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つれづれウインド  作者: 風宮葉摘
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ゆる~く、ワイウイ あらすじ

序章 闇の王

 双子の風鳥島には、闇の王と呼ばれる絶対悪がおりました。

それを、闇の王の右腕だった風を統べる王、風の王・インが裏切り、インの導いた英雄達により討ち取られたところから、お話がスタートします。

風の王・インによれば、闇の王はまだ滅んではいないとのこと。

あいつは、精霊の力がないと滅ぼせないと生き残った英雄達は知らされます。

インは、この戦いで散ってしまった英雄のリーダー・レルディードと話を付けており、死んでしまった彼の体と、自らの魂を融合させ、新たな風の王を作り出して、未来で戦わせようと計画します。

インの計画に乗った英雄達は、三つの国を興します。

新たに産まれる風の王を、癒やしの力で守る姫の生まれる国・クエイサラー。

風の王に戦い方を教える国・カルティア。

正しい歴史を伝え、風の王を導く国・レイシルを興し、未来に復活する闇の王に完全勝利するべく備えるのでした。


 闇の王との戦いがお伽噺になってしまうくらい時は経ち、現在。

神樹の森と呼ばれる生き物のいない不思議な森を行く、風変わりな二人連れ。

早速登場、主人公のオオカミの亜人種、ウルフ族の青年・リティルと、今回の相棒の一対の角のある亜人種・エフラの民の少年・ディコが歩いておりました。(リティルは自分がウルフ族であることを知りません)

ディコには何やら相棒のリティルに対して不満があるご様子。

すーぐ、変なことに巻き込まれるは首を突っ込むは!と、小言を言っておりますと、何も生き物のいないはずの森で、何やら争う音が!

オオカミの耳を持つリティルはその音に反応して、咄嗟に駆け出します。

一体全体、何が起ころうとしているのでしょうか?



一章 銀の壁

 神樹の森を、機械仕掛けの猿型の人形に追いたくられる二人連れ。

一人は鎧を着込んだ青年騎士。もう一人は、それはそれは美しい可憐な女性。

二人は兄妹で、兄は妹を逃がすために一人猿型魔法人形・スグリーヴァ達を相手に戦う決意をします。

「あの数を一人で?正気ですか?兄様!」

「わたしは正気だ。さっさと逃げろ!」

ということで、妹逃げます。涙を飲んで。

と、逃げる途中、序章で登場した風変わりな二人連れ、リティルとディコに出くわします。妹、リティルと接触事故。「ええ?なんて、瞳の綺麗なお人……はっ!そんなことより」リティルに見とれていた妹、我に返って、「兄様を助けて!」と懇願。妹に「ここにいろ」と言い置いて、リティル即走ります。「ええ?ボクを置いていくの?いつものことだけど」と不満げなディコと共に、妹もリティルの後を追って戻ります。


 一方兄は満身創痍。討ち取られる寸前。死を悟ったとき、リティルが颯爽と現れて、五体の魔法人形を瞬間バラバラに。

「え?なんて強さ。わたしは子供に助けられ――は?大人?え?あの耳、人間?何者?そもそもなんでこの森にいるんだ?」と兄は急に現れたリティルを訝しがり思わず「貴様、何者だ?」と凄んでしまいます。

そんな兄に、リティルは怒りません。

「おまえ、クエイサラーの上級騎士だろ?なんでこんなところにいるんだよ?」と兄が、クエイサラーの高貴な出であることを見抜きます。確かな意思のある金色の瞳に、彼が小柄でも大人であることに気がついた兄、すぐに謝罪します。

そこへ妹到着。兄を「シェード兄様」と呼び、兄も「無事だったか、シェラ」と名を呼びます。

その名を聞いたディコ、勘づきます。「あの二人、クエイサラーの姫と王子?」リティルは名言を避けますが「たぶんな」と返します。

正体を見抜かれたことも知らずに、シェラは森を抜け、隣国・カルティアに行きたい旨を話します。シェードはまだリティル達を信用できず、腕も立って旅慣れてそうな二人を頼ることを迷います。シェードには、迷わなければならない理由があったのです。リティルは「森を抜けるまでに決めろよ」と言って、神樹の根元へ二人を誘います。


 神樹は超でっかい大樹。根っこも馬鹿でかいです。

神樹の根っこの下にキャンプを張った一行。リティルは皆から離れ、一人根っこの上へ。

皆が避けるこの森が、この大樹が好きなリティル、笛を吹いておりますと、ヒロインで麗しの姫君・シェラがやってきます。笛の音が聞こえたからと言うシェラに、リティルは「風の奏でる歌っていう曲なんだ」と教えてあげます。

クエイサラーのお姫様だと知っているリティルは、近寄りがたく感じていますが、シェラはお構いなしです。リティルがとても気になってます。

なんだかいい雰囲気で落ち着かないリティルに「明日辛くなるから、もう寝ろよ」と言われ、我に返ったシェラは根っこから落っこちそうになって、リティルにお姫様抱っこで下ろしてもらいます。(リティルに他意はまるでなし)見張りすると言って離れようとするリティルを、シェラは引き留めます。そして、怖いと言って泣きます。わざとじゃないです。リティル困りながら、抱きしめてヨシヨシする羽目に。

シェラは詳しいことは話せないとしながらも、心細くてたまらない、すべてはわたしのせいかもしれないと、胸の内をリティルに語ります。クエイサラーの姫だと知っているリティルは、そりゃ怖いよな?と同情しながら、大人な対応で慰めます。そんな様子を見てしまった兄・シェード。妹がどこの馬の骨ともわからない輩とイチャイチャしてる!と誤解します。そこに現れたディコに「わかりやすく怒ってみれば?」と言われ、シェード、リティルと剣で勝負。

リティルは「誤解だ」と言いながらも「クエイサラーの魔法剣士と試合できるなんてラッキー!」と嬉々として戦い始めます。男は拳で語る者!……剣でしたが、二人は和解。シェードはカルティアまでの護衛をリティルとディコに頼むのでした。


 章名にある銀の壁。それは、クエイサラー領とカルティア領の境にある、銀でできたテーブルマウンテンの名前です。テーブルマウンテンを一直線に砂漠まで貫く道で、道の両側に聳える銀の壁には、序章で触れた闇の王との戦いの物語が彫られていて、カルティアの観光名所でもあります。中間地点にお宿街があり、建物も壁をくり抜いて造られている変わった街です。

その道中、クエイサラーの魔法人形の大群に襲われる一行。

三十体くらいを相手に、リティルが一人残ります。

「ええ?貴様、何考えてるんだー!」と、当然の反応を返すクエイサラー兄妹を強引に説き伏せて、ディコ、リティルを置いていきます。ディコ、慣れっこです。

ディコ一行途中で、顔見知りの商人・ダグに会い、馬車に乗せてもらうことに。このダグ、口が軽くて、ペロッとリティルとディコの職業を明かしてしまいます。

二人は、カルティア王直属の組織・影のメンバーでした。隠密活動をする諜報と戦闘のプロ集団です。ああ、それで、クエイサラー兄妹が王家の者だと気がついたんですねぇ。

 そんなディコ一行の行く手を、象さん型魔法人形・アイラーヴァタが塞ぎます。

ここはディコの見せ場。魔法で巨大な象さんを仕留めます。そこへ遅れて到着するリティル。血まみれでシェードビックリ。だけど、傷がない?混乱しつつも敵を退け、一行はお宿街に到着するのでした。


 リティル、シェード入浴シーン。

ワイウイ、入浴シーン結構あるんですが、男風呂率非常に高いです。なんでなんだろう?

