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3.新しいスキル

「狩りに行きたいにゃ!」


 起きてすぐ、開口一番にミィが言う。

 とりあえず寝癖直したり、晴れているから布団を干したりしたいのだが。

 身だしなみをあんまり気にしないタイプなんだろうか。

 ちゃんと髪を整えればもっと可愛くなるのに。

 でも、まずはミィの要求を聞いてあげよう。


「いいけど……なんでまた急に?」

「新鮮なお肉が食べたいにゃ!」


 なるほど、確かにワーキャットは主に狩りをして生活してるし、お肉が主食なんだろう。

 この世界には冷蔵庫なんてないし、神様からもらった食料でお肉と言えば日持ちのする干し肉が主だ。

 これではミィにはちょっと物足りないのかもしれない。


「それに……」

「それに?」

「ゴローにも美味しいお肉食べてもらいたいにゃ」


 ミィの心遣いに思わず頬が緩む。

 番になったんだし、自分の好きなもの……美味しいものを共有したいんだろうな。


「ありがとう、それじゃ俺も狩りに協力するよ」

「えへへー、じゃあ朝ごはん食べたら狩りの準備するにゃー」


 簡単な朝ごはんを準備し、食べながら考える。

 狩りに必要なの武器は……できれば弓がいいかな。

 前世で使った記憶はないけど、たぶん転生した際にもらった知識で扱い方は分かるだろう。

 それと護身用に剣と盾、鎧は……軽装の方がいいかな、森に入るのなら。

 あとは解体用にナイフと……。


「どこに狩りに行くんだ?」

「ここの近くにゃ、ミィがゴローを見つける前に狩場にしてたところにゃ」

「できるだけ軽装の方がいいかな?」

「んー……ちょっと木の枝が邪魔だし、動きやすい方がいいと思うにゃ」


 うん、やっぱり軽装の方が良さそうだ。

 重量のある鎧だと動きづらいし、弓を使う際にも邪魔になる。


「じゃあ弓と短剣、それにナイフとブレストプレートみたいなものでいいかな?」

「大丈夫にゃ。あ、でも訓練するのに弓はなくてもいいかもしれないにゃ」


 訓練?

