34.ドワーフ
「うわーっ、真っ白にゃーっ!」
「アタシ雪なんて初めて見た……!」
行く前は寒いのを嫌がっていたのに、ついた途端テンションが上がるミィ。
フィーリアも顔には出さないが、尻尾をぶんぶん振ってるので分かりやすい。
二人はそのまま雪原に向けて駆け出し、雪で遊び始めた。
「ぱぱ……! ぱぱ……!」
スーが俺の服を引っ張って自分も遊びたいと主張する。
「スーも行っておいで。あとで雪でする遊びを教えてあげる」
「はーいっ!」
スーも二人のところへと走り出し、合流して遊び始めた。
「ねーねーゴロー、雪でする遊びってどんなの? ボクも気になるよー」
「それじゃ、アネットもできる遊びをしようか?」
「うん! やったー!」
「じゃあこんな感じで雪を丸めて……あとは地面で転がして大きくして」
「分かったにゃー!」
「スーもがんばる!」
胴体部分はミィたち、頭部分はスーに任せようかな。
「えーっと、ボクも同じようにすればいいの?」
「うん、頭の部分をよろしくね」
「おまかせだよー!」
俺は胴体部分を、アネットには頭部分をお願いして、十数分後……。
「できたにゃ!」
「スーも!」
「それじゃ胴体に頭を乗せようか」
俺はスーの作ってくれた頭を、ミィとフィーリアが作ってくれた胴体に乗せる。
「これで雪だるまの完成、あとは木の枝とかで飾り付けをして……」
「ゴロー、ボクもできたよー!」
「それじゃあこの雪だるまの隣に……」
俺が作った胴体に、アネットが作ってくれた頭を乗せる。
「親子みたいだにゃー」
「でもこの大きさの差だと、ゴローとアネットみたいだなってアタシは思うな」
「ボクとゴロー? それじゃ……」
アネットが【浮遊】のスキルを使い、小さい雪だるまを大きい雪だるまの肩に乗せた。
「これでボクとゴローみたいな番になったよ!」
「そうだな、ぴったりくっついてて幸せそうだ」
「えへへー、この子たちもボクたちみたいにラブラブだねっ!」
「そうだな、俺もそう思うよ」
俺はアネットを抱き寄せて、そっと頭を撫でる。
「ず、ずるいにゃー! ミィも! ミィも隣にミィの雪だるま作るにゃ!」
「あ、アタシも!」
……こうして、雪だるまのハーレムが形成されたのだった。
「つ、冷たいにゃー……」
「うう……早くゴローのお風呂に入りたい……」
夕方になるまで、みんなで雪合戦やかまくらを作るなどしたため、身体が冷えてしまったようだ。
俺は家の中にお風呂を沸かせると、すぐにみんなと一緒に入浴することにした。
「はぁ……寒い場所でこんな暖かいお風呂に入れるなんて……」
「流石はゴローですネ」
文字通り羽を伸ばしているリーフと、相槌を打つレム。
「ルゥさんも来られれば良かったんですけどね……」
「まぁ、寒さが苦手ならしょうがないよ。暖かいところに住んでいる種族なんだろうし」
「そうですね……でも、ルゥさんならツタを使っての雪合戦、得意そうだなあと思いました」
ティーネが言うその光景を想像して、くすっと笑ってしまう。
たくさんのツタから射出される雪玉。確かに強そうだ。
「……それじゃ、明日はドワーフのところへ向かおう」
「協力してくれるといいのですガ……」
「まあ行ってみないと分からないし、ダメならダメでまた雪で遊ぼう」
『ふふふ、次は私は本気出しちゃおうかしら』
「いや、ティアマトが本気出したらみんな敵わないから……ね?」
『ゴローが言うならしょうがないわねー』
ティアマト……ドラゴンが本気を出したら敵わないって……。
こうして、北の国での一日目が終わったのだった。
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「……なるほどな、話は分かった。だがワシは人間は信用しておらんでな。あの中央国の連中のようにな」
また中央国か……中央に立地するだけあって、俺たちより先に色々なところを回っているようだ。
「分かりました、お話を聞いて頂けるだけでもありがたかったです。それでは……」
「……お前は中央国の連中と違って聞き分けはいいようだな。あいつらは協力を断ったら脅しをかけてきた」
「脅し……ですか」
「ああ、『協力を拒むならお前らもドリアードのように滅ぼしてやる』とな。だが、ここは攻めづらく守りやすい立地だ。そうそう落とされるはずはな……」
その瞬間、ドォン……と村の各所で大きな音が響き、火の手があがった。
「な、なんだ!?」
「おやおや……言ったでしょう? ドリアードのように滅ぼす、と」
岩の陰から出てきたフードを被った男が、ドワーフの長に向かってそう言う。
もしかしてコイツが……!
