13.もしかして
「ゴロー、ゴロー、そういえばスーのスキルってなんだったのにゃ?」
朝食の時間に突然ミィが俺に尋ねる。
数日前にスーの突然のおはようのチューにより番になってしまった俺とスー。
番になったので当然スキルが俺にも使えるようになったのだが……。
「そういえば気にしてなかったな……スー、何かわかる?」
「うーん……よくわかんない! ……あっ、ママ? うん、ちょっとかわるね!」
そういうとスーの雰囲気が一変する。
スーは土の精霊の分体であり、土の精霊がスーと意識を交代できるのだ。
二重人格……というわけではないが、この時のスーの意識は眠っているらしい。
「ふむ、それでは説明しようか。我とスーのスキルは別となっている。分体を生成した時にランダムでスキルが与えられるらしいのでな」
「つまり神様に新しい生命として認識されているということですね」
「そういうことだ。そしてスーが与えられたスキルは……【土属性強化】だ」
【土属性強化】……シンプルながら強スキルの代名詞と言えそうな内容だな。
「例えば土属性魔法の威力などが強化されるほか、ゴローが持っている【岩石生成】のスキルで生成された岩石も強化される。あれも土属性の範囲なのでな」
「なるほど……更に頂いた独自魔法の『植物や野菜が早く育つ魔法』も強化されていると……」
「そういうことだ。アルラウネが急成長したのもそれの影響だろう」
「あー……」
「植物や野菜が早く育つ」だけでなく、効果が強化されて「植物系の亜人」も育成強化の範囲に入ったということかな……。
「羨ましいですネ……ワタシも強化できればもっとゴローのお役に立てますのニ……」
ゴーレムのため土属性のレムが羨ましそうにこちらを見つめる。
確かに自分の属性を強化できるスキルは喉から手が出るほど欲しいものだろう。
「俺がもらったスキルもみんなに共有できればいいのにね……俺だけいろいろ持っててちょっとズルい気もする」
ワーキャットのミィの【身体能力強化】……これは今は進化して何でも強化可能な【強化】になっている。
グリフォンのリーフの【加速】。
ゴーレムのレムの【岩石生成】。
土の精霊のスーの【土属性強化】。
更に自前の【言語翻訳】と【動物に好かれるスキル】。
そして土属性魔法も使えるようになった。
下手しなくてもこれだけ持っているのはチート級だと思う。
……でも、これらは全てみんなが番になってくれたからなんだよな。
「でもいろんなことができるから、ミィの自慢の旦那さんにゃ!」
「そうだな、私もそう思う」
ミィの言葉にリーフが頷く。
「ワタシも命をつないで頂いた恩人デ、大事な旦那さんでス……」
レムが胸元のコアを愛おしそうに撫でながらこちらを見る。
「モテモテだなあ、ゴロー」
土の精霊がみんなを見ながら言う。
……姿はこどものスーのままなので、どこはかとなくロリババア感が漂ってしまう……。
「……ありがたいことですね、最初は独りでのんびりと暮らそうと思ってたのですが、今ではみんながいない生活は考えられませんよ」
「お前がこの先どこまで亜人の女の子に手を出すか我も楽しみだ……おっと、そろそろ帰らねばな」
どこまで亜人の女の子に手を出すかなんてなんて人聞きの悪い! と言おうとしたが、向こうの方が一枚上手。反論をする前に帰られてしまった。
「スーも! スーもパパだいすき! あれ? でもパパはパパで、スーのだんなさん? ……うーん、よくわかんない!」
そういえばスーとも番になったのだから、夫婦になるのかそれとも親子になるのか。
……個人的には親子がいいです。じゃないととんでもないロリコンに……。
こうして、慌ただしい朝が過ぎていくのだった。
**********
「ルゥ、蜜を取りにきたよ」
夕方、俺はアルラウネのルゥの蜜を分けてもらいに来ていた。
ルゥは小さな水瓶が満タンになる程度の蜜を一日で作ることができるようだ。
量としてはだいたい2リットルぐらいだろうか。