シェードはリティルに自分達の正体を明かし、改めてカルティアへの護衛を頼みます。

そして、シェラが狙われている秘密を教えてくれます。

それは、シェラが闇の王を倒すための要となる、強力な癒やしを扱う花の姫と呼ばれる、精霊になる娘だということでした。

闇の王との戦いの話は、双子の風鳥島ではお伽噺になっていて、子供の頃、誰もが絵本で読んでもらって知っているポピュラーなお話。けれども、それが史実だと知っている者は王家の者しかいないというお話です。

それが史実で、戦いはまだ終わっていないと聞かされたリティル、にわかには信じられずに、けれども、シェラが自分の父親に狙われていることは事実で、”影”であり、実は王が後見人のリティルは、カルティア王に直接会えてしまうオプション付き。オレほどの適任いねーじゃねーかと、リティルは改めて連れていくことを承諾します。

そこで、シェードが思いもよらない爆弾投下。

「貴様、妹に何をした!妹は、貴様に恋をしているぞ!」と。

「んな訳あるか!」と一蹴するリティル。そりゃ、シェラは超絶可愛いけど……と、でも、王族だしオレそんな格好良くねーしと、シェラより背低いし……と、まだ理性が勝っているリティルなのでした。

 部屋に戻ったリティル、シェードに詰め寄られ、傷がない理由を問われます。

超回復能力。傷がもの凄い速さで癒えるという特殊能力があることを、バラします。

 リティル達と別れたシェラ、夢を見ます。

金色の巨大なクジャク・インサーリーズ。幼い頃から夢に現れる彼女は、シェラのお友達。

インサーリーズは、嵐が迫っていると告げ、しかし希望はあると言います。そして、リティルがあなたを守るでしょうと告げます。そして「心のままに、リティルを翻弄していいんですよ?」とお墨付きをもらいます。ですが、シェラにも理性はあります。出会ったばかりの人に抱いているこの想いは、恋心なの?それとも勘違いなの?と可愛く苦悩します。

 所変わってリティル部屋。今度はディコが爆弾投下。

リティルはウルフ族という亜人種で、闇の王を倒す英雄となる、風の王でははないか?とのこと。そしてディコは、伝説の語り部で、エフラの民という亜人種であることを明かします。この二人、ディコが六才の頃から四年間一緒にいます。どうして今まで黙っていたのかと、”影”を取り仕切るボスであり、カルティア王の右腕である魔導士・ゾナは知っていたのか?と疑問はつきません。

このゾナさん、リティルを亡くなった養父の代わりに面倒見てくれた人でもあります。

リティル……結構凄い人達に育てられてますねぇ。



二章 炎のカルティア

 カルティア城の一室。宮廷魔導士・ゾナのお部屋。

ゾナってお名前ですが、男性です。

ゾナ、ウルフ族の幼女と会談中。大人びたこの幼女はウルフ族の長・ニーナと名乗ります。

ニーナは、時が来たと、双子の風鳥島の双子という名前の由来である、本土・ブルークレー島の片割れの島、幻のルセーユ島から来たのでした。

彼女、リティルとは面識はありませんが、知っています。なぜなら、封印球の中で育てられていたリティルを守っていたのが、ルセーユ島のウルフ族だったからです。

リティルは、ルセーユ島で大事に守られていたのですが、ニーナの父であり、前ウルフ族の長・ビザマの手によって、風の王の証を奪われてしまったのでした。その時、ウルフ族はニーナを残して全滅。ニーナは当時一歳でその話を、エフラの民から伝え聞いただけでした。

 そのビザマ、なんとクエイサラーの宮廷魔導士です。此度の、クエイサラー兄妹の出奔。ビザマが関係あるんでしょうか?

九年前落ち延びたリティルを、ゾナの親友である狐の獣人種・フォルク族のドルガーが拾い、育ててくれました。ゾナもカルティア王も、リティルが風の王であることを知っていたのでした。しかし、ドルガーは三年後、何者かの手にかかり帰らぬ人となってしまいます。そのショックで、リティルは風の王である記憶を失い、風の力も完全に失ってしまったのでした。

ゾナは、風の王の教育係として造られた魔道書です。ずっと、リティルを見守り育ててきましたが……戦士としては申し分なくても、風の王の力は戻らず、タイムリミットも近いとあって、頭を悩ませているのでした。

 

 リティル一行、砂漠の大国・カルティアに到着です。

リティルとディコは”影”には専用の入り口があると言って、路地裏にひっそりと佇む酒場へクエイサラー兄妹を誘います。

酒場のカウンターには、魔女のような出で立ちのゾナが待っていました。そして、カルティア王の下へとディコに案内を頼みます。

 先にカルティア王のもとへついたクエイサラー兄妹。

カルティア王と共にいたのは、件のウルフ族の長・ニーナでした。

ニーナに「人間であることを捨て、花の姫という精霊になる決心はついておるか?」と問われシェラは「はい」と躊躇いなく答えるのでした。

 聞きたいことがあると残ったリティルは、ゾナに「オレが風の王だって事、知ってたのか?」とズバリ聞きます。「そうだ」と答えるゾナ。ゾナに「運命を受け入れるかね?」と問われ、内心の動揺を隠しリティルは「やる以外にないだろ?」と強がって答えます。

 遅れて玉座の間に到着したリティルに、ニーナは試合を持ちかけます。

それは、ニーナがこれまで守ってきた、亡き母が僅かに奪い返した風の王の欠片を、リティルに返す儀式でした。風の王の力を使い、リティルに圧勝したニーナは、その力をリティルに返しました。欠片を受け取ったリティルは、実感ないまま、けれども「おかえり」と心が言うのを感じて、戸惑うのでした。


 シェラが、花の姫に転成するためには、緑のレイシルへ赴き儀式を受けるべし。

その旅の準備のための、つかの間の休息。

思い思いに思い悩むクエイサラー兄妹を、ニーナはカルティア城下へ行ってこいと半ば強引に送り出します。カルティア名物・鉱石パフェ。それを食べさせるため案内を押しつけられたディコでしたが、ニーナが気になって気が気じゃありません。途中別行動していたリティルに会い、クエイサラー兄妹を押しつけることに成功。リティルが彼等を案内することに。

 鉱石パフェを食べながら、様子のおかしいシェラに話を聞きます。彼女は、やはり、精霊になることについて、色々考えてしまっていました。

同じく、おまえは風の王なんだよ?と言われたリティルが堂々と見えて、シェラは思わず「精霊になることが、こわくないのですか?」と聞いてしまいます。

リティルは「全く実感わかねーな。おれ、空っぽだから」と答えます。そして、養父だったドルガーが殺されたことを話し、今はもう仇は捜していないと笑います。

たわいない話をしていると、フォルク族の同業者・ステイルが登場。妖艶な態度で、クエイサラー兄妹をからかいます。短い顔つなぎの後、帰るというステイルと共にシェードも帰ると言い出し、リティルとシェラは思いがけずデートする羽目に。

リティルには下心がまるでなく、カルティア城下を案内して回ります。

 デートの最後、街を一望できる高台で夕暮れを迎えます。

さあ皆さん!BGMの準備はよろしいですか?シェラ姫告白タイムですよ!

「こんなに楽しい視察は初めてでした」とお礼を言うシェラに、リティルは「デートだよ」と冗談を言って笑います。リティルの言葉を真に受けて顔を赤らめるシェラ、そんなシェラにドキッとするリティル。そして、慌てて「冗談だよ」とデートという言葉を打ち消しにかかります。

シェラが、リティルが風の王と知ってますます意識してしまった原因。それは、幼い頃から聞かされている事に由来していました。

花の姫は、風の王の妻となる娘。

風の王はリティルなわけで、リティルが気になっているシェラは、これは純粋に自分の心なのか、花の姫になる精霊の心なのかと、戸惑っていたわけです。

そこへ突然のデート。リティル、リードが上手かったんですねぇ。大いに楽しんでしまいます。リティルってば、超健全!超紳士!

妙な雰囲気を察知したリティルは「帰ろう」と促します。リティルが行ってしまう!

シェードに「悩んでいても何も解決しない。一歩を踏み出してごらん」と言われたこともあって、シェラは、行動に出ます。

リティルに抱きついて、想いを告――

シェラに好きだと言わせてはいけないと、謎のブレーキをかけたリティルは、自分がいかに普通じゃないかを語り始めます。シェラにドン引きしてもらうことが目的でした。

「オレがどんなヒドい傷を負っても死なない理由、君にわかるか?オレは、親父に守られた命をなくすわけにはいかねーから生きてるんだ。死んだヤツのことを思って生きてるんだ。こんな心じゃ、生きてる君と未来なんて夢見られねーよ」

更に「君の心をもらったら、傷つくことが怖くなる。そうなったら、戦えない」だから、こんなオレに告っちゃダメだと諫めます。

対するシェラは猛者でした。

「ならば、怖がって!誰も、あなたが傷つくことを望んでない。わたしを側に置いてください。必ず、癒します!リティルを、わたしが守るわ!だから……だからわたしを選んで」

わたしを選んで――好きだって言われるより凄い言葉で、告られる羽目に!

でも、リティルは理性の化け物です。アッサリ「君の心はもらえないよ」と振ってしまいます。まあそうですねよねぇ。シェラは大国のお姫様なわけですし……リティルは平気なようにみえて、これでもしっかり今後の自分に悩んでいるわけで。彼、童顔でもぶっきらぼうな物言いでも、中身きちんと分別のある大人なんです。

 振られたシェラは、わかっていた事だけれども落ち込んで、こともあろうにステイルみたいな人なら、あなたは選んだの?と泣くつもりはなかったのに泣いてしまいます。

ステイルは、ドルガーが生きていた頃からの知り合いで、現在十九歳のリティルよりも相当年上です。それよりも、姉貴のような存在で、恋愛対象では全くありません。

ステイルを好きだからわたしを振るのね?と言われ咄嗟に「シェラの方が好みだ!」と言ってしまうリティル。

「わたしの方が好み?」「ああ、君みたいな可愛い美人他にいねーよ」

……あれ?これって告白なのでは?

