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12.アルラウネ

「はわわわわ~!? だだだ、誰ですかあなたたち~!?」


 閉じていた大きな花が開き、現れたのは妖艶なアルラウネだった……はずなのだが。

 ……なんだろう、この反応。そして見た目とのギャップ。


 周りを見ると、みんなも若干呆れているかのような表情だ。


 ええと、アルラウネというのは植物の亜人で、ツルやツタで物理攻撃を、土魔法で魔法攻撃をする結構厄介な敵……のはずなんだけど……。

 スーはアルラウネがこういう子だと知ってて起こしたのだろうか?


「え? あ、うん! わかった! ママとかわるね!」


 などと考えていたらスーが独り言を言ったかと思うと突然静かになり、雰囲気が変わる。

 普段の天真爛漫なスーとは打って変わって、落ち着いた……まるで土の精霊のように。


「……ふむ、成功したようだな」


 口調まで変わっている……ということは。


「スーと入れ替わったのですか?」

「ああ、ゴローの言う通り、今のスーは我になっている」


 スーを通して見守るって言ってたからそういえば、と思ったけどその通りだったようだ。

 こういう芸当ができるあたり、やっぱりすごい人なんだな。


「さて、なぜスーがアルラウネを敵視していなかったかというとだな……」


 アルラウネは植物系の亜人のため、土魔法や土の精霊の恩恵を大きく受ける。

 そのため、土の精霊の分体であるスーには悪さはしない……もし悪さをして土の精霊の恩恵を受けられなくなれば、枯れてしまう運命だからだ。

 ……という知識を土の精霊の分体であるスーも持っているから、アルラウネは敵ではないと判断して、一緒に遊ぼうと起こしたそうだ。

 ただ生まれたばかりだから、そういう知識をなんとなくで持っていてもうまく理解はできていないらしい。その辺は今後スーが成長してくれば正しく理解できるようになるとか。


「ごごご、ごめんなさいぃぃぃ! わたし、土の精霊様になにか粗相をしてしまいましたかぁぁぁ!?」


 スーが土の精霊とほぼ同一の存在と知り、アルラウネの子が青ざめる。

 いや、何もしていないんだけど……信奉する土の精霊本人が目の前にいたらこうなるのも無理はないかもしれない。


「いや、何もしていない。むしろこちらがしてしまった方だな」


 ぐっすり寝てるところをスーが起こしましたもんね。


「……ところで、君はどうしてここへ? 俺たちはこの辺で生活しているけど、アルラウネは見た事がないんだ」

「は、はい! それはですね……」


 アルラウネという亜人はその色香で旅人を惑わし、養分とすることに長けている。

 しかし彼女はそういった行為ができず、栄養不足で成長ができずに群れから追い出されて方々を彷徨いここにたどり着いたという。

 ……この体型で惑わすことができないのは、おそらく性格のせいだろうか……さっきから話しててどうも自分を低く見がちな印象にあるし。


「……それでここにたどり着いたら、土の栄養がとても美味しくて根を張っちゃったんです~」


 アルラウネは移動もできるが、基本は土地に根を張り、土から栄養を吸収する。

 そしてその栄養で成長し、妖艶な身体になって、旅人を誘うのだ。

 ……もうすでに充分な色香があるとは思うのだが。


「うう……わたしの貧層な身体じゃ、やっぱり向いてないんですかね~……」

「おい、さっきから黙って聞いていれば……それは私に対する当てつけか!?」


 激昂するリーフ。

 というのも番の中で一番胸が小さいのがリーフだからだ。

 そのリーフが目の前で豊満な胸を持つアルラウネが、自分の身体を嘆いているのはどう考えてもイライラするだろう。


「ひぃぃぃ!? な、なんでですかぁ!?」

「それだけ豊かな胸を持ってて貧層とはなんだ!? 私だってそれぐらいの胸を持って、ゴローを誘惑したいぐらいだぞ!?」

「え……豊か……???」


 リーフの怒声に身体をこわばらせながらも、アルラウネの子は自分の胸を触る。


「ひぃぃぃぃ!? なぜか勝手に成長してますぅぅぅぅ!?」

「……え?」


 アルラウネの子が素っ頓狂な声をあげる。

 ……話の流れをみるに、どうやら急に成長してしまったらしいのだが……もしかして?


