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1.出逢い

今回はのんびりめの更新です。

気長にお付き合いください。

「にゃあ……ミィと(つがい)になって欲しいにゃぁ……」


 まずい。

 非常にまずい。


 上気した顔。

 潤んだ目。

 猫のような耳と尻尾を持つ女の子は、それらを嬉しそうにピコピコさせながら、俺を地面に組み伏せている。

 抵抗をしようにも、持っていた剣は押し倒されたその時に手放してしまい、手の届かない所に弾かれてしまった。


(転生早々、どうしてこんなことになってしまったんだよ!?)


 そんなことを思っている間にも、彼女の火照った顔はどんどん近づいてくる。

 そして、唇同士が重なりそうになり――。




**********




 ……事の起こりは数十分前。


 いつから俺はここにいたのだろうか?

 気が付いた時には星の光すらも見えない、暗闇が支配する空間に立って……いや、浮いていた。

 あたりを見回しても何一つなく、身体を動かしても何にも当たらない。

 一瞬宇宙空間だろうかと思ったが、もしそうだとしたら息ができるのがおかしいし、光がないのに自分の身体がハッキリと目視できるのもおかしい。


 地球上にありそうでないこの空間はどこなのか?


「一体何なんだよここは……うわっ!?」


 何とかして現状を把握しようと思考を巡らせていると突然目の前が光り、真っ暗闇だった空間がまばゆい光で溢れていく。

 突然の閃光に条件反射で目を閉じ、光が収まるのをただ待っていたその時だった。


「聞こえるか、紡……吾郎よ……」


 頭の中に直接響いた声に驚き、俺は目を見開く。

 今までに聞いた覚えのない声なのに、俺の名前を言い当てた人物は一体誰なのか。


「な、なんで俺の名前を!?」


 俺がそう言うと、暗闇からすぅっと豊かな髭を蓄えた老人が姿を現した。

 その老人に俺の抱いた疑問を投げかけると、髭を触りながら渋い顔をする。


「実はな……お主は動物を庇ったことで命を落とし、ここにたどり着いた」


 その言葉を聞いた瞬間、頭にズキッと痛みが走る。

 ……そうだ、思い出した。

 俺は子猫を車から庇い、撥ねられて頭を強く打ったんだ……それが致命傷になって……。


 更に記憶を手繰り寄せると、その子猫は俺の身体がクッションになったのか奇跡的に無傷で、助けたお礼なのか頭から血を流していた俺の傷を舐めてくれていた……気がする。


「あの、その動物……子猫だったと思うのですが、その子は無事だったんですか? おぼろげですが、俺の記憶では無傷だったと思うのですが……」

「うむ、お主の言う通りで外傷もなく、無事に飼い主の元へと戻って行った」

「そうですが、よかった……」


 俺の記憶通り、子猫が無事だったことにホッとして胸をなでおろす。

 しかし次に湧いてくるのは自分への疑問。

 死んだはずの自分がどうして生前の姿のままここにいるのか。その疑問を老人へとぶつける。


「ところでここはどこで……あなたは誰なのでしょうか?」

「ここは命が生まれ変わる場所……そして儂は……そうじゃな、お主たちの言葉では神と呼ばれておる」

「か、神様……!?」


 命が生まれ変わる場所……それは俺が死んだからここに来たというのには納得した。

 しかし、なぜ神様と対面しているのだろうか?

 神様は閻魔大王のような存在で、俺の今までの行動によって生まれ変わる先を決めるような存在なのだろうか?