はたと気がついたリティルは、慌てます。そんなリティルに笑って、シェラはこう提案します。

「リティルの心を貰ってもいいですか?わたしの心を、受け入れなくてもいいですから」リティルに嫌われていないことがわかったから、それでいいと笑うシェラに押し切られ、リティルはシェラを好きだけれども、受け入れられない。シェラはリティルを好きだけれども、受け入れられなくていい。両片思いで決着となります。

 カルティア城へ戻り、シェードの前で泣き崩れるシェラ。

 リティルはディコに、お伽噺では悪役で伝わっている風の王を信用できないこと、もし、オレがオレでなくなったら、シェラを守ってほしいと告げます。

敵になるかもしれない。そうなったらリティルを討ち取る。そんなことを約束させられる十歳児のディコ!リティル、なんてお願いするんですかぁ!


 翌朝リティルは、カルティア海岸に出向きます。

クエイサラーの宮廷魔導士・ビザマのことを”影”であるリティルは当然知っていました。遠巻きですが、姿を見たこともあります。彼がウルフ族で、風の王の証を奪った者。そして今、花の姫となるシェラを狙っている?グルグル考えながら、リティルは、老ドラゴンのエズを尋ねます。

エズは、リティルに「思い出したか?」とわけのわからないことを聞いてきた過去があります。その当時は意味がわからなかったリティルでしたが、今ならわかります。彼もまた、リティルが風の王であることを知っていたのです。そして彼は、闇の王との戦いの生き証人でした。風の王の記憶も戻らなければ、使い方もわからないと訴えるリティルにエズは「傀儡の風を倒さないことには無理かものう」と意味深なことを言います。そして、風の王・インは味方だと言い切ります。

傀儡の風が、残りの風の王の証を持っている。戦いに行くというリティルを「無謀はよせ!」と一蹴し、エズは、皆と共にレイシルまで飛ぶことを約束してくれます。

さあ、次回は初めての空中戦です!



三章 緑のレイシル

 レイシルを目指して飛行中、案の定鳥型魔法人形・ガルダの襲撃を受けます。

迎撃戦ではなく、退却戦です。レイシルの大樹のような姿をした都には、魔法を無効化するシールドが張られています。そのシールドを越えれば、魔法人形は行動できません。逃げるが勝ちです。

ステイルは空竜使いで、シェードは大空の将軍。空竜の扱いに慣れていないリティルがいても、善戦します。

リティル風の王なのに、空中がとっても苦手。今のところ、風の王要素ゼロですねぇ。

あと一歩で逃げ切れる!その時でした。リティルが何者かの視線に気がつき、退却を止めてしまいます。それどころか、敵の大群のほうへ行ってしまいそうになります。

それを救ったのは、物理的にはシェード、精神的にはシェラの歌った風の奏でる歌でした。

「あいつを見たか?」リティルに問われたシェードは、何の話だ?と訝しがります。ならいいと引いてしまうリティル。

そんなリティルの様子に気がつくニーナでしたが、レイシルを仕切る五玉の司祭の登場で、会話を打ち切られてしまいます。

「ようこそ、レイシルへ」司祭長・クレアに誘われ、シェラはレイシルの地下から神樹の地下にある、初代花の姫・レシエラの墓所へ早速赴くことになります。

 魔力切れで寝てしまったニーナを部屋へ送る道中、リティルは傀儡の風が、ニーナの亡くなった母親・サレナであることを知ります。彼女はもう骸で、その中身は風の王の証。「そなたが恐れているのは、己自身じゃ」と「もう、死者と共に生きるのは止め、我々、生きている者と生きぬか?」とドルガーを眠らしてやってほしいと頼まれてしまいます。「もう、誰も失いとうない」ニーナの言葉に心を打たれるリティル。こんな心じゃ傀儡の風に勝てない。前を向こうと、決意します。

 クレアの案内で、レシエラの墓所に赴いた女性陣とリティル。

ステイルは、リティルがシェラを口説いていると思いこんでいて、不満を口にします。

「おまえには、あんな人形のような姫よりもっと――」それを聞いたリティルは笑います。「迫ってるのはオレじゃねーよ。シェラだよ」と。そして、風の王の力を取り戻して、シェラを手に入れるんだと決めていました。シェラを泉に入れ、戻ってきたクレアも交えてかねてからの友人の三人は談笑。

その時、リティルは何かを聞いた気がします。そして、シェラが泉に入ってからかなりの時間が経過していることに気がつきます。胸騒ぎを感じたリティル、入ってはいけないと言われていた約束を破り中へ突入。泉に足を踏み入れると、凍るように冷たい水にゾッとします。シェラが死んでしまう!慌ててシェラの肩を掴むと、彼女は気を失っていました。何も考えずにシェラを抱き上げたリティル。

なんと、シェラ全裸!「マジかよ!」と視線をそらすリティル。

ここでも紳士です!がんばれ、リティルの理性!

 シェラをクレア達に託し、一人墓所に残ったリティル。そこで、初代花の姫・レシエラに出会います。レシエラは、リティルの名を聞き、すぐに風の王であることに気がつきます。初代花の姫は、風の王・インとウルフ族の英雄の仲間なんですねぇ。知ってて当然です。

リティルは彼女から、レイシルに風の王の鳥がいることを教えてくれます。

風の王の鳥に会うことを、次の目的に定めたリティル。

シェードの計らいで、シェラと話をすることになったリティルは、シェラがなぜグイグイ来るのかその理由を知ることになります。

「明日がないかもしれないから、心のままにありたいの」

シェラの言葉に、ドルガーを唐突に失ったことを思い出すリティル。泉の中で冷たくなって気を失ったシェラの姿に、彼女と同じことを思ったリティルは、オレは死なないと言おうとして、言えませんでした。

傀儡の風に挑んで、生きて帰れる保証はないと、思ってしまったからです。

「オレは死なねーよ」と言ってはくれませんでしたが、言おうとしてくれたリティルに、シェラはありがとうと言い、そっと彼の頬にキスします。そんなシェラをリティルは抱きしめ、彼女の歌う風の奏でる歌を子守歌に、二人は寝てしまいます。

翌日目を覚ましたリティルは、目の前にシェラがいることに驚いて、ベッドから落っこちたのでした。「オレ……何かしたか?」と狼狽えるリティル。何もされてないと笑うシェラ。二十歳過ぎてたら、十八禁してたんでしょうかねぇ?

そんなリティルにシェラは「花の姫になって、あなたを守ります」と笑います。


 風の王の鳥、死の風・インスレイズ。闇の王を産み出す切っ掛けになった鳥でもあります。英雄達は彼女を闇の王から奪い返し、インを解放します。

インスレイズは、リティルに会えたことを喜び、傀儡の風がどこにいるのか教えてくれます。そして、当然の様にリティルの中に取り憑きます。リティルはまた、当たり前にあったモノを取り戻したような感覚を味わい戸惑います。

 強大な敵を前に、臆しながらも立ち向かう決意を決めたリティルの背後に、ここにいるはずのないシェラが現れます。

「なぜ一人で行ってしまうの?」

咎めるシェラに、リティルはただ来るなとしか言えません。

「わたしを待っていて!守りたいのよ、失いたくないの!リティルあなたを!消えてしまうかもしれないと思うなら、なおさらよ!わたしがあなたを繋ぎ止めてみせるから、どうかお願い……!」

食い下がるシェラは、前にも後ろにも進めないリティルを、ぶつかるように抱きしめます。

放したくない。失いたくない……。

このままシェラのそばにいたい想いを振り払い、リティルは「君が好きだ!だから、オレは行くんだ!」と叫び、行ってしまいます。

シェラに、口づけだけを残して。

リティル、ついにシェラに落ちましたが、二人は離れ離れに!切ないですねぇ。


 傀儡の風・サレナ戦。

強敵です。夜中から明け方まで二人は戦い続けます。タフです。

そして、ついにリティル勝利!で決着というとき、思わぬ横やりが!

クエイサラーの宮廷魔導士・ビザマの登場です。リティルから風の王の証を奪った人物でもあります。

ビザマの大地魔法で両腕を拘束されたリティルは、闇の王の欠片を無理矢理に飲まされてしまいます。内側から腐らされながら、それでも立ち上がったリティルは、インスレイズの力を借りて、ついに傀儡の風を討ち果たします。

風の王の証を取り戻したものの、リティルは闇の王の欠片を自分自身に封じ、証と共に戻ったお父さん――先代風の王・インに後を託し眠る羽目に。


 所変わってレイシル。

魔法人形の襲撃を受けていました。

もう、レイシルは落ちる!そんなとき、上空に現れたリティル!