いや、それよりも先に……!
「リーフ、飛んで被害状況の確認を! ティアマトとティーネは消火活動を! 他のみんなは敵襲に備えて三人を守りながら被害者の救出を!」
俺はみんなに指示を出すと、フードの男に向き直る。
「どうしてこんなことを……!」
「従うならいいのですよ。従わない者は邪魔にしかなりません。それは中央国の戦力を用いて排除するのみです」
……強い力を持ったからって、それを他者を服従させるために使うなんて……。
「あなたも複数の亜人をお連れのようですね。こちらに引き渡すなら厚遇してあげましょう」
「……みんなはモノじゃない!」
「そうですか……これを見てもまだそれが言えますか?」
フードの男がパチンと指を鳴らすと、周りに10人以上の魔術師と思しき人間が現れる。
「この村を襲った者たちです。全員が最上級の魔術師ですので、あなたは成す術もなく死ぬだけです」
「……」
魔術師たちは一斉に魔法を発動させ、あとはこちらに向けて発射させるだけとなる。
「さあ、これでも同じことが言えますか!?」
「ああ! ……ッ!?」
『おうおう、騒がしいと思って来てみれば……中央国のやつらじゃねーか!』
俺が返答をしたと同時に、空を覆うほどの巨体が太陽を隠す。
「ふ……ファイアドラゴン……ッ!?」
それはこの北の国を棲み処とするファイアドラゴンだった。
『今までの怨み……ここで晴らしてやろうか!』
「くっ……全員、ファイアドラゴンに魔法を!」
フードの男の指示で俺を狙っていた魔法は全てファイアドラゴンに向けて発射される。
しかし、ファイアドラゴンに直撃してもかすり傷一つ付けられない。
そして、ファイアドラゴンはお返しにとばかりに、魔術師たちへとブレスを吐き出す。
「全員防御壁を!」
火と土の防御壁が展開され、若干ブレスを軽減したものの魔術師の多くは炎に身を焼かれる。
「くっ……水属性の魔術師を連れてこなかったのが失策か……! 全員撤退!」
撤退指示と同時に、フードの男たちの姿が半透明になる。
『転移魔法か。とっとと帰って俺様を満足させる軍勢を引き連れてくるんだな』
「くそッ! ……まあいい、ドラゴンが襲った国は滅ぼされる。それはこことて例外ではない……私たちの手で滅ぼせないのが心残りですが……ククク……邪魔者がいなくなるだけでも充分です」
フードの男たちの姿は完全に消え、ここには俺とドワーフの長、そしてファイアドラゴンだけが残った。
「く、くそっ! まさかファイアドラゴンがここを狙って来るとは……」
「久しぶりだなファイアドラゴン……ちょっと今忙しいから、戦うなら後でいいかな?」
『フン……まあいいだろう。早く済ませるんだな』
「……は?」
ドワーフの長が?マークを顔に浮かべている。……まあそれもそうだろう。
「俺は回復魔法が使えますので、怪我人がいたら治療します! 長様も救出作業に!」
「あ、ああ!」
混乱している状況だと指示を出した方が早いだろうと思い、俺はドワーフの長と共に村人たちの救出を開始した。
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「……協力を冷たくあしらったにも関わらず、村の者たちを救助して頂き、長として感謝申し上げます」
ティアマトとティーネの消火活動とリーフの空からの指示により、死者が出ることはなく、軽傷者が数人出たにとどまった。
その軽傷者も回復魔法で治療を終え、被害は焼けた家のみとなった。
「いえ、あのような脅しを受けていたのであれば人間を信用できなくなって当然です。……それに、困っている人を助けるのは当然のことですので」