 俺が考え込んでいると、神様はこう告げた。


「本来、お主の寿命は80歳だったはずなのじゃ」

「80!? で、ですが……」


 慌てて俺は自分の姿を確認する。

 鏡のようなものはなく自分の顔を確かめることはできないが、肌にシワがあるわけでもないし痩せこけているわけでもない。

 多く見積もっても30代、少なければ20代かそれ未満と言ったところだろうか。

 自分の寿命からは到底考えられないような若々しい肌だ。

 俺が与えられた情報に混乱していると、神様は続けた。


「手違いが起こったのはお主が動物を助けた時じゃ。あの時、本来死ぬはずだったのは動物……子猫の方だったのじゃよ」

「そ、そんな……! あの子はまだ子猫で……!」

「寿命というものはあらかじめ定まっているものなのじゃ。事故で命を落とすのも、病気で命が奪われるのも、実は寿命が尽きたからなのじゃ」

「しかし……あの子猫は生き残ったのですよね?」


 そう、俺が助けた子猫は無事だと先程神様から告げられた通り。

 寿命が尽きたはずなのに死んでいない。

 これは矛盾しているのではないかと思っていると、神様はその通りだと言わんばかりに頷く。


「子猫の寿命が尽き、車に轢かれて死ぬはずだったのじゃが、そこにお主が割り込んだ。そして本来死すべき子猫をお主が抱いていたことで、命を管理する儂の部下がお主が死んだものと勘違いし、ここに招いたのじゃ」


 つまり、俺は子猫の代わりに死んでしまったということ。

 それなのに、不思議と子猫も神様もその部下も恨もうという気は起きなかった。

 子猫を助けようとしたのは俺自身の意志だし、自分の命に代えてでも助けたいと思うぐらい俺は動物が好きだったからだ。


「……そういえば、寿命が尽きたはずの子猫はその後どうなったんですか?」

「それについてなのじゃが、寿命の整合性を保たせるために子猫にお主の寿命を分け与えた。人と猫では生きられる年数が異なるため、その猫が将来産む子どもたちにも分け与えておるが……」

「なるほど、それなら安心しました」


 俺が死んで子猫も寿命が尽きたのではただの死に損だ。

 しかし、子猫が俺の代わりに生きてくれるなら俺のやったことに意味はある。

 どことなく心が軽くなったような気がした。


「……さて、話を戻すがこちらの不手際でお主は早く死に過ぎてしまった……。そこで、代わりと言ってはなんだが、今ある記憶を引き継いで別の世界に生まれ変わり、今度こそ天寿を全うしてもらおうと思ってな……」

「転生、ですか……」


 別の世界に転生するということは、同じ世界に生まれ直す輪廻転生とはまた違うものなのだろう。

 もしかすると今ある知識も役に立たない世界かもしれない。

 果たしてそんな状態で天寿を全うできるのかという疑問が湧いてくる。


「ふむ……今ある常識が通用しないのではないか、という顔をしておるのう」

「そう……ですね。なにせ別世界なので……」


 見通されていた、流石は神様と言ったところか。


「それは大丈夫じゃ。その世界の基礎知識、生きていくのに必要な能力と生活するための住居は授けよう」

「ありがとうございます」


 それなら安心だな。住居があるという事はある程度の衣食住は保証されているだろうし。


「そして、何か一つ……その世界ではスキルという能力をお主に付与する。内容に関してはお主の望み通りにしよう」


 スキル……か。

 どんなことでもできる究極のスキルなどもできるのだろうが、なぜかそれは憚られた。

 なんとなくではあるが、そんなものを持っていたら悪目立ちして目を付けられるだろうし、人とのかかわりあいも大きくなってしまうだろう。


 そこで浮かんだのは先程の子猫。

 犬や猫、そういったかわいい動物たちと共に暮らしているのを想像すると、思わず顔がにやけてしまう。

 その世界にも動物たちがいるなら、その子たちと一緒に生活したい。


「では、犬や猫などの動物……つまり『()()()()()()()()()()()』スキルは可能でしょうか? そして住居はできれば人の寄り付かない田舎だと嬉しいです」

「うむ、それは可能じゃが……お主は少し変わっておるのう」

「変わっていますか……?」

「今までの転生者はやれ世界最強になれる戦闘スキルだの、やれ全てを創造でき何不自由なく暮らせるような便利なスキルだの、世界の理すら変えてしまうほどのスキルを所望したでの……」