しかし、様子がおかしい。彼の生き生きとした輝きの瞳が、絶対零度に冷えているではありませんか!

「花の姫、共に来い」と冷たい声で簡潔に言うリティルが、リティルでないことは誰もがわかりました。そうです。彼は先代風の王・インだったのです。時間がないとつぶやき、シェラを攫うイン。

シェラは抵抗しますが、為す術なく、インの放った特大の風の玉の着地点を見ることもできずに、滅びるレイシルを後にします。

 インに連れてこられたのは神樹の根元。インは「許せ」と短く言うと、いきなりシェラの唇を奪います。

何するの!と怒っていいところですが、インはリティルを助ける為に、花の姫の治癒の力をもらったと謝ります。リティルが生きていることを知って安堵するシェラ、インがレイシルを救ってくれたと知って、敵だと勘違いしたことを謝ります。インは気にした様子もなく、許してくれ、シェラが花の姫になりきっていないことを指摘します。

ニーナに調べてもらおうと、レイシルへトンボ返り。

 レイシルは風の王の鳥達、インスレイズとインサーリーズによって救われていました。

ニーナがシェラを調べると、シェラの精神の奥深くに呪いの様なモノがあって、それがシェラが精霊になることを阻害していることがわかります。

インは、幻の島・ルセーユ島へ渡る!と、皆を導きます。

エフラの民の賢者達のいるルセーユ島なら、シェラの呪いを解き、リティルを冒す闇の王の欠片を取り払えると信じて。

リティル、小休止。代わってお父さんのインが奮闘します。



四章 幻の島・ルセーユ

 ルセーユ島に渡り数日。

シェラは、呪いを解こうとしますが、心身に負担をかけるばかりで、一向に解ける気配がありません。目に見えて衰弱するシェラに、仲間達は心配顔。

そんなシェラを静かに見つめるイン。

インは、心の中のリティルにそっと話しかけます。リティルはすでに、意識を取り戻していました。しかし、表に出ることはできません。

「リティル、何分保つ?」

リティルと人格交代すれば、リティルに封じられている闇の王の欠片が動き出し、体が腐敗の毒に冒されてしまいます。しかし、シェラの呪いを解くには、もはや、解呪の禁じ手を使う以外にない状態でした。

それは、絆のある者にしか使えない方法で、確実だけれども、心で深く交わるために、気持ちよくてちょっと危険とのことでした。

リティルとあんなことやこんなこと?と狼狽えるシェラ。箱入りお姫様なシェラ、十八禁全般に知識がありません。インに、リティルは承諾していると聞き、ますます唖然。そんな関係じゃないのに……と大変困惑します。

 しかし、リティルを救えるのならと、シェラは覚悟を決めて、いざ十八禁へ――いえ、夜の儀式の間へ。リティルと再会を果たします。

腐敗が超回復能力を上回る前に、勝負を決めなくてはならないリティルに余裕はなく、シェラとの美味しい展開はおあずけ状態。リティルの理性が、十八禁を十五禁に!

見事シェラの呪いを解くリティルでしたが、直後腐敗の毒に冒され死地を彷徨います。精霊へ転成を果たしたシェラは、すんでのところでリティルから闇の王の欠片を取り除くことに成功します。

ああ、よかったと思ったのも束の間、闇の王の欠片から、闇の王が具現化。シェラに襲いかかります。

「シェラに触るんじゃねーよ」復活のリティル!闇の王を退けます。

リティルはダメージが深く、まだ主人格として表に出られませんが、二人は束の間の再会を喜びます。

そしてシェラは、リティルが闇の王と戦えば、死ぬかもしれないことを仄めかされます。それでも風の王を継ぐといい、リティルはインと交代。絶望に打ちひしがれるシェラを、インは慰めますが慰めきれません。シェラは、泣き止めないまま眠りに落ちてしまいます。

 それはそうと「リティル、なぜ交代しなかった?」インは、リティルを咎めます。腐敗の毒が超回復能力を上回ったら、インと交代する手筈になっていましたが、リティルはインの好意を無視してしまいました。

「我は魂に残った残滓にすぎない。所詮は幻だ。この体に残るのは、そなたでなければならない。今後、危険を冒すことは許さない。それから、花の姫を悪戯に遠ざけるな」

インの怒りが炸裂。リティルは悪びれなしですが、シェラを傷つけてしまった自覚があり、インに「涙を止めろ」と言われ無理矢理交代させられてしまいます。

 しかしリティル、シェラを慰めようとしますが、上手くいきません。

さらに、シェラにインと間違えられたことでイライラ。

ままならない体。インに敵わない精神。シェラのそばにいられない自分自身への苛立ちが、気遣うばかりで無理しているシェラへ向かってしまいました。

「オレが君を守りたいんだ!」と詰め寄るリティルに、シェラはこの人はまた無茶して、今度は死ぬつもり?と怒りを覚えます。互いに君が大事だとケンカする二人。

「オレを守りたいなんて言った奴、君が初めてだよ。シェラ、どうしてオレなんだよ?こんな不完全なオレを、どうして好きになんかなるんだよ?」シェラはわからないと答え「リティルだから好きなの」と笑います。

そんなシェラに、言わされてるみたいだと拗ねながら「君が大好きだ!」と告げるリティル。リティルの言葉に「本当に?」と驚くシェラ。「まさか、両思いだってこと、気がついてなかったのかよ?」とリティルはビックリ。なのに、十五禁を許したのか?とリティルは唖然。

とっくに恋人同士だったとこに気がついたシェラは、ドギマギ。そんなシェラにリティルもドギマギ。そんな二人に容赦なく迫るタイムリミット。リティルはインと交代してしまいます。甘々な恋人タイムは、おあずけとなってしまうのでした。


 一方、カルティアのゾナ。レイシルのクレアの訪問を受けています。

闇の王との戦いの伝説を継承するクレアは、リティルの体の提供者であるウルフ族の英雄が、闇の王と心中していたことを突き止めたと、それを知っていたのか?とゾナに詰め寄ります。

自分を作った賢者の記憶を持っているゾナは、知っていました。

リティルがこのまま英雄の道をなぞったのでは、彼は生き残ることはできないと、ゾナも考えていました。

クレアは、異空間にいる闇の王の場所に、ゲートと呼ばれる門を開くことを手助けできないかと言い出します。

次元を自由に越える力。それは、神樹の精霊の力でした。神樹の精霊の娘である、花の姫にも限定的ながらゲートを開く能力があります。

シェラは決戦の時、闇の王の居場所へゲートを開き、一人腐敗の充満する空間へ赴くリティルに、無限の癒やしをかけ続けるという戦いを強いられます。

クレアは、ウルフ族の英雄が生き残れなかったのは、初代花の姫が、最大限癒やしの力を使えなかったためではないか?と考えたのでした。

「リティルと姫に、未来を開いてあげたいのですわ」クレアは危機感を持っていました。そして、ゲートの力を固定する魔導具の作成に力を貸してほしいと、ゾナを頼るのでした。ゲートの力は神樹の力。その力を使うには、神樹の精霊・ナーガニアの手助けがいるとゾナは結論づけます。ナーガニアとコンタクトを取るには、風の王・インを頼るより他ない。ゾナとクレアは、ルセーユ島に赴くことを決めます。

クレアは、シェラの呪いは解けただろうか?とゾナに聞きます。ゾナは、難しいだろうと難色をしましました。通常のやり方では解けないだろうと。

クエイサラー王を知っているクレアは、彼の王が闇の王に下ったことが信じられない、シェラに呪いをかけたなんて……と未だに何かの間違いだと思いたい様子でした。

ゾナはそんなクレアに「呪いではないよ。いうなれば、父の愛情だ」と静かに告げるのでした。


 楽園では、インがシェードと手合わせしていました。

シェードが持ちかけたのではなく、インが誘っての試合だったのですが……思わしくありません。インとリティルの背が三十センチ違い、それによって、インは間合いが掴めないといいます。何か焦っているのか?と問うたニーナに、インは、剣狼の塔へ登ると告げます。

 ウルフ族に力を与える精霊の獣・剣狼。それは、剣狼の塔へ登る試練を経て、女王・フツノミタマに認められると遣わされます。剣狼を得たウルフ族は、多くの恩恵を受けられ、死ににくくなります。ちなみに、ビザマの剣狼は、英雄の剣狼だったティルフィングです。強力な剣狼で、彼以上のとなると、女王との契約が不可欠だとニーナは言います。

しかし、リティルはまだ日に数分しか表に出られません。そこでシェラが、リティルの中にゲートを開き、直接霊力を送ると言い出します。承諾せざるを得ないリティルでしたが、塔を上る間だけならいいと言い、シェラの機嫌を損ねるのでした。

