表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/44

16.ウインドドラゴン

「ウインドドラゴンの気配……それはいったい……?」

「風の様子がおかしい。私たちが襲われた少し前、吹いていたはずの風が完全になくなった時間がある。その数時間後、やつが現れたんだ」

「つまり……数時間後にここに来るかもしれないってことにゃ!?」

「私の勘違いならそれでいいのだが……もしかしたら、私のせいでウインドドラゴンが引き寄せられ――」

「いや、俺のせいだ」


 リーフの言葉を遮り、俺は断言する。


「ど、どうしてですカ、ゴロー?」

「ドラゴンの習性のことだ。増えすぎた種族の間引きや、栄え過ぎた技術の破壊など、いろいろな説があるだろう?」

「確かにそうだが……この場所はそれらには当てはまらないと思うが……」


 この場所は僻地で、住民も数えるほどしかいない。

 技術も発展しているわけではなく、原始的な暮らしをしていると思っている。

 だが、そんな場所でも特異な存在はある。


「俺のスキルの数だ。ミィの【強化】、リーフの【加速】、レムの【岩石生成】、スーの【土属性強化】、ルゥの【光合成】。これらを駆使すれば、俺一人でも一国を滅ぼせるだろう」

「……! つまリ、ドラゴンの真の習性は『力を持った者たちを滅ぼす』ということですカ……!?」

「ああ、それならここに目を付けたのも筋が通る」

「で、でもそれなら、この世界で一番強い『中央国』が狙われないのが分からないにゃ……」


 中央国。

 文字通りこの世界の中心に位置する、世界最大の軍事力を持つ国家だ。

 その戦闘能力はかつての勇者や魔王に匹敵するとも言われている。


「いや、中央国は何度かドラゴンに狙われているという記録が残っている。だが、その度に倒せはしないもののドラゴンを退けていて、それが原因でドラゴンに狙われていないと言われている……」


 おそらくドラゴンも勝てはしない、もしくは勝てたとしても重傷を負ってしまう相手には近づかないような知性があるのだろう。

 ……だとすれば俺の取る方法は一つ。


「……俺はウインドドラゴンを撃退しようと思う」

「なっ!?」

「で、できるのにゃ……?」


 ミィが不安そうな顔をして俺をじっと見つめる。

 リーフたちもそうらしい。俺が死んでしまうのではないかと思い、目に涙を貯めながら、行かないで欲しいと言わんばかりに俺の顔を見る。


「大丈夫、俺に作戦がある――」




**********




「……本当に風一つないな……」


 空を見上げると、雲すらも一つもなく、普段はバトルボアが散見される平原にも一匹も生物の気配がしない。

 おそらく、本能でこれから来る者から逃げているのだろう。


 ……俺はウインドドラゴンをおびき寄せるため、一人でこの平原にやってきた。

 ここなら遮蔽物がないから、知り得る地形の中で一番戦いやすいと思ったからだ。


 ……無風の平原に佇むこと十数分。

 このまま来なければリーフの勘違いとして済ませていた事案だったのだが。

 突如、俺の目の前にマンガやアニメで見慣れた竜が姿を現した。

 全身が緑の鱗で覆われた巨体。その鱗は太陽の光を反射して神々しく輝いている。


『グ……ググ……』

「なぜ俺を狙う! お前の目的はなんだ!」


 【言語翻訳】スキルがあるんだ、もしかすると話し合いで解決できないかと試みてみたが……。


『コロス……力を持つ者……コロス……!!』


 ……どうやら話し合いは無意味のようだ。と、俺が戦闘態勢に入ると……。


『コロセ……力を持つ者……我を……コロシテクレ……!』


 どういうことだ!?

