17.竜の真実
「もしかして、俺が戦う前に二つの声が聞こえていたのは……」
『そうだ……【願い】により我はああなったのだ……』
「【願い】……?」
『ドラゴンを倒した者は願いを伝えることができる。そして、その願いが実現可能なものであれば、どんなものでも叶えなければならない……というものだ』
ドラゴンは人ではまず敵うことのない高位の存在。
それを倒した者へのご褒美みたいなものか。
しかし、その【願い】でああなってしまってたというのか……?
そして、ハッと気づいてしまった。
「……最後にドラゴンを倒した者……それは…………『勇者』……!?」
「バカな!? どうして人間が、自分たちも含めた者を滅ぼすような願いを!?」
『落ち着くのだ……グリフォンの少女よ。その青年の言う通り、【願い】は勇者のものだ』
【願い】が勇者のものだったという思ってもみなかった真実。
そして俺は更に気づく。強大な力を持つはずの『中央国』がなぜドラゴンに狙われなかったのか。
「中央国の基になる国は、勇者が魔王を倒した後、王女と結ばれた国……」
「ど、どういうことにゃ……?」
「おそらク、ドラゴンに自国を襲わせたのは演技ということですネ」
『その通りだ……我に勇者が願ったもの……【自国に匹敵する力を持つ国や人が現れそうなときは、それを滅ぼせ。ただし怪しまれないように自国にも時々現れ、わざと撃退されろ】というものだったのだ』
合点がいった。
なぜドラゴンが文明を滅ぼすのか。
なぜ中央国だけドラゴンを撃退できていたのか。
全ては、かつての勇者の仕業……。
「なら、なら……私たち一族が、いや……罪もない者たちが滅ぼされたのは……ッ!」
『すまない……グリフォンの少女よ……我にはどうすることもできなかった……許して欲しいとは言わん……お前の気が済むなら【願い】で我を消滅させよ……』
「そんなことができるのか……?」
『我はもう疲れたのだ……1000年もの永い時、罪のない者たちを殺し続けてきてしまったのだ……我を倒したお前が願えば、我はこの世界から消え去るだろう』
「………………」
しばらく沈黙するリーフ。
俯いた彼女の頬には涙が伝っていた。
しかし意を決したのか、俺の方へと向き直る。
「ゴロー、私は一族を滅ぼしたウインドドラゴンを許せなかった。だが……真実を知って、ウインドドラゴンも被害者だと分かって……私は、私は……」
「大丈夫、リーフのしたいようにすればいいよ」
「私は……ウインドドラゴンを許したい。だが、もしこの先またウインドドラゴンが倒され、勇者のような願いを再び叶えてしまわないとも限らない……だから、知恵を貸して欲しい」
「ウインドドラゴンさん、大丈夫ですか?」
『うむ……お前がいなければ、我を倒すことはできなかっただろう』
……それなら。
「では【これから先、願いを叶えることを禁じます】……という願いは大丈夫でしょうか」
「なるほど、それならこれから先、誰かに倒されちゃっても大丈夫にゃ!」
『……お前は欲がないのだな、ゴローとやら。我を従えれば、世界すらもその手にできるであろうものを』
「いえ、ウインドドラゴンさんも辛い思いをしたのは確かですし、これからは自由に生きて、できれば幸せになって欲しいなと……」
『……すまぬな。それでは……【願い】を叶えるとしよう』
そうウインドドラゴンが言うと、辺り一面がまばゆい光に覆われ、次の瞬間ウインドドラゴンは実体を取り戻していた。
「また、あの強大な魔力を感じまス……でも、殺意はまったく感じませんネ……」
『我はゴローのおかげで生まれ変わることができた。これからはゴローたちのために尽くそうぞ』
「え!? いやいや、俺たちはいいんでご自由にしてください」
『ふふふ……自由に生きろと言っただろう? ならばゴローたちのために尽くすのも我の自由ということだ』
……どうも決意は固いようで、おそらく何を言っても考えは曲げないだろう。
「それなら……今後はよろしくお願いします」