 図書室に行くとシェラとディコが離脱。そんなシェラの様子にステイルは、探るような視線をインに送ります。「何か重大なことを隠していやしないかい?」そして「ゾナとクレアが、イン、あなたに会いに来るのだけど?」と告げます。

軍隊を指揮する権限を持つゾナ。司祭長であるクレア。国を離れられないはずの二人がここへ来る事実に、皆は不安を募らせました。

 強引にリティルと二人きりになったニーナは、どうなる運命なのか、知っているのか?とリティルに問いかけます。リティルは、知っていました。けれども、死ぬつもりはないと言い切ります。策もなく、何とかするというリティルに「他人事のように!リティル、失敗すれば死ぬのじゃぞ!」とニーナは憤ります。

「まだ、手はあるさ」とリティルとインには、自分のこと以外に心配事がある様子。

それは、シェラの事でした。

闇の王は腐敗の塊、花の姫の癒やしの力とは対極にある力です。実は、癒やしの力を用いても闇の王と戦う事ができるというのです。それをシェラが知れば、思いあまって闇の王に挑んでしまうのでは?と案じていました。


 図書館へ来たシェラは「このままでは、リティルは闇の王と心中してしまうかもしれないわ」とそんな結論に達していました。「わたしは誰かの決めた道筋しか行けない、人形から抜け出せない!」とシェラは絶望してしまいます。

それを慰めるディコ。ディコは「心中することが決まってるなら、リティルがお姉ちゃんと恋仲になんてなるはずないよ」とリティルが生きることを諦めているとは思えないと否定し「リティルを守る方法を探そう?」と諭します。それには、闇の王について知らなければならないと結論づけ、楽園へ向かっているというゾナとクレアに会う決心を、シェラは決めるのでした。


 リティルとニーナのもとへ、ゾナ、クレア到着。

インと険悪な空気を醸し出すゾナ。二人はどうやら、過去に何事かあったらしく、ゾナはインにいい感情を抱いていない様子でした。しかし大人な二人、争うことはしません。

二人はインに、神樹の精霊・ナーガニアへの助力を進言します。しかし、インは彼女と歴代風の王は犬猿の仲だと言い、助力は望めないと難色を示します。

「歴代」という言葉に、クレアは「精霊は不老不死ではないのですか?」と問います。インは「我で十四代目だ」と告げます。「風の精霊には寿命があるのですか?」と驚くクレアにインは「寿命はない。あるのは宿命だ」と静かに告げるのでした。

やはり、リティルの身が危ないと三人が確信したころ、シェラとディコがやってきます。

シェラはインに「リティルは死ぬの?わたしを欺いているの?」と詰め寄ります。

「あなた達を信じることができない!」とリティルを想うシェラを、皆は諦めるつもりはないと宥めます。

そして、治癒の力でも闇の王を攻撃できることを教えた上で、ナーガニアに助力を求めるつもりだとシェラに告げます。

インではダメだと知ったシェラは、精霊的母親である彼女に話をしてみると提案します。そして皆に「くれぐれも、リティルと離れる選択だけはするな」と釘を刺されます。「リティルとナーガニアが、シェラを巡って争うことはあってはならない」と、インは不安を口にするのでした。リティル、やりそうですからねぇ。

ステイルに「一人ではないよ?」と慰められ、皆の温かさに、シェラは安堵し涙したのでした。


 リティルとシェラのシーンは、断然夜が多いですねぇ。

皆がそろそろ寝静まろうかという時間、リティルが楽園を抜け出す姿を見つけたシェラは、当然の様にあとを追います。

リティルが訪れたのは、剣狼の塔を望む高台。シェラに気がついたリティルは驚きます。

「監視でもしてるのか?」と冗談を言ったリティルに、シェラはちょっぴり拗ねて意固地になってしまいます。

そんなシェラに苦笑しつつリティルは、滅びる前のウルフ族で、剣狼を相棒にできたのは、ビザマだけだったと告げます。シェラは自国の宮廷魔導士であるビザマをよく知っています。「悪い人にも剣狼は力を貸すの?」と問うてしまいます。シェラには優しい人だったビザマ。敵とは思いたくなかったのかもしれませんね。

ビザマがどんな人物なのか知らないリティルには、答えられません。ただ、ビザマの相棒である剣狼が、闇の王を倒した英雄の相棒だったティルフィングだと告げます。「剣狼は、ウルフ族と心を共鳴させて契約するんだ」と続けるリティルの心に何があるのか、シェラには読めません。

「さて、帰るか?」と立ち上がるリティル。リティルはまだ、長くは表に出られません。

インが眠ってしまっている今、ここでリティルが眠ってしまっては大変です。

「もう少しここにいるわ」と言うシェラに、リティルは「怒ってるのか?」と問います。「怒っていないわ」「怒ってるだろ?」の押し問答の末「抱きしめてやるから来いよ!」とリティル、強気に出ます。シェラはここで意地を張っても、いいことはないと、素直に折れ、リティルの胸へ。

そして、甘々イチャイチャタイム!でも、健全!したのはディープなキスのみ!

「オレはいなくなったりしねーよ」と言ったリティルに、激しく首を横に振るシェラ。

リティルはシェラが、このままでは生き残れないことを、シェラが知っていることを知ります。

「大丈夫だ。心配いらねーよ」その言葉で、すべての不安を押し殺すしかなくなったシェラは「信じているわ」と心にもないことを口にし、リティルを安心させるのでした。

イチャイチャしてても切ないですねぇ。


 迎える翌朝。

剣狼の塔に挑みますが、まったくいい成果を上げられません。

リティルに送る霊力が何かに阻害され、うまく渡せていないと感じるシェラ。

リティルの霊力の流れを探ったディコは、彼の胸に開いた不自然な穴を見つけます。

深く探ろうとしたディコを止めたインは、あとで話そうとディコに言い、一行は楽園へ引き返します。


 インは、リティルが風の王を憎んでいるのでは?と突きつけ、まったくそんなつもりのなかったリティルは狼狽え、インと押し問答に。

インはさらに、ビザマとサレナをリティルが知っていると指摘します。しかし、リティルには彼等の記憶は微塵もありません。

 そこへディコがやってきます。

ディコの一族が、禁呪・時魔法の使い手であることを突きつけ、インはディコに協力を要請します。僅かな逡巡の後、ディコはリティルの記憶を遡ることに同意します。

そして、インが示したその時は、リティルがビザマによって風の王の証を奪われる頃。でした。


 遡る記憶。

リティルは、封印球と呼ばれる球体の中で目を覚まします。

封印球の壁を隔てた向こう側にいたのは、サレナでした。サレナはビザマとの結婚を控えていると伝えてきます。幼いリティルはそんなサレナに「おめでとう」と言うのでした。親しさを感じさせる会話の途中、ビザマがティルフィングを連れてやってきます。剣狼の姿を見たリティルは「オレが契約したかった!」とむくれます。そんなリティルにビザマは「おまえなら女王と契約できるさ」と優しい瞳で言うのでした。

 場面は変わり、リティルはビザマに「赤ちゃんって何?」と尋ね、彼の大いに困らせます。そして、ビザマがウルフ族の長になったことを祝福します。

照れた笑みを浮かべながらビザマは「おまえはもっと、スゴイ者になるんだよ。リティル」と言うのでした。

 またまた場面は変わり、今度はサレナが泣いています。

ビザマは長老達と揉めていると言います。そして、リティルに助けを求めますが、封印球から出られないリティルにはどうすることもできません。ただ「父さん」インがもうすぐ出られると言っていると伝え、慰めることしかできませんでした。

 そして、ビザマがリティルから風の王の証を奪う場面に変わります。

「リティル!すまない、オレの我が儘のために、その力奪わせてもらうぞ!」そう言ってビザマは、リティルから風の王の証を奪い取ります。

そこへ来てしまったサレナ。動揺するビザマに「お父さんを、風の王の証を返して!」と正しく詰め寄ります。ビザマに振り払われたサレナは背中から倒れ、割れた封印球の破片によって負傷。それを見たリティルは絶叫。

「大丈夫、心配しないで」

血にまみれながら優しく微笑んだサレナを抱きしめ、リティルは僅かに残った力を振り絞って風を放ち、その場を脱出。

サレナに背中を押され、カルティアを目指すことになるのでした。

サレナは最後に「わたし達の娘、ニーナに会ったら愛していると伝えて」と言葉を託したのでした。

そうして、リティルは過去の記憶を取り戻します。

ビザマとサレナを慕っていたこと。インを「父さん」と呼んでいたこと……。

そして、謎。ビザマの言った、我が儘とは何なのか。


 中庭にいたシェラのもとへ、リティルはイチャイチャしに行きます。

ビザマは、クエイサラーの宮廷魔導士です。「彼を知っているか?」と尋ねてきたリティルにシェラは「とても優しい人だった」と答えます。「ニーナが言うような、恐ろしいことをしていたとは思えなかった」とも。