 気持ちは分からなくもない。

 せっかく何でももらえるのなら、自分が唯一無二の存在になりたいのだろう。

 でも、俺は動物たちがいてくれればそれでいいんだ。


「俺はそのスキルしか考えられないです」

「……分かった、それでは目を閉じなさい」


 神様に言われた通りに目を閉じると、身体を暖かい光が徐々に包んでいく感覚がした。

 そして意識が少しずつ薄れていく。おそらく転生が始まったのだろう。


「……では、達者でな」


 その言葉が転生空間で聞いた神様の最後の言葉だった。

 身体全体を暖かい光が包み込むと、そこで意識が完全に途切れたのだった。




**********




 やがて意識を取り戻した俺を包み込むのは、太陽に照らされているような温かい陽射し。

 そして背中に伝わるのは柔らかい草の感触だった。


「ここ、は……」


 おそるおそる目を開けると、辺り一面には豊かな自然が広がっていた。

 山の中腹ぐらいだろうか、下を見渡せば木が絨毯のように敷き詰められている。


「確かに、これならよほどのことがなければ人は来ないだろうな……」


 そして背後を振り返ると木々に隠されるように二階建ての家が建っていた。


「これは……俺が神様に頂いた家……?」


 家に近づいても付近には人の気配はない。

 周りには手入れが行き届いた畑があり、収穫が間近の野菜も多い。

 更には魚影も見られる小川が流れている。

 そして……。


「この湯気……温泉か?」


 湯気の出る方へ行くと天然の温泉が湧き出ていた。

 これならいちいち木を切り出して薪を作り、お湯を沸かす必要もない。


 温泉の反対側には果実の実る木まで完備されていた。

 畑と合わせれば当面は食べる物には困らないだろう。


「ありがとうございます、神様」


 俺は神様に一礼をすると、家の中に入って行った。




「うわぁ……これ、俺一人で住むにはちょっと広すぎないかな……?」


 家の中を見て回ると、少なくとも10人以上は住めそうなぐらいの部屋がある。

 台所には食器や食糧、クローゼットにはこの世界の衣服など、生活するのに必要な物は全て取り揃えられていた。


「すごいサービス満点だなあ……」


 それにしても不思議なのは部屋数の多さ。

 ……もしかして、俺が『動物に好かれるスキル』を持っているから、ペットのための部屋を用意してくれたのかもしれない。

 ちなみに家の中にペットの姿は見当たらなかった。


「スキルがあるから自分が気に入った子を連れてこい、ということなのかな」


 スキルがあったとしても動物との相性というものがある。

 神様が用意してくれた子が実は相性最悪でした……なんてこともあるだろうし、そこは自分の足で捜し歩いた方がいいだろう。


「よし、それじゃあ初めてのペットを探しにいきますか! そして思う存分もふもふするぞ!」


 森にモンスターがいる可能性を考慮し、護身のための剣や軽装の鎧を身につけ、意気揚々と森の中へと入って行った。

 こういった装備をするのは初めてなのだが、この世界の基礎知識のおかげか問題なく身につけることができた。

 剣の振るい方も何となく感覚で分かるし、弓や槍の扱いも恐らく可能だろう。

 まあ、できれば戦いになるのは避けたいが……狩猟をしてお肉を食べるには、いつかは戦いもしないといけないことなんだよな。




**********




 そして森の中でペット候補を探していると、俺は一人の少女と出会うことになる。

 人間かと思ったが、その女の子は明らかに人間とは違うところがあった。


 頭の上には猫耳のようなものが生えているし、お尻には尻尾のようなものが見える。

 透き通った金色の髪の奥には赤い目が鋭く光っている。

 ……ワーキャットか。

 この世界の知識によれば、力はそれほど強くはないが俊敏な身のこなしで敵を翻弄し、研ぎ澄まされた爪から繰り出される攻撃で相手を削るスピードタイプのアタッカーだ。


「しかし……妙だな」


 ワーキャットは非力なため、スピードを活かして集団で敵を翻弄し、反撃を許すことなく倒すのが彼女たちの戦法だ。

 それなのに彼女の周りには同族の姿は見えないし、俺に気付いても仲間を呼ぶ素振りを見せない。


「……チャンスではあるか」


 俺は剣を構えて戦闘態勢に入る。

 ワーキャットのスピードからは人間は逃げることはできない。

 そのため、迎撃して力の差を見せつけ、撤退に追い込むのが得策だと考えた。

 モンスターといえども女の子だし、できるだけ傷をつけずに力の差を見せつけて撤退に追い込めればいいのだが……。


「にゃあ……男の子にゃ……!」


 ワーキャットがこちらを見て舌なめずりをする。

 男の子という言葉から、こちらを楽に狩れる獲物として認識しているのだろう。

 だが舐められるわけにはいかない。剣先を相手に向けてしっかりと相手の動きを見る。

 それに呼応して彼女も腰を落として臨戦態勢に入る。


 しかし、彼女の口から出た言葉は意外なものだった。


「……ミィと(つがい)になって欲しいにゃ……!!」


 番……?

