20.旅立ち
「それじゃ、行ってきます」
『うむ、無事に戻ってこい。でないと新しいフルーツとやらがな……』
「ゼファー、意外と食いしん坊だにゃ……」
「ははは……そりゃ1000年もの間、縛られてたらね……」
ドラゴンは食物を摂取しなくても生きていけるが、味覚はあるとのことだ。
だから美味しいものは素直に美味しいとなるから、1000年振りに食べたフルーツにハマってもおかしくはないだろう。
……それはさておき、ゼファーが家を守ってくれるので安心して旅に出ることができる。
もし誰もいなかったら家や畑が荒れるだろうし、盗賊に狙われても防ぐことはできないから。
「それじゃ、目標は南のアースドラゴンだ。みんな、行こう」
「「「「おーっ!」」」」
**********
こうして旅立った俺たちは順調に旅を進める。
予定していた通り自給自足しながら、南の国の国境付近へと近づいて行く。
「よし、それじゃあ国境を超える前に補給しておこうか」
もしドラゴンの管轄が四分割されているのなら、国境を超えた瞬間に俺の存在がアースドラゴンに感づかれる恐れがある。
そうなる前に物資を補給して、余裕のある状態にしておきたい。
【岩石生成】で家を建て、周りに種を蒔いて成長促進の魔法をかけ、家の中に穴を掘って石を敷き詰め、そこに【水の生成】で熱いお湯を入れて温泉代わりにする。
【水の生成】というスキル名ではあるが、温度調整ができてまさかお湯まで出せるとは思っていなかったが、これがかなり便利。
飲み水はもちろん、野菜を洗ったり洗濯をしたりと大活躍。
また、【岩石生成】も硬い岩だけでなく、柔らかい岩も創れるようで、ベッド代わりにこれを使っている。
柔らかい岩ってなんだ……と最初は思ったけど、まあ魔法的なものならそういうものなんだろう。
俺のいた世界とは理が違うわけだし、受け入れることにする。
そんなこんなで準備が一段落し、夕食を作ろうとしていたときに事件が起きる。
「だ、誰か助けてーっ!!」
家の外から小さい女の子の叫び声が聞こえてきた。
ここは人里離れた森の中で、人間の女の子はこんなところには近づかないはず。
となると……。
「亜人の子だろうか?」
「そうですネ……魔物も出そうですシ、亜人の子が襲われていると思われまス」
「機動力で考えるなら俺とミィが出るのがよさそうかな……ミィ、ついてきてくれる?」
「もちろんにゃ!」
言うが早し、ミィは既に家を飛び出て声のする方へと向かって行った。
「それじゃ俺も出てくる、みんな、もしもの時は家を捨てて逃げても構わないから」
「うん、ぱぱ、きをつけてー!」
「留守は任された。一応空からも警戒しておこう」
「いってらっしゃいまセ」
俺もミィの後を追い、森の奥深くへと走り出した。
**********
「ボクなんて食べても美味しくないってばー! 聞いてよー!」
声のする方に駆け寄ると、ミィが手を横に広げて俺を制止する。
どうやら俺が来るのを待って、様子を伺っていたようだ。
ミィは普段は少し落ち着きがなくて賑やかだけど、いざ戦闘になるとこういう冷静な面も持ち、頼りになる存在だ。
俺もミィの隣で向こうを見ると、どうも賊はゴブリンで、捕えられているのは……。
「たぶん、フェアリーにゃ」
「フェアリー……」
フェアリー。
妖精の一種で20センチ程度の小さい種族。
羽を持ち、空中をすばしっこく飛び回り、魔法も使える厄介な種族なのだが……。
「……なんで口を塞がれてないのに魔法を使わないにゃ……?」
「確かに……詠唱ができるなら魔法を使えば撃退できそうなんだけど」
なぜか捕まっているフェアリーは魔法を使わず、ただ大声で助けを求めるだけ。
演技なのか、それとも魔法が使えないのか……。
「ゴブリンは……3体か。ミィ、いける?」
「もちろんにゃ! ゴローはフェアリーを持ってるやつをお願いするにゃ」
