11.お試し土魔法
「ぱぱーっ、おきてー! あさだよー!」
土の精霊の分体であるスーは、そう言うと同時に俺の布団にダイブしてきた。
ぽふっと言うかわいらしい擬音と共に俺の上に馬乗りになる。
「ああ、起きるよ。ありがとうな」
「えへへぇ……」
俺はスーの頭を撫でながら、ゆっくりと身体を起こす。
「ゴロー、おはようにゃー」
遅れてミィも俺の部屋に入ってくる。
……顔を赤らめながら。
「えへへ、きょうはミィおねえちゃんのばんだね!」
「た、楽しみにしてたにゃあ……」
ミィは俺の傍に来ると顔を近づけ、そっと目を閉じる。
俺はそれに応え、ミィに唇を重ね、しばらくしてから離す。
「はぁ……幸せにゃあ……」
……これがスーが来てからの日課になっている。
どうも、スーの「俺がパパ」宣言からみんなの様子が変わり、スキンシップが過度になっている。
いや、番だからこれぐらいは普通なのかもしれないけど。
さすがにあの時みたいに若干暴走して、こどもが欲しいとまでは言わないが、触れ合うことは多くなった。
夜は交代で俺と誰かもう一人で温泉に入るようになったし。
(スーの発言に促されて発情期にでも入ったのだろうか……)
でも、こどもを作るようなことはしてないですよ。ええ。
だってミィ12歳、リーフ15歳だし。この世界では成人年齢が違うのかもしれないけど。
ちなみにスーはみんなのことを「おねえちゃん」と呼んでいる。
これにより、みんなスーを実の妹のようにかわいがっている。
ミィは一緒に走って身体を動かしたり、リーフは空の散歩に連れて行ったり、レムは岩で人形などを作ってあげたり。
傍から見たら本当に仲のいい姉妹にしか見えない。
なお、この一連のスキンシップはスーが始めたものだ。
数日前、ミィたちと俺を起こしにきたと思ったら、いきなりおはようのチュー……これで番になってしまった。
そしてそんなことをするものだから、みんながこれをやりたい!って騒ぎだして。
……まあ、番らしいことをあんまりしてあげられてなかったから、これぐらいはいいかな。
と、油断してたら今度は「ぱぱとおんせんにはいりたい」と言われて、これもみんなで交代で入るように。
土の精霊さん? なんかスーに偏った知識持たせてません?
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それはさておき、土の試練で覚えた魔法を使って今日で三日目だ。
説明通りだと三日で収穫ができるようになっているはずだが……。
試しに植えてみたのはリンゴ。
どうやら神様が転生特典に色々な種を倉庫に用意してくれていたようで、これもその一つだ。
地面に種を蒔いてから魔法を発動させるのだが、これが結構な魔力を使った気がした……けど、魔力切れを起こすほどではなかった。
その後は適度に水をやり、他の野菜などのお世話をしつつ一日の作業を終えた。
一日目。いきなり芽が出てきた。
二日目。いきなり木になった。栄養とかはどうやって……?
そして今日が三日目。果たしてどうなっているのか……。
「うわぁ……すごいにゃ!」
ミィが目を丸くして樹を見つめる。
そこにはリンゴが鈴生りになっていたのだ。
「よし、ちょっと食べてみようか」
俺たちはみんなで食べる分だけリンゴを収穫し、台所に戻る。
みんなの分を切り分けて、お皿に盛りつけて……あ、スーのは皮をうさぎのようにしてあげよう。
「はい、お待たせ。これはスーのだよ」
「わぁ……うさぎさんだ! ぱぱ、ありがとー!」
スーにうさぎのリンゴを渡すと、目を輝かせてそれを見る。
そしてしばらくそのまま鑑賞して……あれ? 食べないんだろうか。
「うさぎさんたべるの、かわいそう……」
あー、確かに俺もそんな時代あったなあ。
と懐かしく思いながらもそのまま見守っている。
「で、でも……たべないとくさっちゃうんだよね……? うさぎさん、ごめんなさい、ありがとう……」
うさぎさんに感謝をしつつ、スーはリンゴを口に運ぶ。
そして一口シャクっと食べて、再び目を輝かせる。
「おいしー!」
ただおいしいとだけ言うと、そのまま二口、三口を食を進める。
そして気が付くとペロリとリンゴを平らげた。
「うむ、確かにこれは美味しいな」
「ハイ、ワタシもそう思いまス……それかラ……」
スーが一つ目を食べ終わると同時に他のみんなも食べ始める。
どうやらスーが食べ終わるのを待ってくれていたようだ。一番を妹に譲ってあげたんだな。
そしてレムが何かを言おうとしていたけど……。
「確かに、レムの思っているようにこれはただのリンゴではないな」
「ハイ、微弱ながら魔力が含まれているようでス」
魔力?
確かにこれは魔法を使って作った物だけど、育つ過程で魔力を含むようになるのかな?
「魔力が含まれるリンゴって珍しいの?」
「ああ、魔力の豊富な場所で育つと、それに影響されて魔力を含むことはある。」
「そしテ、その分だけ味が変化したリ、大きさが変化したりしまス」
「ふーん……? ミィはおいしいから大歓迎にゃ!」
「スーも、このリンゴおいしくてすきー!」
どうやら魔力を含む食べ物はみんなの舌に合ったようだ。
悪い影響もなさそうだし、この魔法があれば食料問題は解決だな。
その後、採ってきたリンゴは一つ残らずみんなの胃袋に収まり、穏やかな午後を迎える。
これならもっと色々なものを育てられるな……栗とかミカンとか……そういえば、すぐに育つけど季節とかは関係なく育つんだろうか?
それにこれだけ楽に育つなら飼料も作れるから、バトルボアを家畜化できるかもしれない……そうすればお肉も今よりもっと食べられるようになるかもしれない。
狩り過ぎて生態系を狂わせたりしないように、その辺も考えていかなきゃな……。
などと考えながらも、今日はミィと一緒に日向ぼっこをしてのんびり過ごすことにした。
リーフはスーの遊び相手、レムは岩石生成の精度を上げる練習をするとか。
こうして、のんびりとした一日が終わる……はずだった。
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「ご、ゴロー! 大変にゃ!」
ミィに身体を揺すられて目が覚める。
目を擦りながら飛び起きると、ミィがリンゴの木を植えた畑の方を指し示す。
「お、起きたらあれがあったにゃ!」
「あれ……? あ、あれは……!?」
畑の方を見ると、人のサイズよりも大きい、綺麗な花が咲いていた。
「もしかして……リンゴだけじゃなくて、花も魔法に巻き込んじゃってた……?」
魔法の対象は育てるものではなくて、土。
だからその土の周りに植物などがあると、巻き込んでしまうらしい。
なので、できるだけリンゴの種以外を排除して魔法を使ったんだけど……。
「でも、あんなに大きくなる花なんてあるのかな……」
などと俺が考えを巡らせていると、リーフたちが帰ってくる。
「ゴロー、どうした?」
「ああ、あの花が突然畑にあって……驚いてたところだよ」
「おおきいおはなー! きれーい!」
スーは好奇心旺盛なので、花に向かって駆け出した。
「ちょ、ちょっとスー! その花は危険かもしれないんだよ!?」
慌ててスーを止めようとするが、スーはそのまま花の元へとたどり着いた。
「ぱぱ、だいじょうぶだよー! だってこのおはな……」
スーが花を両手で揺すると、閉じていた花が開きだす。
そしてそこからは……。
「あるらうね、だもん!」
豊満で綺麗な、裸の女性が姿を現したのだった。