リティルのイチャイチャを咎めにきたシェードも、シェラと同意見で、ビザマは剣の師匠だと告げます。

シェードに、リティルと婚約しているような言い方をされたシェラは照れに照れ、そんな事実はないと否定してとリティルに言いますが、リティルは「いいんじゃねーのか?」とアッサリ肯定。真っ赤な顔で逃げ出したシェラを見送って「妹をあまりからかうな」と咎めるシェードにリティルは「貰っていく気は、あるんだぜ?くれるよな?お兄様」と冗談のように正式な許しを請うのでした。シェードはそれを、祝福します。

そしてリティルは、シェードに手合わせしようと持ちかけます。

戸惑うシェードに追い打ちのように、リティル対全員でと。


 皆を相手に大立ち回りを演じるリティル。

そんなリティルに、魔法を使えと促すニーナとディコ。

インのアドバイスで、ついに魔法を放ったリティルは、精霊へと完全に変貌を遂げます。

ここに、十五代目風の王・リティルが誕生した瞬間でした。


その夜、リティルは自身の欠片であるオオカミの牙の首飾りを贈り、必ず打ち勝って帰るとシェラに誓いを立てます。それを受け取ったシェラは、お返しにと深く考えずに、自身の欠片で作り出した黒いリボンをリティルに贈るのでした。その行為がどんな意味を持つのか、気がつかないまま。

これ、プロポーズですよね?そうですよね?


 翌朝、剣狼の塔に再度挑むリティルを見送り、シェードはシェラにクエイサラーの現状について話します。

クエイサラーは、氷に閉ざされ、国民はおろか父王の安否も不明でした。

おそらくビザマが掌握しているのだろうと、皆の見解は一致しており、ここ楽園が襲われることがあるだろうかという議論に移ります。

会話の後、そもそもビザマはどうやって、ここルセーユ島とクエイサラーを行き来していたのかという疑問に、ぶち当たりました。

 そして、クエイサラー兄妹はあることを思い出します。

それは、クエイサラーに伝わる『千里の鏡』と呼ばれる魔導具のことです。その鏡は遠くの景色を見る事のできる物とのことでしたが、もしかすると空間を瞬時に移動できるゲートではないかと思い至ります。

 そして、その使い方は当たっていました。

突如、空にゲートが開き、サレナを伴ったビザマが出現。

シェードとディコは、シェラを逃がすためビザマと対峙します。


 一方、塔攻略中のリティルとニーナ。

最上階に到着したところで、襲撃を受けます。

突如天井を割って突き刺さってきた無数の光の槍に、リティルは翼や腕を貫かれ身動きが取れなくなってしまいます。そして見上げた空に、シェラを捕らえたビザマの姿。

「リティル!三日後、クエイサラー城へ来い。闇の王と再会させてやろう」

三日ではリティルを救う手が打てない!シェラは決死の覚悟で「リティル!わたしは大丈夫。だから追わないで!」とリティルに残りの霊力を与え、自身を氷に閉じ込めます。

シェラを連れ去られるわけにはいかないリティルは、ビザマに戦いを挑みますが、サレナの妨害に遭い、すんでのところで背中から体を貫かれ、シェラに手が届きませんでした。

体を貫かれても平気そうなリティルはビザマに「どうしてもっと早く来なかったんだ?」と問います。ビザマは「おまえの目の前で、姫を浚わなければ意味がないだろう?おまえこそ、力を出し惜しみしてなんになる!」となぜかお怒りなご様子。

「本気、出してほしいのかよ?」とどこか余裕のリティルに、ますますご立腹。

しかし、ビザマ勢有利は変わりません。どうすべきか?と悩んでいると、真打ち登場。

剣狼の女王・フツノミタマが窮地を救い?ます。

そして勝手に「一週間の猶予と引き替えに、この女、首をへし折らずに返してやろうぞ!」と宣言。抗議するリティルを完全無視して、ビザマがその条件を飲むと、剣狼の女王は人質に取っていたサレナを返し、退却するビザマを見送るのでした。

 そのやり取りに納得いかないリティルは、ビザマを追うと息巻きます。それを、合流したゾナに「姫がくれた時間を、台無しにするつもりかね?」と止められ諭され、渋々一週間の猶予を飲むリティル。

そんなリティルに剣狼の女王は問います「汝は、我が力をなんのために欲す?」と。

リティルは「花の姫を心ごと守るためだよ。決まってるだろ?」と言い切ります。爆笑する剣狼の女王。気に入ったと、彼女はリティルと契約してくれます。

リティルは、見上げた空にシェラを想うのでした。


 攫われたシェラ、クエイサラーの自室で目を覚まします。

そしてなぜか「精霊にも死があるのだぞ、あなたの行いはきわどい選択だったこと、わかっているのか?」とビザマに叱られます。

勇ましい花の姫シェラ「リティルから引き離さなければ、こんなことはしなかったわ」と真っ向対立。

そしてビザマは驚愕の事実を突きつけます。

リティルを、予定よりも早く目覚めさせた理由。

ビザマは悪役に徹しますが、その言葉は、シェラを闇の王の魔の手から守る為だと聞こえます。

「この地の土を踏み、二十年。あなたが生まれた日のことを、不覚ながら覚えているよ。アクア、リティルの過去を知りたければ、そのリティルの牙に過去へのゲートを開け。あなたに、本気でリティルという男を愛する気があればな。もっとも、一点の染みもないあなたのように美しい者には、不可能だが。リティルを生かすか殺すか、選択するがいい」

ビザマはそう言い放ち、部屋をあとにするのでした。

 十年前の誕生日の日、覗いてはいけないと言われていた千里の鏡を覗いて締まったシェラは、闇の王に目をつけられてしまったのです。ゲートを通じ、このままでは内側から闇の王に乗っ取られてしまうというのです。

なぜ、鏡を覗いてしまったのか。シェラはそれを思い出します。

十年前、ビザマの後をこっそり付けたシェラは、鏡を通してリティルと会話するビザマの姿を見てしまいました。ビザマをやり過ごし、鏡に近づいた九才のシェラは、同じく九才のリティルの声に出会います。嫌な予感がしたリティルはシェラに、ここから離れるように言います。「また話せる?」と問うシェラにリティルは「わからないよ。オレ、ここから出られないから」と言い、シェラを遠ざけそれっきり声は聞こえなくなってしまいました。

九才のシェラは、このとき確かに、姿の見えない声だけの男の子に恋をしたのでした。

シェラは、ビザマに焚き付けられた通り、鏡を覗いてしまったが為にリティルが歩まされた道を知るため、彼のくれた牙にゲートを開くのでした。


 一方リティルは、神樹の森を訪れていました。

リティルが十五代目風の王だと名乗ると、ナーガニアは早く精霊の世界・イシュラースへ戻るように促してきます。そしてナーガニアは、闇の王は異空間に封じられている故、もう終わったことでしょう?となぜまだ拘っているのかと問うてきます。

シェラを救いたいというリティルに、ナーガニアは難色を示します。

「花に関わるのはおよしなさい。また命を落としますよ?」

娘のことよりも風の王の身を案じる意外な言葉に、リティルはそれでもシェラを救いたいと食い下がります。ナーガニアは困った顔をしますが、リティルの黒いリボンに気がつき「娘と、魂を分け合ったのですか?その意味を、あなたは本当に理解していますか?」と窺うように問うてきます。

「わかってるさ」と答えるリティルに、ナーガニアは「これもまた運命」と諦め、助力を約束して、竜の三種と呼ばれる魔導具と神樹の枝で作った槍をくれます。そして、闇の王と戦う際、槍を通して力を送ることを約束してくれました。