「……ありがとうございます、ゴロー様」
「あ、いや、その様付けは止めて欲しいといいますか……」
ドリアード……リアの時もだけど、俺は様付けで呼ばれるのはちょっと恥ずかしい。
「そして、助けて頂いた上でこのようなお願いをするのは差し出がましいと思うのですが……我々を、ゴロー様の村へと移住させて頂けないでしょうか?」
「ここに留まっていては、またいつ中央国の兵が来るか分かりませんしね……分かりました、移住は俺たちも協力します」
「このご恩は一生忘れません……」
『で、そろそろいいか? ゴロー』
……空気が読めないな、このファイアドラゴン。
まあいいか、待たせてたのは俺だし。
「ああ、それじゃあ被害が出ないように広い場所で……」
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『そ……そんな……またしても俺様が手も足も出せずに負けるなんて……』
『そりゃあそうよ、一回負けてるんだから』
ファイアドラゴンに向かって、懲りないやつだなと言わんばかりの表情でティアマトがそう言う。
『あ? 俺様はお前みたいなチビに知り合いはいないんだが?』
『はぁー……あんた、やっぱり戦闘バカね』
ティアマトがそう言うと、元の大きさに戻る。
『お前……ウォータードラゴンか!』
『それは昔の名前。今はティアマトって名前をゴローに付けてもらったの』
『なんだそれ! ずるいぞ!』
ファイアドラゴンがティアマトから離れ、俺を見る。
……やっぱりか。
『ゴロー! 俺様にも名前をくれ!』
バシッとティアマトがファイアドラゴンの頭を叩く。
『あんたはいっつも上から目線過ぎ。2回も負けてるんだからそういうのは止めなさい』
『う……ご、ゴロー、俺様にも名前をください……』
『よろしい』
相性の問題もあるんだろうけど、どうやらファイアドラゴンはティアマトに頭が上がらないようだ。
なんかこの二人、姉弟みたいだな……。
……とりあえず名前だけど。
ウインドドラゴンのゼファーはギリシア神話の西風神の名前。
アースドラゴンのクロノスはギリシア神話の農耕神の名前。
ウォータードラゴンのティアマトはメソポタミア神話の海の女神の名前。
となると、ファイアドラゴンも神話から……。
「そうだな……アグニというのはどうだろう」
『ほう……いい名前だ……痛ッ』
またティアマトがアグニの頭を殴る。
『いい名前です、ありがとうございます……』
「い、いやティアマト、そんなにしなくても……」
『ゴローも甘いわねえ……でも、そこが好きなんだけど』
そんな一連の流れを見ていたドワーフたちはどうも開いた口が塞がらない模様。
「ま、まさかドラゴンを倒すばかりか、仲間にまで……」
「え、ええと……村にはウインドドラゴンとアースドラゴンもいますので……驚かないでくださいね……?」
「「「「ええええええっ!?」」」」
まあ、これが普通の反応だよなあ……。
その後、ゼファーの協力もあり、無事にドワーフの移住は終わる。
そしてクロノスが鉱山を造りだし、ドワーフたちはその麓に住み始めた。というか鉱山って造れるものなんだ……さすがドラゴン。
ちなみにアグニも村に住むことになった。原因はドワーフたちに振るまったデザートをアグニも食べたからで……なんでドラゴンはみんなしてデザートに弱いかな?
さておき、ドワーフたちの技術力により、村はどんどん整備されていった。
こうして、【岩石生成】で作った仮の住まいから、木の住まいへと置き換わり、上下水道も整備されてようやく村と呼べる発展を見せていくのだった。