 相反する言動に戸惑っていると、ウインドドラゴンは翼を大きく羽ばたかせる。


「……ッ! 【岩石生成】!」


 俺は目の前にシールド状の岩を生成して、ウインドドラゴンが起こした風を防御する。

 しかし、それは一瞬にしてかまいたちに切り刻まれ、硬度の低い端の岩が崩れ落ちる。


「【土属性強化】と【強化】もかけてたはずなんだけどな……」


 ウインドドラゴンの圧倒的な攻撃力を目の前に、足が竦む。

 一発でももらえば、そこで俺の命は尽きてしまうだろう。

 でも、ここでこいつに勝てなきゃ、平穏な生活は訪れない。


「【岩石生成】! 【強化】! 【加速】! くらえぇぇぇっ!」


 俺は槍状の岩石を生成し、身体能力を強化し、更に加速して撃ちだした。

 しかし、その巨体には合わないような俊敏さで軽く避けられる。

 風の竜だけあって、俊敏さもある……か。


「まずは機動力を削がないと話にならないな……! 【岩石生成】ッ……!」


 俺は自分とウインドドラゴンを閉じ込めるように、ドーム状の岩石を生成する。


「流石にこの規模は……消費が激しいな……!」


 だが、ドームの一部……俺のいる場所には日が射しこむように天井を空けておいた。

 これで【光合成】で回復できるからだ。

 光に当たると、みるみるうちに魔力が回復していくのを感じる。


「……ふぅ。さあ、第二ラウンドだ!」


 俺は再び槍状の岩石を生成し、ウインドドラゴンへと投げつけ続ける。

 しかし、狭くなったとはいえウインドドラゴンの回避力は衰えず、かすりすらしない。

 だが向こうの攻撃もこちらの岩石で防げるため、お互いに決定打は与えられないままだ。


『ガァァァッ!!』


 ウインドドラゴンがしびれを切らしたのか、その機動力任せにこちらに突進してきた。

 それを【強化】でかわし、ウインドドラゴンへと岩石を撃ち込む。


『グァァッ!!!』


 それは足に命中し、風穴を開ける。

 ウインドドラゴンは再び翼を羽ばたかせ、上空へと退避した。

 その隙を見逃さず、俺は一際大きい槍を創り出し、ウインドドラゴンへと投射する。


 しかしその槍はすんでのところで避けられる。


 だが、俺の狙いは()()()()()()()()()()()()()()


 槍はウインドドラゴンの後方、俺の創ったドーム状の岩の天井部分を破壊した。


『グギャァァァァッ!?』


 そして、天井部分に突き刺さっていた今までに投げた槍が、大きな岩の塊と共にウインドドラゴンへと突き刺さる!


「実は天井に刺さるように手加減してたんだよ……これで終わりだ!」


 俺は再度巨大な槍状の岩を生成し、スキルの全力を使って投げつける。


『グ……グァァァッ!!』


 しかしウインドドラゴンは最後の力を振り絞り、それを避けた……だが。


『ギャァァァァッ!?!?!?』


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()に、身体を貫かれて真っ二つになる。

 そして力尽き、地上へと落下していく。


「……いつから俺が一人だけだと思っていた? みんなが力を合わせれば、たくさんのスキルを持つ俺と同じことができるんだよ」


 そう、横から飛んできた槍は、レムが創り出し、スーが強化し、ミィがリーフごと投げ、リーフが加速させたもの。


「ゴロー……ゴロー! やったな!」


 リーフが俺に勢いよく抱きついてくる。

 それを支えきれず、俺はリーフに押し倒される形になる。


「あ……す、すまない……」


 リーフが顔を赤くしながら、俺の上からどけようとする。


「いや、いいんだ。みんなの仇を討てたんだからな」


 俺はリーフを抱き寄せ、頭を撫でる。


「ありがとう、ゴロー……ありがとう……!」


 リーフがわんわんと泣きはじめる。

 一族を滅ぼされ、今度は自分が狙われて俺に迷惑をかけないかと今まで気を張り詰めて生きてきたんだ。

 俺はリーフを抱きしめ、彼女が泣き止むのを待った。




「すごいにゃー! ゴローの言った通り勝てちゃったにゃ!」

「ワタシも驚いていまス……まさかドラゴンを倒せるとハ……ゴローは勇者なのでしょうカ」

「ぱぱ、ゆーしゃなの? すごいすごーい!」

「少なくとも私……いや、私たちにとって、ゴローは勇者だろうな……」

「はは、そんな大層なものじゃないけど……リーフの仇が討ててよかったよ」


 俺は絶命したドラゴンを見ながら、リーフの頭を撫でてあげる。

 しかし、気になるのはこのウインドドラゴンが死にたがっていたこと。

 あれはいったい……。


「……!」


 そう考えているとウインドドラゴンの身体が光り出し、消失する。


「ど、どういうことだ……?」


 すると、目の前に半透明のウインドドラゴンが姿を現す。


「ま、まだ死んでなかったのか!?」


 俺はドラゴンから離れ、再び戦闘態勢を取ろうとする。

 しかしドラゴンに先程まで感じていた敵意はない。


『……我を呪縛から解き放ってくれ、感謝する……』

「呪縛……って、どういうことにゃ……?」

『……語らねばなるまい、なぜ我がこうなったのかを……』


 ウインドドラゴンは、これまでのことをゆっくりと語り始めた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