ハアと緊張を解いたリティルに、インが労いの言葉をくれ、ナーガニアが問うたことをもう一度繰り返します。「魂を分け合う意味を、本当にわかっているのか?」と。

自身の欠片で作ったアクセサリーを贈り合い、精霊の婚姻は成立します。

リティルはあっけらかんと「結婚したってことだろ?」と返します。

そして、二人はシェラはきっと気がついていないと笑うのでした。

四章長かったー



五章 水のクエイサラー

 風の王の翼の鳥・インサーリーズは、クエイサラーを訪れ、ビザマにリティルが神樹の精霊の助力を勝ち取ったことを伝えます。なんと、彼女はビザマと通じていたのです。

それは、シェラを守り、不完全な目覚めを強いられたリティルを導くためでした。

もう、その目的は果たされたとビザマは「おまえの主は、ずっと風の王だ」とインサーリーズに告げ、共闘関係を解消します。

インサーリーズはそれに従い、リティルのもとへ帰るのでした。

 ここからビザマの回想。

時は九年前。シェラが鏡を覗いてしまってから一年後のことです。

それは、クエイサラー王妃の死の真相。ビザマが悪役を演じることを決めた出来事です。

十年前、闇の王に見つかったシェラを守る為、ビザマはウルフ族の長老達にリティルを目覚めさせることを提案し続けますが、それが受け入れられることはありませんでした。

「花の姫は替えがきくが、リティルの替えはきかない。リティルが万全の仕上がりにならないかぎり、目覚めさせるのは得策ではない」冷たいですが、その通りです。

インは、ビザマの気持ちを汲んでくれ目覚めさせることに同意してくれていましたが、幼すぎるために、風の王の力を制御できずに暴走を繰り返すことになるだろうと、まだまだ不完全であることを隠しませんでした。故に、ビザマは踏ん切りがつかず、強行には及べませんでした。

 それから何の対策もとれないまま、一年が過ぎ、そして、事件が起こります。

それは、シェラの十才の誕生日の夜。

闇の王の寝所は、クエイサラー城の玉座の裏にあります。が、魔法で厳重に封印され、入れる者は極限られています。その入れないはずの場所に、シェラは闇の王に導かれ、入り込んでしまいます。シェードにそのことを告げられたビザマは、シェラの母親と共に寝所へ向かいました。

 駆けつけると時すでに遅く、シェラは半分乗っ取られた状態でした。

ビザマは闇の王が不完全な姫を乗っ取って復活しないように、クエイサラーの姫を監視していたのでした。それは国が興ったときからウルフ族の長に課せられた使命でした。

闇の王に乗っ取られたシェラを、殺さなければならない!すでに自分の娘に向ける情をシェラに持っていたビザマは、踏ん切りがつきません。

そんなビザマに、王妃は言いました。

「わたしが身代わりになります」と。

花の姫の儀式を受けている王妃も、弱いながらゲートを開く力を持っていました。王妃はシェラから闇の王を自分の中に引き込もうと言うのです。

「シェラを、リティルに会わせてあげてくださいね。今でもたまに、リティルの事を話すのですよ」

この王妃の言葉も、ビザマの背中を押した一因になってしまいましたね。リティルも、ビザマにあれは誰だ?としつこかったのです。

闇の王を代わりに引き受けた王妃を、ビザマは殺します。

そして、王妃から「シェラが十九才となり、花の姫の儀式を受けてしまうともう、わたしの力では守れない」と告げられます。

シェラの命の危機は、去ってはいませんでした。王妃の命を犠牲にしても、あと九年しかこのままでは生きられないと言うのです。

 打ちひしがれ、途方に暮れて風の王の寝所へ戻ったビザマは、リティルを強制的に眠らせて出てきてくれたインと話します。

憔悴したビザマの様子に、インは賭けを持ちかけます。

それは、リティルから風の王の証を一旦取り出し、この力に耐えうる力を手に入れたとき戻すというものでした。しかし、風の王の証をリティルから取り出すということは、王の証に宿っているイン=父さんを幼いリティルから奪うことになり、リティルは最大の導き手を失った状態で、強くならなければならなくなってしまうのでした。そして、インは眠りを強いられ、ビザマに助言することもできなくなり、風の王の証に宿ってからの記憶を失ってしまうというのです。

見事風の王の証を取り戻せたとしても、リティルには闇の王と戦う最低限の力しかなく、生き残れるかどうかはインにもわからないと告げられます。

ビザマは、シェラの命とリティルの命、どちらを取るか選択を迫られます。

インは「リティルが果てるとしてもそれは、世界を守り慈しむ風の王の宿命だ」と言い、二人を大事に想ってくれているビザマの背を押すのでした。

ここに、双子の風鳥島の大悪党・ビザマは誕生したのでした。


 ビザマに言われた通り、リティルの記憶に潜ってきたシェラは、リティルが風の王のひな鳥である記憶を失う切っ掛けになった出来事を目の当たりにします。

それは、養父・ドルガーの死。

狭い家の中で血まみれで事切れたドルガーを見つけたのは、当時十三才のリティルでした。リティルは、ドルガーのそばに落ちていた金色の羽根を見つけ、ビザマが殺したことを瞬間悟ります。オレがここにいたせいで、親父は殺された!と絶叫するリティルの背で、金色の翼は散り、風の王の証を取り戻すその時まで、二度と彼の背に生えることはなくなりました。

風の王の証を奪われてもビザマを信じていたリティルは、その心がドルガーを殺してしまったんだと絶望し、楽しかった彼等との記憶と共に風の王の力を拒絶してしまうのでした。

 記憶は、十四才のリティルにシェラを導きます。

そしてシェラはそこで、リティルが童貞でないことを知ります。

同時に、リティルがグレていたことを知ります。

 さらに記憶は、十五才のリティルに導きます。

ゾナに食ってかかるリティルは、ゾナと激しく戦闘ののち、雷の魔法で負けます。その直後、ゾナは誰かからの通信を受け、リティルに単独である場所に向かうように指示を出します。一人でと言われ、不安そうなリティルでしたが、ゾナは厳しい瞳で突き放します。 場面は変わり、戦場跡と思われるまだ火のくすぶる村に。

その惨状に倒れそうになりながら、リティルは懸命にゾナから下された、生存者の救出という任務をこなすべく村の奥へ。

村長の家と思われる大きな家の地下で、当時六歳のディコに出会います。ディコはリティルに名に反応し、すんなり救出されてくれます。風の王の導き手の一人であるディコも、幼いながらもリティルの事を知っていたんですねぇ。

 場面は変わり、カルティア城の一室。

リティルは闇に落ちそうなディコと対面し「オレの相棒になってくれねーか?」と持ちかけます。ディコはリティルと暮らすことを承諾し、泣き崩れます。

「大丈夫だ、心配いらねーよ」

ドルガーを失ってからなくしていた瞳の輝きがリティルに戻り、記憶は閉じます。

グレていたリティルに恐れを抱いたシェラでしたが、記憶を見たことで現在のリティルへの想いがさらに募るのでした。

リティル、嫌われなくてよかったですねぇ。


 一方神樹の森を後にして、カルティア城に赴いたリティルは王を訪ねます。

心配をかけたであろうカルティア王に現状の報告をすると共に、千里の鏡についてのことを尋ねるリティルに、王は、クエイサラー王の書簡を見せます。

最近届いたというその書簡には、ビザマの起こしたことが、シェラを守る為だったことが書かれていました。

王と話す中で、いろいろなことがビザマの思惑で進んでいたのでは?と疑問が湧き起こり、彼のスパイとして動いている者がいたのでは?とカルティア王は言います。

リティルには誰なのか心当たりがあり、インサーリーズを呼び出します。

「いつ、咎められるかと思っておりました」そう言うインサーリーズに、リティルは「クエイサラーに行ってきたんだろ?」と現状を尋ねます。

インサーリーズは、クエイサラーを覆っている氷はクエイサラー王の魔法で、命を削っていることを教えてくれます。どうするのか?と問うインサーリーズにリティルは、皆と約束した通り楽園へ一旦戻ると言って、カルティア王と別れるのでした。

 楽園の帰路、インサーリーズは「ここでの仕事が片付きましたら、私を滅してください」と言ってきます。そんなことはしないとリティルは言い、風の王の鳥を動かせるのは風の王しかいないことを指摘して、ビザマをそそのかしてリティルを予定より早く目覚めさせたのは、インだと言い切ります。インにはその記憶がないため、インには何も言えません。

責めたいわけじゃないとリティルは言い、もしビザマが目覚めさせなかったら、オレはいつ目覚めたのかと問います。インサーリーズは、シェラの娘の時代だっただろうと見解を示しました。

「それじゃ、シェラは闇の王に取り殺されるしかねーよな。あいつが言ってた、我が儘って、シェラのことだったんだな」とリティルは、すべてを許します。


 リティルが楽園についたころには、もう真夜中。

誰も起きていないはずの中庭に、ゾナが待っています。

リティルはゾナに、度の越えた反抗期のことを詫びます。ゾナはそんなリティルの詫びを受け入れません。ただの反抗期だからと。

そんなゾナに、リティルはクエイサラー王を助けてくれと頼みます。氷は得意ではないとしながらも、ゾナはクエイサラー王を助けることを承諾してくれます。

「必ず帰ってきたまえ」と言われたリティルは「そろそろ信じてくれよな」と返します。

ゾナは「オレはこれでも、とっくに君を認めているのだよ?十五代目風の王・リティル」と寂しそうに笑うのでした。


 クエイサラー城に軟禁状態のシェラ。ビザマから、戦える術があることを聞かされ、自ら戦う事を決めてしまいます。

そして、リティルを待たずに、闇の王の前へと無謀にも赴きます。

待ってー!シェラ姫ー!な展開に!