「よし……それじゃ……!」
俺は【強化】を使い、フェアリーを握りしめているゴブリンに体当たりをぶちかます。
不意を突かれたゴブリンは大きく転倒し、衝撃でフェアリーを手放した。
『グァァッ!』
突然の襲撃に驚いた他の二匹は思考が遅れ、一瞬遅れて俺に攻撃を仕掛けようとする。
しかしそこに横からミィの放った投石が一体を、ミィの蹴りがもう一体を地面に叩きつける。
「大丈夫か? ちょっと中に入ってて!」
俺はその隙に状況が把握できていないフェアリーを保護し、服のポケットに避難させる。
『グ……グァァ……』
ミィの攻撃が入ったゴブリンたちは霧散する。
……この世界の魔物は瘴気が形を作ったもので、一定以上のダメージを受けると形を保てなくなるのだ。
動物や亜人と姿形は似ているものの、違う生態を持つため全ての生物と敵対している。
俺は残った一匹を岩石で潰し、戦闘を終えた。
「……さて、もう出てきても大丈夫だよ」
俺がポケットをポンと叩くと、恐る恐るフェアリーが顔を出す。
「あ、ありがとう……ボク、死んじゃうかと思ったよ……」
「どういたしまして、にゃ! でも、なんで魔法を使わなかったにゃ?」
「そ、それはボクが魔法を使えない落ちこぼれだから……」
「……あ……ご、ごめんにゃさい……」
「ううん、フェアリーは魔法が使えるのが普通だから……気にしないで」
失言して落ち込むミィを、フェアリーが優しく頭を撫でる。
……いい子だな。
「ケガはない?」
「あ、うん。掴まれた時に力が強くて身体が痛いけど……」
「それなら……手に乗ってちょっとだけじっとしていてくれる?」
「? これでいい?」
フェアリーが俺の手に腰掛けたのを確認すると、俺は治癒魔法を発動させる。
「わ……これ……光魔法……?」
「どうかな……痛みは引いた?」
「あ……すごい、全然痛くなくなった……」
フェアリーは俺の手から飛び立つと、元気よく空中を飛び回る。
「すごーい! おにいさん、ありがとー!」
「ふふーん、ゴローはミィの自慢の番にゃ!」
ミィが胸を張って自慢する。
「番……かぁ。いいなぁ……」
フェアリーが羨ましそうにミィの方を見る。
「……もしかして、ゴローのこと、気になるにゃ?」
「うっ……で、でも既に番がいるんだし……それにボクは役立たずだし……」
「そんなの気にすることはないにゃ! だってゴローは番がたくさんいるからにゃ!」
「えっ、そうなの……?」
俺は不思議そうにこちらを見つめるフェアリーに、俺のスキルや俺の番たちのことを話してあげた。
「ふーん、そんなスキルがあるんだ……で、でもボクじゃ……」
フェアリーは視線を地面へと落とす。どうも魔法が使えないのがコンプレックスなのだろう。
それで自己評価を落として、自分には価値がないと思ってしまっている。
「大丈夫、君の元気の良さは他のみんなを元気づけてくれるだろうし、君にしかできないことだってきっとある。だから、君さえよければ一緒に来ないかな?」
「……」
フェアリーは視線を下に向け、考え込む。
俺は彼女の考えがまとまるのを、じっと待った。
「あ、あの……ボク、さっきみたいに迷惑かけるかもしれないけど……ボク、ボクっ……あなたと一緒にいたい……」
涙目になりながらの告白。
もちろん俺の返事は一つだ。
「……これからよろしく」
「よ、よろしくお願いしますっ!!」
フェアリーは俺の顔に飛び込み、小さな唇を重ねた――。
その後、家に戻った俺たちはフェアリーのことを説明しながら夕食を採った。
彼女の名前はアネットであること、群れを追い出されあてもなく彷徨っていたことなどを話しながら。
話すにつれて徐々にアネットの顔に笑顔が戻ってくる。
みんながアネットのことを受け入れてくれたのが嬉しかったのだろう。
こうして、俺の家族がまた一人増えたのだった。




