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26.ミィの故郷

 亜人間の言語を翻訳するための協力者を探しに、家から旅立つその日。

 みんながそれぞれの荷物を持ち、さあ出かけようと歩を進めた時。


「きゃぁぁぁぁっ!!」


 誰かの叫び声が、森の奥から聞こえてきた。

 その声は、どことなくミィに似ていたような……。


「ちょっと行ってくる!」

「ミィも行ってくるにゃ!」


 俺とミィは荷物を地面に降ろすと、声のした方へと【強化】を使い駆けて行った。


「確かこのあたりだと思うんだけど……」

「……ゴロー、こっちにゃ!」


 ミィは小さな音を逃さないように大きな猫耳をピンと伸ばし、草をかき分けて行く。


「たぶんこの辺だと思うにゃ……っ!」


 ミィが視線を上げると、そこにいたのはミィと同じワーキャットの女の子だった。

 彼女の足には縄が括られており……これ、俺たちが仕掛けた動物用の罠だ……。


「ニィお姉ちゃんにゃっ!?」

「えっ!?」




**********




「なるほど、そういうことでしたか」

「はい、申し訳ありませんにゃあ……」


 ミィの姉であるニィ。

 彼女の足を魔法で癒し、みんなの所に連れて帰って話を聞いた。

 どうやら、一人で旅に出たミィが心配で探しにきたようだ。


「しかし、無事に番の人が見つかったようで……安心しましたにゃあ」

「ふっふーん、ゴローはミィの自慢の人にゃ!」


 ミィが俺の腕に抱きついてくる。

 ……柔らかいものが当たってるんですが。


「そういえばニィお姉ちゃん、ゴローを見てなんともないにゃ?」

「それは……どういうことですかにゃあ?」




 俺は【人間以外に好かれやすい】スキルのことを説明し、そのスキルでここにいるみんなと番になったこと、これから亜人間の言語の翻訳のために旅をすることなどを、ニィに説明した。


「うーん、自分は独身なんですけど、ゴローさんと番になりたいという欲望は沸いてきませんにゃあ……」

「既にミィが番になってるからかにゃ?」

「どうなんだろう、同じ種族から2人以上は番になれないとか?」

「そういうことは聞いたことがないですネ……というか、ハーレムを形成できた人自体が少ないのデ、サンプルが非常に少ないのでス」


 それもそうか、そんなにホイホイとハーレムができてたら世界のバランスが壊れかねない。

 ……と、ドラゴンすら楽勝だった自分の複数のスキルを見てそう思う。


「それなら!」

「ニィさん、どうかしましたか?」

「それを確かめるため、そして……ミィの結婚報告のために、私たちの里へ来ませんかにゃあ?」

「わー、いいな! ボクも行ってみたい!」


 アネットは乗り気のようだ。他のみんなを見渡しても、行きたいという目をしている。特にスー。


「よし、それじゃあお邪魔してもいいかな?」

「もちろんですにゃあ!」




**********




 こうして、俺たちはミィとニィの案内でワーキャットの里を訪れた。


「ここが……」


 深い森の奥、大木を加工して家にしたり、大きな石や葉っぱで簡易的な家を建てたりと、自然に溶け込むような生活をしているようだ。


「ミィちゃんおかえりー! その人がミィちゃんの番の人? いいなぁ……」

「ニィさんもお帰りなさいです。私、ニィさんがいないと寂しくて……」

「みなさんも長旅お疲れ様です、よろしければゆっくりしていってくださいね」


 突然の他種族の訪問でどうなることかと思ったが、ワーキャットのみんなは歓迎してくれているようだ。

 ……そして、今のところ俺と番になりたいという子は出てきていない。

 となると、同じ種族での番は1人までという仮説は正しいのだろうか。

 それとも俺のスキルにまだ何か隠された条件が……?


「おう、ミィじゃねーか。久しぶりだな」

「リィルおねーちゃん! お久しぶりにゃー!」


 ミィがリィルと呼んだ子に勢いよく抱き着く。

 リィルはそれを受け止め、ミィの頭をくしゃくしゃと撫でる。

 それにしても気になる。リィルの姿はどう見てもワーキャットではない。

 もしかして……。


「へぇ……しばらく見ないうちに強くなったじゃねーの」

「ゴローのおかげにゃ!」

「ああ、あんたがミィの番か。……いい顔してるじゃねえのさ」

「ど、どうも……もしかして、あなたがミィが言ってた、ワーウルフの……」

「ああ、ワーウルフのリィルだ。よろしくな」


 リィルが手を差し出し、俺はそれを握り返す。

 こういう挨拶はどこでも共通なんだな。

 そうだ、ワーウルフの子も翻訳に協力してくれないかな……?