 七日目。約束通り開いたゲートを通り、クエイサラー城の玉座の間に侵入したリティル達は、氷付けのクエイサラー王を見つけます。王のことはゾナに任せ、一行は闇の王の寝所へ。

 待ち構えていたビザマに、シェラは自ら戦う事を選んだと聞かされて、闇の王のもとへ急ぐリティル。襲いかかるビザマとサレナを、ニーナと剣狼の女王に任せ、リティルは飛びます。

 シェラを飲み込みそうな、闇の王の腐敗の腕をディコの魔法が焼き、リティルはシェラ救出を成功させます。

シェラは、すべては自分のせいだと、だから闇の王と戦うのは自分でなければとリティルを遠ざけようとします。

そんなシェラにリティルは「オレの事、今はどう思ってるんだ?」と問います。

気持ちを疑われたと思ったシェラは答えます。

「わたしの心は決まっているわ!あなたが好きよ!何を見ても、何を見せられても、嫌いになどなれないわ!」

シェラを抱きしめるリティル。

「オレが闘う理由なんて、その想いだけで十分なんだぜ?ありがとな、シェラ。君に好きだって言ってもらえるなら、予定より早く目覚めてよかったぜ!」

大いに喜ぶリティルに毒気を抜かれるシェラ。

「オレを守ってくれるんだろ?」リティルにそう言われ、シェラは本来の役目を果たすことを承諾させられるのでした。

シェラの放った矢の軌跡を飛び、リティルは闇の王と対決するべく異空間へ侵入します。

 一方、リティルの代わりにビザマの相手をするニーナは、初めて、ビザマを父と呼びます。ビザマに「父と呼ぶな!」と言われて憎悪をぶつけるニーナ。

「リティルが帰ってこなかったら父上、わらわがあなたに引導をわたしてやろうぞ」と勇ましい娘の姿に、ビザマには、今更娘にしてやれることはありません。ニーナにしてやれることがあるとするなら、これしかありませんでした。

「心配しなくともリティルは帰ってくる。大丈夫、オレが連れ戻すからだ!」

そしてビザマは、サレナと共に闇の王のいる異空間へ飛び込むのでした。

ビザマを敵だと信じていたニーナは、ビザマの言葉に困惑しますが、以前ゾナが言った「例えば、守るため」という言葉を思い出し、ますます困惑します。そんなとき、剣狼の女王が、リティルが危ないと告げに来ます。

「嘘じゃ!リティルが負けるなど、嘘じゃ!」ニーナは見届けるべくシェラのいる壇上へ急ぐのでした。


 闇の王との戦いは、体が腐ることに耐えながら、ひたすら腐敗を浄化し続けるという、苦行にも似た我慢比べです。リティルが浄化しきるのが先か、闇の王がリティルを腐り溶かすのが先かの地味な戦いです。

強烈な腐敗の空気にさらされたリティルの体は、超回復能力を上回り、シェラの送ってくれる霊力をも凌駕してリティルの体を腐らせました。

このままでは競り負けると、インはリティルにナーガニアの送る霊力を体の保護に使う事を教えるため、ナーガニアの霊力を使って仮初めの肉体を得てリティルの前に姿を現します。インの導きで、少しマシな戦いができるようになったリティルでしたが、まだまだ闇の王を討伐できるまでには至りません。そこへ、ビザマが躍り込んできます。

ビザマに外に出ろ!と言いますが、ビザマは「おまえから風の王の力を抜き取ったとき、捨てた命だ!気にするな」と言い放ちます。

このまま二人を失うことは我慢ならないリティル、シェラの霊力と自分の霊力、そしてナーガニアの霊力を使って、腐敗を完全に遮断した空間を作り出します。その、生命力に満ちあふれた空間の為か、とうの昔に亡くなったはずのサレナ、ドルガーが助けに現れます。リティルは、慈しみ育ててくれた者達と共に闇の王の腐敗を戦います。

このままでは、埒が明かないと、リティルはインに、闇の王を形作る中心である核と、核に力を与える力の源のことを聞きます。核はどこにあるのかわかりませんでしたが、力の源の場所は辛うじてわかりました。リティルは、力の源を断つ決断をします。

しかし力の源は、巨大な闇の王の球体の体の奥深くにあり、ナーガニアの送る霊力で大穴を開けたとしても、失敗すれば腐敗に飲み込まれてしまうリスクがありました。

リティルは、インと共に攻撃することを選択し、ナーガニアの開けてくれた大穴を落ちるように飛びました。

力の源を破壊する!と思われましたが、リティルはその途中で標的を変えてしまいます。

リティルの耳に届いた赤子の泣き声。リティルは無意識に赤子を抱きしめていました。

それが、闇の王の核でした。

──泣くなよ……もう、大丈夫だ

リティルは、核を浄化し、闇の王を救ったのでした。



終章 ワイルドウインド

 闇の王の異空間から寝所に向かって、金色の風が刃の様に吹き出し、シェラ達のいる広場に金色の羽根が舞い散りました。

「必ず、帰ってくると言ったのに……」リティルの意識が消えたことで、シェラは闇の王とリティルが相打ってしまったと思い込み、涙を堪えます。

「これは、風の悪戯かね?」ゾナの声で顔を上げるシェラ。

そこには、リティルを横抱きに抱き上げたインと、ビザマ、サレナ、ドルガーの姿がありました。

ゾナが、リティルの抱いている赤子に気がつくと、インは闇の王の核だと告げました。

「我らはここで別れねばならない。リティルの霊力で、辛うじて存在を保っているにすぎないのだ」

ゾナに気を失ったリティルを託しながら、インは言いました。

「闇の王は消滅した。もう誰も、生き方を強要されることはない。自由に歩め。さらばだ」

インが片手を上げ太陽を見上げました。背後にいる者達も次々に手を上げ、空を見上げます。その姿が霧が晴れるように薄れて消えていきました。

ずっと心に住み、導いてくれた偉大なお父さん・インとの別れです。

「父さん……」

意識のないリティルの声に、インは太陽から視線をリティルにゆっくりと合わせました。インの冷たく感情の無い瞳が、暖かく、優しく微笑み、頬を涙が伝います。

「もう、我は必要ないだろう?リティル……」

ゾナの腕の中で眠るリティルの目尻から、涙が一筋こぼれ落ちたのでした。

表情筋の死んでるインの、渾身の笑顔!ああ、切ない別れですねぇ。


 リティルは、闇の王との戦いからずっと、一年の間眠り続けていました。

明日、戦いからちょうど一年となる今夜、やっと、リティルは目を覚まします。


 シェラとの再会を果たしたリティルは、クエイサラーで行われる、闇の王討伐の記念式典があるため、クエイサラーへ。


 式典の前、リティルはある人物を捜して温室を訪れます。

温室にいたのは、クエイサラー王でした。

シェラの父親であるクエイサラー王と言葉を交わしたリティルは、最後に王の前に跪きます。

「あなたの娘をオレにください。必ず幸せにすると、約束します」

クエイサラー王は、リティルのこの行動に驚きつつ「風の王、立って下さい、それはわたしがお願いすることです。どうか、娘をよろしくお願いします」とリティルの申し出を受け入れるのでした。

リティル、いい男です!しかし、直後、シェラとケンカして式典欠席。


 その夜。城門前広場に立つリティルのもとへシェラは向かいます。

「怒ってる?」「怒ってねーよ」のやり取りの末、二人は仲直り。

明日、リティルは風の王として精霊の世界・イシュラースへ帰ります。当然、シェラも王妃としてイシュラースへ嫁ぐことになります。

そんなシェラに、リティルは伝えなければならないことがありました。

それは――

「花の姫、オレは君から奪うだけで、何も与えてやれねーかもしれない。それでも、誰よりも君が好きだ。君を手放すなんて、考えられねーよ。シェラ・アクアマリン姫、永遠の時間を、オレと一緒に生きてくれねーか?」

それは、シェラへのプロポーズでした。

「ずっと前から、わたしの答えは決まっているわ。風の王、あなたと生きます。あなたの傍らで、あなたのすべてを守ってみせます」

シェラは一瞬の迷いなく、リティルのプロポーズを受けるのでした。

「やっと捕まえたわ。リティル……」シェラはリティルを抱きしめて、そっと目を閉じるのでした。

リティル、格好いいですねぇ!永遠にお幸せに!


後に烈風鳥王と呼ばれる、第十五代風の王・リティル。

精霊史上最後の風の王は、ここに誕生したのでした。

息子の雷帝・インファも誕生し、物語は2へ続きます。


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