-8- 精霊さんと研究機関
またソワソワし始めた隊長さん。伏し目がちにした瞳をチラチラとこちらに向けてくる。ヤダ何コレ。大人の男の人なのに、可愛いんですけどっ! 慌ただしくなる心臓を沈めようと、出していた物をリュックに詰めながら、気になったことを隊長さんに聞いてみることにした。
「あ、あの、精霊さんに連れてこられるなんてこと、よくあることなんですか?」
「いや、私の知る限り他の世界から来た人はいない。いたずらに飛ばされたり、精霊に気に入られる人間は、たまにいるんだが」
「いないんですか……。じゃあ、気に入られると何かあるのですか?」
「そうだな……」
隊長さんは、眉間にシワを寄せ下を向き黙ってしまった。
「一般的には、【幸運が訪れる】とされてるね」
答えてくれたのはフランクさんだった。
「幸運ですか?」
「些細な幸運だったり、運命を変える幸運だったり」
「運命を変える……」
「ちなみに、精霊と契約をすることが出きれば、国から特権階級を与えられることもあるよ」
「気に入られるのと、契約するのでは、違うのですか?」
「全然違うね。ほら、精霊は気まぐれって言ったでしょ? 気に入られてもすぐに飽きられちゃうとかザラなんだよ。だから、幸運も長続きしない。でも契約は違う。どちらかが死ぬまで、って言うか、精霊はほぼ不死とされてるだからどちらかと言うと人間側が死なない限り一生続くわけ。受ける恩恵も精霊に準ずるからら、魔法なんかも特殊になるんだよ」
「魔法、ですか?」
「そ、一般的な魔法は大まかに4大元素に分けられてて、生活魔法から俺たちが使うような攻撃系の魔法もあるんだ。ほとんどの人に多かれ少なかれ魔力はあるんだ。精霊と契約することが出きると力の増加や、精霊の得意とする事が契約者にも使えるようになるらしいんだ」
「らしいって、あまり知られてないんですか?」
「今までに契約をした人間が本当に少なくてね。文献にもあまり載っていないんだよ。研究したりする機関もあるんだけど、それこそ気まぐれな精霊が研究に協力してくれることなんてほとんど無いからね」
ファンタジー凄い……。私も魔法とか使えるようになっちゃうのかな?
「精霊によって左右されることも多いから、国が特別階級を与えて保護したりすることもあるんだ。研究機関は国の管轄だけど、一部過激な事をしちゃう人たちもいるからね」
研究機関こわっ!
「ちなみに、この人。精霊に気に入られてる人ね」
フランクさんは【この人】と、隊長さんを指差した。
「ええっ! じゃあ何でそんな本でしか読んだこと無いみたいな言い方したんですか?!」
「いや、それは……」
「精霊についてだって、フランクさんより知ってるんじゃないんですか?」
「隊長ね、精霊に気に入られてるけど、半分くらい振り回されてるから」
「振り回される?」
「気まぐれだけあって、色々と、ね?」
「はあ……」
色々と。と説明されてもよくわからないけど、普通の気に入られ方じゃないのは何となくわかった気がした。今でも困り顔なのだ。隊長さんは。
「なんにせよ、貴方は精霊によってこちらへ連れてこられた可能性が高い。契約まではわからないにせよ、今後どうしたらいいかを考えねばならないな」
「あの、信じてもらえるんですか? 私がこの世界の人間じゃないって」
「これだけの物証と、精霊の現象を鑑みればな」
「ありがとうございます」
「とりあえず、貴方の事は国に報告させてもらう」
「えっ! 報告ですか?!」
精霊絡みで研究機関に強制収用とか絶対に嫌なんですけど!
一気に不安になった私を見て、隊長さんは慌てて訂正をしてくれた。
「国に報告と言っても、知り合いに話す程度だ。研究機関に漏れることの無いようにしっかりと対応はするから、そんなに心配しなくても大丈夫だ」
隊長さんの言葉に、ホット胸を撫で下ろす。安心したところで、朝から考えていた件を隊長さん聞いてみることにした。
「あの、ここに居させてもらうことは出来ませんか?」
「ここにか?」
「はい。私、こちらの世界の事、何も分からないし、住むところもないので……。図々しい事を言っているのはわかるんですけど……。もちろん働きます! 掃除とか洗濯とか、お料理のお手伝いなんかはできます! お願い出来ませんか?」
少し食いぎみに自分をアピールしてみる。ここで職を得なければ路頭に迷って行く行くは野垂れ死にだ。学生だった自分が出来ることなんて多くはないだろうけど、精一杯やるしかないのだ。
「残念だが、ここに置いてやることは出来ない」
「そ、そうですか……」
就職失敗だ……。ショックで目の前が霞んでくる。
「いや、違うんだ! この砦は後数日で完全に人がいなくなる。遠征が終われば結界を施し、全員王都に帰還せねばならないんだ」
「じゃあ、一緒に王都に連れていってもらえませんか?」
王都ってくらいだから、働き口くらいあるよね。出きれば住み込みで働けたらいいんだけど……。
「もちろんそのつもりでいる」
「ありがとうございます!」
連れていってくれるだけでもありがたい。この先は何がなんでも衣食住をゲットしなければ! ついでに、紹介とかしてくれないかな、国で働く人の紹介なら、危ないとこ何て無さそうだし……。なんて図々しいことまで、頭をよぎる。この際なりふり構ってられないのだ。今頼れるのはこの人たちだけなんだ。そう思いながら、さらなるお願いを口にしようとした時……。
「ちょっと隊長! なんでこんな服がここにあるのよ!」
扉が勢いよく開けられ、私の制服を掴んだおネエ口調の男の人が凄い剣幕で怒鳴り込んできた。
びっくりして頼もうとしていた事も一瞬で頭から飛んでいってしまった。
「エル、今は大事な話の最中なんだが……」
「これよこれ! どう見ても女物でしょ?!」
ズカズカとテーブルの前まで来たと思ったら、ダンッ! とテーブルに叩きつけられる私の制服。あぁ、シワになっちゃう……。
「何でこの砦に女物の服が干してあるのよ!」
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