【能力無効化】の子は顔を真っ赤にしながらも言葉を紡ぐ。


「ダ、ダッテ、自分ハ……」




 その後、彼女は中央国で起きたことを話し始めた。

 そして、俺を危険な目に遭わせた自分にはその資格がないと。


「悪いのはお前じゃない、その能力を悪用しようとした中央国の連中だ」

「そうですネ……従わないとおそらく処分されてしまっていたでしょうシ……」

「ボクもそう思う! 許せないよ中央国のやつら!」


 リーフ、レム、アネットが次々と彼女に言葉をかける。

 自分を気遣ってくれているのが嬉しいのか、彼女の眼にはうっすらと涙が見える。


「そういう過去はもう水に流しましょう? わたくしウンディーネなので、水を流すのは得意ですよ?」

「……ふふっ、ティーネが冗談を言うなんてな」

「もぉ、ゴローさんったら……」

「……フフフ……」


 そのやり取りに気が緩んだのか、【能力無効化】の子から笑みが漏れる。


「笑うととってもかわいいじゃないか、アタシもちょっとドキッとしたよ」

「……エッ……?」

「ほら、ゴローにも見せてあげなよ。きっと、ゴローも番になりたいって思っちゃうよ」

「ア、アワワワ……」


 思わず両手で顔を覆う彼女の仕草に、確かにドキッとしたのはここだけの話。


「ほら、ご飯の途中だし、冷めちゃうぞ」

「そ、そうでしたね……忘れてました」


 まだ他者との交流に慣れてない彼女にこれ以上無理をさせてもいけないし、ご飯の話にして一旦会話を途切れさせる。

 これがきっかけで徐々に交流が増えていけばいいなと思いながら、食事に戻る。


「ご飯が終わったらルゥの蜜で作ったデザートがあるから、楽しみにな」

『あら、ゴローのデザートがあるならあの三人も来そうなものだけど……』

「ああ、予め渡しておいたよ。『足りない』って言ってくるかもしれないけど……」


 あの三人、小さくなっても食事量は割と多い方だからなあ。




 その後、食事を食べ終え、デザートの時間になった時、リアが俺に尋ねる。


「ところで、どうしてゴローはスキルも無しに賢者の攻撃を無効化できたのですか?」


 そういえばその辺はまだ説明してなかったな……。


「ああ、俺はティアマトたち四人のドラゴンの加護を持ってたんだが、それだけだと不十分かもしれないと言われて、四大精霊の加護ももらいに行ったんだ」

「え、ええと……それは土の精霊だけでなく、火、水、風の精霊ともお会いしたと……?」

「ああ、そのおかげで四大属性の魔法は全部無効化できるようになったんだ」

「す、全てを無効化……ですか……」

「ゴロー、相変わらず規格外過ぎるにゃ……」


 俺としてもそれほどまでの力は必要なかったけど、中央国に行くならどんな罠があるか分からないからと、ドラゴンのみんなに言われて精霊のところに行ったんだよな……。

 結果的に賢者の攻撃を無効化して、無血開城できたのは大きいんだけども。


「ちなみに、昨日そのお礼にとお土産を持って回ったんだ。その時、風の精霊様に話があると言われて……」

「話? なんだろう」

「……実は、アネットのことなんだ」

「えっ、ボク!?」

「とりあえず、本人から聞いた方が早いかな……」


 俺は風属性の魔法を練り上げると、それを空中に放つ。するとそこから風の精霊が姿を現した。


「アネット……ごめんなさい、私のせいで辛い思いをさせましたね……」

「えっ……ど、どういうこと……?」

「あなたの魔力量は普通の妖精ではあり得ないほどの物でした。もし、魔法が暴発してしまえば辺り一帯を更地にしてしまうほどの……。そのため、私はあなたが魔法を使えないよう、封印をかけたのです」

「じゃ、じゃあ……ボクが魔法が使えないのは……?」

「そう、私のせいなのです。私のせいで、あなたは他の妖精から……」

「……いいよ、一時期はボクも魔法が使えないことを恨んでたけど……そのおかげで大好きなゴローと会えたんだもん。それに、もし暴走してたらボク、お尋ね者として狙われてただろうし……ボクのことを想ってしてくれたことなんだよね、ありがとう」


 アネットが風の精霊に抱きつく。

 おそらくこれが一番風の精霊に対する気持ちが伝わる表現だと思ったのだろう。


「……ありがとう、アネット。あなたはとても優しく育ったのですね」

「ゴローのおかげだよ。ボクもゴローみたいになりたい、って思ったから……」

「ゴロー、貴方にも心からのお礼を申し上げます」

「いや、俺はたいしたことはしてないと思うのですが……」


 実際、俺はアネットに対して他の子と同じように接していただけなのだが……。


「そういうところもゴローのいいところだよねー」

「そ、そうですね……わたしもそう思います」


 ルゥを始め、他の子たちもうんうんと頷く。

 うーん、そういうものなんだろうか。まあ、いい影響を与えられたなら何よりだ。


「……アネット、今のあなたなら大丈夫でしょう。封印を解き、魔法を使えるようにしましょう」

「ボクも魔法が使えるようになるの? それじゃ、今よりもっとゴローの役に立てるね!」

「風魔法についてはゴローに教わりなさい。おそらく、今ではこの世界一番の風魔法使いですから」


 そ、そうなのかなあ……?


「それではそろそろこちらに留まっていられる時間も終わりですね……それではアネット、また会いましょう……」

「うん、ありがとう、風の精霊様!」


 アネットが手を振ると、風の精霊の姿が徐々に空気に溶け込み、消えていくのだった。




 こうして、アネットは風の魔法が使えるようになり、より一層町のために自分の力を使うようになった。

 なお、今まで風の精霊がアネットに会えなかったのは、アネットの近くにこちらの世界に留まれるぐらいの魔力量を持つ風の術者がいなかったかららしい。

 封印を施した時はアネットの母親が召喚したと風の精霊が言っていた。

 その母親もアネットにこのことを告げる前に他界してしまったため、アネットは魔法が使えないままだったのだ。

 しかし、真実を知ったアネットは「ボクのためにしてくれたことだもん、ありがとうとしか言えないよ」と笑って見せた。



 そして、今回の食事会で【能力無効化】の子と打ち解けることができ、授業後にしばしばうちに遊びに来てくれるようになった。

 この調子で、今後もどんどん仲良くなっていければいいなと思うのだった。

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