 それはあれか。

 男女が生活を共にする……いわゆる結婚的な。

 え? なんで? 今出会ったばかりだよ?


 と、俺がワーキャットの不可思議な言葉にあっけに取られていると、彼女は力強く地面を蹴り、俺の懐めがけて一直線に飛び込んでくる。

 先程まで彼女のいた場所には土煙だけが残り、一瞬にして距離を詰められる。


「しまっ……!」


 俺は彼女の突進を避けきれず、体当たりによる強い衝撃によって剣を落としてしまう。

 そして、そのままの勢いで地面に組み伏せられた。



(まずい、抵抗できない……!)



 両腕を抑えられ、自由が利く両足もこの体勢ではまったく意味がない。

 多少彼女を蹴れたとしても、この体勢は覆らないだろう。


 殺される……!

 死の恐怖で目を閉じると、彼女はまたしても同じ言葉を続ける。


「にゃあ……ミィと番になって欲しいにゃ……」


 えっ?


 思わず目を開くと、眼前に彼女の顔が迫って来ていた。


 まずい。

 非常にまずい。

 上気した顔。

 潤んだ目。

 これは…完全に発情している。

 番になって欲しいというのはこちらを油断させる話術だと思っていたのだが……これは本気だ。

 違う意味で……危険だ。


 そうこう考えている間にも、彼女の火照った顔はどんどん俺に近づいてくる。

 彼女の息はだんだんと荒くなり、俺の顔を少しだけ湿らせる。

 そして、唇が重なりそうになり――。


「わ、わかった! 番になるから! だからちょっと待って!」


 思わず了承の返事をしてしまう。

 いきなりこんなことをされても困るから。

 せめて、せめて気持ちの整理をさせて欲しい。


 しかしこの言葉が効いたのか、彼女はあっさりと距離を離してくれた。

 そしてきょとんとした顔でこちらを見つめ、言葉を続ける。


「……え? なんで人間さん、ミィの言葉が分かるにゃ……?」


 ……どういうことだ?