 なんの訓練だろうと昨日の記憶を掘り起こす。

 ……ああ、そういえば【身体能力強化】のスキルを教えてもらうんだっけ。


「【身体能力強化】のスキルのことかな、でも武器を使った方が訓練になるんじゃない?」

「んー、最初はコツが分からないと思うから、石を投げてぶつけるのがいい練習になると思うにゃ。慣れてくると、石を当てただけで倒せちゃうにゃ」

「ふーん……ってそこまで……」


 そんなに威力が上がるのか……俺に使われた時は突進だけで済んでよかった……。

 本気で殺しにかかられてたら、一瞬でこの世界での人生は終わってただろう。


 狩りの話をしながら朝食を食べ終え、狩りの準備にかかる。

 ミィは慣れた手つきでてきぱきと準備を進めていく。

 俺もミィに合わせて装備を持ち出して、順次付けていく。

 軽めの装備なので、すぐに準備は終わった。


 ……が、どうしてもミィの寝癖を直してあげたかったので、ミィに声をかける。


「ねえミィ、ちょっと寝癖を直していかない?」

「にゃー……でも動くからすぐにぼさぼさになっちゃうにゃ?」

「それでもちゃんと整えた方がかわいいし、番になったんだから……その、妻をかわいくしてあげたいのは当然かなって……」

「にゃ!?」


 ミィの顔が急に真っ赤になる。

 尻尾をぶんぶん振ってるので、嬉しいのは丸わかりだ。

 そこが更にかわいいんだけど。


「しょ、しょうがないにゃあ……お願いするにゃ……」


 そう言うと、借りてきた猫のようにおとなしくなったミィ。

 女の子の髪に触るのは初めてだけど、言った以上はキチンと綺麗にしてあげなきゃ。




「ふにゃぁぁぁ……気持ちよかったにゃ……」


 髪を整えている間、喉をゴロゴロ鳴らして上機嫌だったミィ。

 初めてにしてはうまくできたのかもしれない。


「えへへー、これなら毎日でもしてもらいたいにゃ」

「そうか、じゃあ毎日起きた後とか、狩りで髪が乱れた後にもしてあげようか?」

「お願いするにゃ!」


 よし、これで毎日ちゃんと身なりを整えてあげられるな。

 本当ならもっとちゃんとしたトリミングの知識があればいいんだけど、あいにく生前はそんな技術は持ってなかった。

 まあ毎日してあげてたらそのうち技術も上がるだろう……。




**********




 その後、家から少し離れた平原にやってきた。

 見晴らしはいいけど、これだと獲物にも警戒されないだろうか。

 まあ、狩りについてはミィの方が経験豊富だから、間違いはないはずだ。


「じゃあ、まずはスキルの使い方を説明するにゃ」

「確か強化したいところをイメージするんだっけ」

「そうにゃ、例えばこの小石にゃんだけど……」


 そう言ってミィは小石を拾う。

 手の平にすっぽり収まる、殺傷力もないような小さく丸い石だ。


「肩を強化するイメージを頭の中でして……こうにゃ!」


 ミィが10メートルほど離れた木に向かって小石を投げる。

 普通に石を投げるよりも数倍以上の速度が出ているように見える。

 おいおい、下手すればプロ野球選手並みかそれ以上じゃないかこれは……?


 ミシッ。

 直撃した木が鈍い音を出す。

 慌てて駆け寄ってみると、見事に小石が木にめり込んでいる。

 これは確かに、小石だけで獲物を仕留められるはずだ。


「ふっふっふー、これがスキルの力にゃ!」


 ミィが腰に手を当てて自慢げにふんぞり返る。

 それもそうだろう、ミィの細い腕からは考えられないような威力。

 これがもっと尖った石や、殺傷力の高い投擲武器だったらと思うとぞっとする。

 ……この力が俺にも備わったってことか。


「ということで、ゴローもやってみるといいにゃ」


 ミィは俺に同じぐらいの大きさの石を手渡す。


「イメージが具体的なほど強くなるらしいから、がんばってにゃ!」


 イメージ、イメージか……。

 投擲などやったことはないのだが、イメージとすればやはりプロ野球選手か。

 そして肩が強いと言えば、やはりこれしか浮かばなかった。


(行けっ、レーザービーム!)


 某外野手の強肩をイメージしながら、俺は小石を思いっきり投げる。

 すると、俺の肩から放たれたとは思えないぐらい小石が加速する。


 ミシィッ!


 ミィが投げた時以上の鈍い音が聞こえて来た。

 そして……。


「う、ウソにゃ……?」


 ミィが目を丸くする。

 それもそうだ。俺が小石を当てたところからミシミシと木がへし折れて行ったのだ。


 おいおいおい、ただの小石が凶器なんてレベルじゃないぞこれ、チート級じゃないか。

 転生時にチートスキル望まなかったのに手に入れちゃったぞ……?