「ところでリィルさん、ちょっと相談したいことが……」

「リィルでいいぞ。……さておき、相談したいことってなんだ?」




「――ということなんですけど……」

「へぇ、翻訳ね……自分の死後のことまで考えてるなんて、いい男だな」

「うん! ぱぱはすごいの!」


 俺を褒められて自分のことのように喜ぶスー。

 そんなスーを微笑ましく思ったのか、リィルはスーの頭を優しく撫でる。


「……ん? パパってことはこの子はゴローのこどもか?」

「ええと、それはいろいろと事情がありまして……」


 俺は土の精霊との一件を話し、スーが土の精霊の分体であることを伝えた。


「土の精霊と知り合いね……オレにもそんな伝手があれば、故郷を甦らせることができるのになあ……」

「故郷って……?」

「ああ、南の国の今では枯れた大地と呼ばれるところさ。アースドラゴンのせいで、オレたちの故郷では作物が育たなくなってさ……それで放浪して、今は番になってここに住ませてもらってるのさ」

「あ、それなら……」


 俺はアースドラゴンが正気に戻ったこと、今では豊穣の大地を目指して復興をしている最中であることを隠さずに話す。


「はぁ!? あのアースドラゴンを倒した……!? ……まあいい、それが本当ならみんなを故郷に呼び戻せるかもしれないな……なあ、よければオレと旦那も旅に連れて行ってくれないか?」

「それはいいのですが……旦那さんとお話とかは……」

「それなら大丈夫だ。オレが故郷のことを話したら、いつか帰ることができる状態になったら自分も連れて行って欲しいと言ってたからな」


 いい旦那さんだな……それなら後は……。


「後は族長にも話をしないといけませんね」

「そうだな、許可をもらわないと……」

「ああ、それなら大丈夫ですよ」


 急に背後から声がして振り返ると、そこには老齢のワーキャットが立っていた。

 もしかして……。


「族長、いつからそこに……?」

「ふふふ、アースドラゴンの話のあたりからですね」

「す、すみません……最初に挨拶に行かなければならないのに……」

「私たちはそんな堅苦しいことは好まないのでよろしいのですよ。……さて、リィルの件でしたね」

「あ、ああ……族長さえよろしければ、ゴローたちの南の国への旅に同行したいのですが……」

「もちろん、大丈夫です。故郷というものは忘れられないものですしね。ぜひ、復興をお手伝いしてあげてください」

「は、はい! ありがとうございます!」


 リィルが深く頭を下げる。その様子から、この族長には長い間お世話になったんだなと見て取れる。


「それではゴローさん。よろしければこちらで一泊していってください。ミィに色々とお話も聞きたいですしね」

「分かりました……それではお礼に……」


 俺は一泊のお礼にと、村の中央に成長促進の魔法をかけた木を植える。

 そしてウンディーネのティーネと協力し、一夜限りの温泉を村に提供した。


「ふふ、みんな喜んでくれていましたね、ゴローさん」

「そうだな……手伝ってくれて助かったよ、ティーネ」

「お役に立てて何よりです。わたくし、ゴローさんと番になって、初めての旅に連れ出してもらって……今、とても幸せです」

「あの水源さえ何とかなれば、ずっと旅に出ていられるんだけどね……」


 ティーネがいなくなった水源の水は、一週間もすればなくなってしまう。

 だからこの旅でも、四日に一度は戻るようにしている。


「もし、わたくしにこどもができれば、水源を託せるのですが……」

「そうなの?」

「はい、ウンディーネは生まれるとすぐに水を扱うことができるようになります。こどもができればこどもに水源を託し、親は別の場所へと新たな水源を作りに行きます。こうしてウンディーネは生息地を増やすようになっているのです」

「なるほど……でも、生まれてすぐに親と離れ離れになるのはちょっとかわいそうだな……」

「ふふ、ゴローさんはお優しいですね……それでは、わたくしはこどもができた時は、時々あの水源に帰ることにしますね」

「うん、その時は俺も協力するよ」


 ウンディーネ独自の習性なんだろうけど、俺はできるだけ傍にいてあげて欲しいなと思う。

 一人きりだと寂しいだろうし、俺も父親としてティーネの子と触れ合いたい。


「それでは、このあともよろしくお願いしますね……」

「……ああ、そうだな」


 そう、今日の俺の独り占め時間はティーネの番。

 旅の途中でも独り占め時間は必要だとみんなが言うので、野宿の際も家を建て、独り占め時間を作れるようにしている。


「それじゃ、温泉の後片付けをしたら部屋に行こうか」

「はいっ」


 こうして、旅の初日の夜は更けていく……。

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