『こちらこそよろしく頼む。……そしてグリフォンの少女よ、手を出すがいい』
「わ、私か……?」
リーフは恐る恐る両手を差し出すと、ウインドドラゴンがリーフの手に触れる。
すると、突然リーフの身体が光りだし、徐々に光が収束していった。
『我の力を授けた。これで今まで以上にゴローの役に立てるだろう』
「た、確かに凄い力を感じる……が、いいのか? 力を与えてしまっては、お前が……」
『我はもう力は要らん。これからはお前たち家族を見守りながら過ごそうぞ』
隠居、か。
でもこれまでしてきてしまったことを考えると、身体も心も休める時間は必要だろう。
そして、今回の一件で気になったことがある。
「もしかして、他のドラゴンたちも同じように……?」
『恐らくそうだろう、我の他のドラゴンも我と同時期に勇者に討伐されていたはずだ』
「ゴロー……」
リーフが俺の服の袖を引っ張る。
「私は……他のドラゴンも呪縛から解放したいと思っている。でないと、これから先、私みたいな思いをする者が増えてしまう……危険なことだと分かっているのだが……」
「いや、俺も同じことを考えてたよ」
ウインドドラゴンは【願い】の呪縛から解放されたものの、他のドラゴンは未だ囚われている。
そして、その状況が続く限り、新たな悲しみが生み出されるだろう。
「ミィも一緒に行くにゃ!」
「もちろん、ワタシもでス」
「スーも! ぱぱといっしょがいい!」
……どうやら、みんな一緒にいたいという気持ちは同じようだ。
戦闘が苦手なため、ここにいないルゥもきっと同じ気持ちだろう。
「それなら遠征の準備を始めないとな……でも、今日はもう疲れたからご飯にしようか」
「「「「はーい!」」」」
『家族というものは良いものだな』
「ですねぇ……俺も最初は一人で動物に囲まれてのんびりがいいかなって思ってたんですけど、みんなが家に来て毎日が充実しています」
みんなでの食後、外に出てウインドドラゴンと二人で会話をする。
『そのような幸せを……我はいくつ奪ってしまったんだろうな……』
「それは……でも、悪いのはその願いをした勇者です」
『ふっ、お前は優しいな。あの子たちが幸せなのがよく分かる……我も1000年前、お前のような者に倒されていればな……』
「ウインドドラゴンさん……」
『……ゴローよ、そのウインドドラゴンと言うのは止めて欲しい。できれば……我にもあの子たちのような名前が欲しいのだ』
……そうか、俺が『人間』と種族名で呼ばれているようなものか。
……そうだ!
「それなら……ゼファーという名前はどうでしょうか?」
確か西風という意味の名前で、ギリシア神話に登場する神の名前だったはず。
ここは西の国で、ウインドドラゴンは風のドラゴンだから、ぴったりだと思う。
『ゼファー……か。うむ、気に入った、これからは我はゼファーと名乗ることにしよう』
ウインドドラゴン……ゼファーが名前を認めた瞬間、俺とゼファーの身体がエメラルドグリーンに光る。
「これは……」
『ふむ……契約が成されたか』
「契約?」
『ゴローが土の精霊に認められ、土属性が使えるようなものだ。我に名前を与えたことで主従関係の契約が成され、ゴローに我の加護が付与された』
ウインドドラゴンの加護……なんかすごい大層なものが……。
『リーフに我の力は与えたため、それほど効果は大きくないだろうが……多少の手助けにはなるだろう』
「いえ、お気持ちだけでも充分なぐらいにありがたいです。……ふぁぁ……」
戦いの疲れからか、思わず欠伸が出てしまう。
『我との戦いのせいだろう、疲れが出ているようだな。ゆっくり休むといい、我が見張りをする』
「あ、ありがとうございます……でもゼファーも疲れたら寝てくださいね……」
俺はゼファーに手を振ると、自室へと戻ってベッドに突っ伏す。
そして猛烈な睡魔に襲われるまで1分もかからなかった。
こうして、リーフが仇を討ち、ウインドドラゴンのゼファーが仲間になるという、慌ただしい一日が終わりを告げた。