「ミィの言葉が分かる人間さん、初めてだにゃ……」


 不思議に思い、彼女の口元をよくよく見ると、口の動きと言葉が連動していないことに気付く。

 これはつまり……神様からもらった能力の中に翻訳スキル的なものがあったと考えるのが妥当だろう。

 なんにせよ、意思疎通ができるのはありがたい。


「君の名前はミィって言うのか?」

「そうにゃ! ミィはミィって言うにゃ!」


 一人称が自分の名前か、かわいいな。

 言葉だけではなく外見的にも幼く、俺のいた世界でいえば中学生ほどの背格好でかわいい顔立ちだけど、そんな子が番を探していたのはどうしてなんだろうか。


「ところで、番になりたい理由はなんだい?」

「それは……ミィのカンがピーンってきたにゃ!」


 野生のカンというやつだろうか。確かに彼女は野生のモンスターだし、そういう能力を持っているのかもしれない。


「うーん、カンだけで相手を選んだらのちのち後悔しない? ほら、合わない所も出てきたりするだろうし」

「えーっと……人間さんには分からにゃいかもしれないけど、ミィたちが番になりたいって思える人は、一生のうちに1人、多くても2人って言われてるにゃ」

「そうなの?」

「なんでか分かんにゃいけど、それ以外の人とは番になりたくないって身体が拒否するみたいにゃ。ミィがいた集落の男の子にはピンと来なかったから旅に出て……」


 来たばかりでよく分からないけど、モンスターの子が番になりたいと心から思える相手はそうそういないらしい。

 同族の子で番になりたいと思わなかったら、異種族の子と番になるのが習わしなのだろう。


「それで、番を探しに旅に出たら俺に出逢った、ってこと?」

「そうにゃ! 見た瞬間から胸がドキドキして、絶対に番になりたいって思ったにゃ!」


 ミィが再び俺の顔に火照った顔を近づける。

 次の瞬間にも襲われそうなぐらいの勢いで。


「ちょ、ちょっと待って。俺の方にも心の準備ってやつが……ちゃんと番になるし、逃げないから安心して?」


 俺はそう言ってミィをなだめる。

 意外にもミィはあっさりと顔を離して、地面から俺の身体を起こしてくれた。


「……乱暴してごめんにゃさい……だって、ミィは人の言葉が分からないからこうするしかにゃくて……」


 ミィは俺の服についた土をパンパンと払ってくれる。

 強引だったのは言葉が通じないと思われていたからで、実は心優しい子なのかもしれない。


「そういえば気になったんだけど、言葉が通じないまま番になっても大丈夫なの?」

「それも不思議にゃんだけど、番になったらお互いの種族の言葉が分かるようになるらしいにゃ。ミィのいた集落でも、ミィの種族と番になった別の種族……ワーウルフの子がいたにゃ」


 なんだその都合よすぎる不思議な力。

 それなら無理矢理襲ってでも番になろうとする子も出てくるはずだ。


「そのワーウルフの子はミィとも話せてたの?」

「そうにゃ。種族さえ一緒だったら分かるようになるみたいにゃ」


 なるほど、ワーキャットと番になればワーキャットという種族全体の言葉が分かるようになるのか。

 しかしワーウルフなどの別の種族……人間からはモンスターと一括りにされているけど……の言葉は分からないということか。

 そして俺はミィの言葉が分かる、ということは。


「だから俺がミィの……ワーキャットの言葉が分かるのにびっくりしたってことか」

「そうにゃ。せっかく見つけた番になれる人なのに、もう他の子の番になってるって思って……でも、ミィと番になるって言ってくれて、すごくすごくうれしかったにゃ……」


 確かにワーキャットの言葉が分かるということは、ワーキャットの番がいると思われるのが当然か。

 でも、ミィと番になると言ったことで、俺に番がいないと分かって安心してくれたのだろう。

 そんな安心して耳を震わせるミィの顔を見て、少しドキっとしたのは彼女には内緒だ。


「ところで、番になるって具体的にどうするの?」

「それは……口付けすればいい、って聞いたにゃ」


 そういうことか。

 だから押し倒してあんなに顔を近づけて……って、今思い出しても照れてしまう

 でも、番になると宣言したならちゃんと約束は守らないとな。


「ねえ、あの……」


 早く番になりたいのか、ミィは俺の服の裾をぎゅっと握る。

 それもそうだろう、探し続けていた相手がようやく見つかったのだから。


「でも、ここじゃ誰かに見られているかもしれないから恥ずかしくてな……近くに俺の家があるから、そこに行こう?」

「分かったにゃ、ミィも旅してきて疲れてるし……えーっと……あなたの家に行きたいにゃ」


 おっと、そういえば俺の名前を伝えてなかったな。

 番になるんだからきちんとその辺は教えてあげなきゃ。

 ……しかし、この世界での名前はどうするかな。

 紡吾郎(つむぎごろう)……フルネームじゃちょっと呼びづらいだろうし……ゴローでいいか。


「ゴロー。俺はゴローだ、よろしくなミィ」

「こちらこそ、しゅ……末永くよろしくお願いしますにゃ」

「ははは、ちょっと噛んじゃったな」

「にゃー……」


 大事な場面で噛んでしまい、恥ずかしさのあまり顔を紅潮させ、耳が垂れるミィ。

 大きい耳は感情表現が豊かでかわいいな。


 気にするなと俺はミィの頭を撫でてあげる。


「にゃぁ……ゴローの手、おっきくてあったかいにゃ……」


 ミィは嬉しそうに耳をぴょこぴょこさせてほほ笑む。

 表情がコロコロ変わるミィは、見ていて飽きないしとても癒される。

 この世界で初めて出会ったのが彼女で良かったと俺は思った。……押し倒されたのはさておいて。


「さあ、それじゃあ家に行こうか」

「にゃ!」


 他愛ない話をしながら、俺たちは家に向かって歩幅を揃えて歩いて行った。

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