この蜜はとても人気で、持ち帰って数時間も経たないうちになくなってしまう。
「はっ、はいぃ! それでは移し替えますので、こちらに置いてください!」
俺はルゥに言われた通りに水瓶を地面に置いて蓋を外すと、彼女は器用にツタで蜜を移し替える。
直接水瓶で掬えば持ち手に蜜が付くため、作業をやってもらえるのはありがたい。
数分で水瓶に蜜が満たされたのを確認すると、蓋を閉めて持ち上げる。
「いつもありがとう、この蜜はすぐになくなるぐらいみんなに人気だよ」
「そ、そうなんですか……お役に立てていれば幸いですぅ……」
彼女は頬に手を当てて顔を赤らめる。
人の役に立てるのが嬉しいんだろうな。
「成長したおかげで捕食もできるようになりまして……ゴローさんにはとても感謝しています」
「それは良かった。……でも、急に成長して身体がヘンになったりしない?」
「え、ええと……」
質問をした途端にルゥが身体をもじもじさせる。
やっぱり急に成長してしまったせいで違和感があるのだろうか。
「成長しちゃったのは俺のせいだし、気になるなら相談に乗るよ。もし言いたくないのなら言わなくても構わないし」
誰にでも言いたくないことはある。だから無理強いはしない。
「あ、あの……実はですね……」
ルゥはゆっくりと口を開く。
「わ、私、その……成長をしたからなのか……ご、ゴローさんを見たら……身体が熱くなってしまって……」
……ん?
「た、たぶんなんですけど……昔聞いた、番になりたいという人に出会った時の反応みたいで、その……」
……ルゥまで!?
「で、でも私なんかがゴローさんの番になるなんて、その……おこがましいと思ってしま……っ!?」
ルゥが自分を卑下する言葉を、つい俺は唇を塞いで止めてしまう。
「ご、ごごご、ゴローさん……!?」
「ルゥ、君は自分をそんなに卑下しなくていいよ。充分に魅力的なんだから」
「た、確か口付けは番になるための行為って……」
今までにないぐらいに顔を赤くするルゥ。
それもそうだ、男女が番になるための行為なのだから。
「俺は家族みんなに幸せになって欲しいと思ってる。……近くに住んでるルゥも家族みたいなものだし、そのルゥが番になることで幸せになるなら、歓迎するよ。……無理矢理唇を奪ったのはごめん」
「い、いえっ! 私は、その……嬉しくて……」
ルゥが真っ赤になりながら涙を浮かべる。
「……それじゃあ、今日からは番としてよろしく、ルゥ」
「は、はいっ……! あ、あの……」
「うん、言いたいことがあれば何でも言って。俺たちは番なんだから」
「あの……さっきのは急だったからまだ実感がわかなくて……その、今度はわたしから……したくて……」
こちらを真っ直ぐ見つめてくるルゥ。
その表情はとても妖艶で。
(ああ、確かにこれは誘惑されちゃうな……)
アルラウネの妖艶さをその身で感じ取ることになるのだった。
**********
「それにしても今度はアルラウネのルゥとも番かあ」
その夜、布団に潜って一人考え事をしていた。
なお、みんなは俺とルゥが番になったことには驚いておらず、それどころかミィは「すぐにそうなると思ってたにゃ!」とまで言っていたし……。
それにしても、ここまで番が増えるのはなんでなんだろう。
この世界の人口は分からないが、番になりたいと思うのは数百万、数千万の中で一人か二人なはずだろうし、それが俺に集中してるのは異常のような気がする。
「まるで俺に何か特殊な能力があるみたいな……まるでスキルみたいな……」
「……!?」
待て、俺が神様にお願いしたスキルは……。
俺は神様と交わした会話を必死に思い出す。
「では、犬や猫などの動物……つまり『人間以外に好かれやすい』スキルは可能でしょうか? そして住居はできれば人の寄り付かない田舎だと嬉しいです」
人間以外に好かれやすい。
ミィも、リーフも、レムも、スーも、ルゥも。
みんな亜人……つまり、人間ではない子たち……。
俺が【動物に好かれるスキル】として望んだものは、もしかして……。
 