「それは、我がゴローに与えた魔法の影響だな」

「や、やっぱりそうでしたか……」




 落ち着いて話をまとめると。

 昨日まではアルラウネの子はどうもスーより少し大きいぐらいの体型だったらしい。

 それで成長に必要な栄養を採れなかったせいか群れを追い出され、ここに来た。

 そして土から栄養を摂取し、それが美味しくて根を張った。

 ……で、偶然その土というのが俺が3日で植物を成長させる魔法をかけた土で……。


「アルラウネは植物系の亜人だから、魔法で成長してしまった、と」

「そうだな、まさか植物だけでなく植物の特性を持つ者まで成長させてしまうとはな」

「すごいにゃー! ミィも土に埋まったら成長するかにゃ?」

「わ、私も胸だけ埋めたら成長しないものか……」


 ミィもリーフも今の体型で魅力的なんだけどなあ……と、話が脱線しそうになる。


「と、とりあえずここに根を張るのは止めた方がいいと思う。これ以上成長したらおばあちゃんになっちゃうかもしれないし……」

「……どうだろうな、3日で実が熟すようになるから、一番熟した身体になる可能性もあるが……」

「土の精霊様、彼女を実験台にするのは止めてあげてください……」

「む、すまんすまん冗談だ。ちょっと好奇心がな」


 冗談に聞こえませんって……。


「それはさておき、勝手に成長させてしまってごめん。まさか植物系の亜人にも効くとは思ってなくて……」

「い、いえいえ、私が不法侵入したせいですから! ごごご、ごめんなさいぃぃ!」

「……じゃあ、お互い様ってことで……それだけ成長したなら誘惑もできるようになったんじゃないかな」

「そ、そうですね……」


 アルラウネの子が自分の胸をぺたぺた触りながら微笑む。

 あとは自信さえつけば、立派なアルラウネになるだろう。


「そ、それで……ゴローさんは私の身体、どう思います……?」


 アルラウネは光合成で栄養を補給するが基本的に花弁は閉じていて、人型の本体は日光に当たらないためか、肌は抜けたように白い。

 細い手足や身体に対して胸はとても大きく、一層その大きさを引き立たせている。


「そうだね、魅力的だと思うよ」

「あ、ありがとうございます……ちょ、ちょっと自信がつきました……」


 胸に関しては言葉に出すことはしなかった。

 ……だって、後ろにさっき胸がどうこう言ってたミィとリーフがいるから、言及したら何か言われるかもしれないし。


「そ、それでその……よ、よければなんですけど……しばらくここに留まって、成長したお礼にゴローさんたちに蜜を提供したいのですが……」

「蜜?」

「そうですネ、アルラウネの作る蜜は絶品らしいでス。これの匂いで旅人が引き寄せられるほどですかラ」

「ゴロー! ミィも蜜が欲しいにゃ!」

「そうだな……健康にもいいと聞くし、私も飲んでみたい」

「スーも! スーもアルラウネおねえちゃんのみつのみたい!」


 ミィとリーフ、そしていつの間にか土の精霊からスーに戻っていたスーも賛同する。


「それじゃお願いしようかな……ええと」

「あっ、すみません自己紹介が遅れました……わたしはルゥ、アルラウネのルゥです」

「それじゃルゥ、今日からしばらくよろしく」


 俺はルゥに手を差し出すと、彼女は俺の手をぎゅっと握り返した。




**********




「それじゃ、こことかどうかな?」


 俺はルゥを川の傍の土地へと案内する。

 日当たりもいいし、植物に必要な水も豊富だ。


「はっ、はい! わたしにはもったいないぐらいですぅ!」

「もし野生の動物とかが来て危なかったら呼んで欲しい、いつでも駆けつけるから」

「あ、ありがとうございますぅ……そ、それで、蜜なんですけど……夕方ぐらいに来ていただければ作っておきますので、よ、よろしくお願いします……」


 なるほど、昼間は光合成を行い、それを元に蜜を生成するのかな。


「分かった、それじゃみんなが交代で取りにくるよ……楽しみだなぁ」


 あれだけ美味しい美味しいと言われたら気になって当然だ。

 ハチミツみたいな感じなのかな。


「あ、そ……それでしたら……これを……」


 ルゥはツタを器用に動かし、蜜を掬って俺の目の前に差し出してくれる。


「ありがとう、それじゃ……ッ!」


 食べた瞬間に甘い香りが口の中に広がる。

 粘り気は少なめで、スッと飲み込むことができ、どれだけでも飲めそうな感覚に陥る。


「なるほど、確かに絶品だ。……こっそりもらったのがみんなにバレないようにしないと……」

「ふふふ……」


 ルゥが笑顔を見せる。

 ……なるほど、こりゃ旅人も惑わされるわけだ。


「それじゃ、今後もよろしくね、ルゥ」

「……はいっ!」


 こうして、家の周りに住人が一人増えたのだった。

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