「は、初めてなのにミィ以上にゃ……」


 さっきまで自慢げだったミィはどこへやら。

 耳はションボリ、肩も尻尾も落として泣きそうな顔だ。


「いやーたぶんミィの教え方が上手かったんじゃないかなー」


 ミィの頭に手を置き、撫でながら声をかける。

 実際にコツを教えてくれなかったらレーザービームなんて想像もしなかっただろうし。


「そ、そうにゃ!ミィの教え方がよかったからにゃ!きっとそうにゃ!」


 俺の言葉に気を持ち直したミィを見てほっとする。

 ちょっとだけいつものミィの元気が戻ってきたようだ。

 そこで更に言葉を続ける。


「それに【身体能力強化】のスキルだってミィが持ってたものだし、ミィがいなかったらできなかったことだよ」

「そうにゃそうにゃ、ぜーんぶミィのおかげにゃ!」


 どうやらいつもの調子を取り戻せたようだ。よかったよかった。




 その後、俺たちは平原で少しの間狩りを行い、小ぶりなイノシシのような動物を狩るのに成功した。

「今日はごちそうにゃ!」とミィがご機嫌になってくれたようでよかった。


 解体の仕方は分からないためミィに任せ、俺は調理器具の準備をした。

 塩と炭と……あと七輪があればいいのだが、見当たらなかったので適当な台座の上に鉄の網を載せることにしよう。

 それらをミィのところに持っていくと、不思議な顔をされた。


「それ、何なのにゃ?」

「え、焼肉にしようかなと思ったんだけど……」

「そのまま食べないにゃ?」


 わぁ、ワイルド。

 そうか、ミィはワーキャット……亜人だから調理に道具は使わないのかな。


 俺は火を起こして炭を投入、その上に網を設置し、切り分けた肉を乗せて焼いていった。

 ミィは不思議そうな顔をしていたが、肉の焼ける匂いに思わず涎を垂らしかけていた。


「そろそろいいかな……ほら、食べてごらん」


 俺はレア気味の焼き加減の肉を器に移すと、ミィに勧めた。

 お箸はたぶん使えないだろうから、木をフォーク状に削ったものを渡す。


「熱いから気をつけてな」

「分かったにゃ……にゃ!? 熱いにゃ!?」


 お約束。

 ワー「キャット」だし、ちょっと猫舌なのかもしれない。


 少しずつ息を吹きかけて冷ましながら、ちょうどいい温度になった肉を頬張るミィ。

 しばらく咀嚼したあと、飲み込んだ。


「にゃ、にゃにこれ……おいしすぎるにゃ……」


 どうやら焼いて食べる事を知らなかったのか、目をキラキラさせながらこちらを見る。

 普通に焼いてこれなら、タレとかがあればもっと喜んでくれるんだろうな。


「もっと!もっと欲しいにゃ!」


 子どものように催促してくるミィを微笑ましく思いながら、2人でたくさんお肉を楽しんだ。




「ふぁー……おなかいっぱいだにゃ……」


 たくさんのお肉を食べてちょっとぽっこりとしたお腹をミィがさする。

 小ぶりな獲物だったとはいえ、全部食べちゃったからなあ……。

 まあ、俺も俺でかなりの量食べちゃったんだが……。

 と、その時。


 ガサッ、と茂みが音を立てて、ウサギのような耳と猫のような胴体を持った動物がこちらにやってきた。

 もしかして、お肉の匂いに釣られて来たんだろうか。


「あ、キャラットにゃ」


 キャラット……キャットとラビットを足したようなまんまなネーミングだな……。


「あんまり懐かない子だから、すぐ逃げちゃうと思うにゃ」


 へー、懐かないんだ。かわいいのに……。

 いや、でも待てよ。ちょうどあのスキルを試すのに持って来いじゃないか。


「ほら、こっちだよこっち」


 俺は残った肉のかけらを手にして、キャラットを誘ってみる。

 すると、すんなりこちらに駆け寄って来て、肉を食べ始めた。


 そこで、俺はすかさず反対の手でキャラットの身体を撫でてみる。

 キャラットは逃げることはせず、俺の手櫛を受け入れてくれた。

 身体はふわふわのもこもこで、撫でているだけですごい幸福感で満たされる。


「すごいにゃ……キャラットが逃げないにゃんて……」

「もしかしたら、ミィも触れるかも……」

「じゃ、じゃあ……」


 そう言ってミィはこちらに歩み寄ってきたが、それを察知したのかキャラットは逃げ出す。


「あー……撫でたかったのににゃ……」


 ミィはがっくりと肩を落とす。

 おかしいな、スキルが共有されるならミィにも【動物に好かれる】スキルが渡るはずなのに……。

 それとも知られてないルールがあって……例えばスキルが渡るのは1個までだったら、【言語翻訳】のスキルが渡されたから【動物に好かれる】スキルが渡らないのかもしれない。

 まあ、【言語翻訳】のスキルはまだ試せてないから確証はないのだが……。


「まあ、また機会があるさ」


 と、ミィを励ましつつ、俺たちは食事の片づけを始めた。


 そして片づけを終えたらまた2人で温泉に入り、1日を終えたのだった。

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