-7- リュックの中身と精霊さん
「そ、そうか……」
あまり重要ではなかったのかな? 隊長さんは困った顔をしていた。そして、何かの指示を出したのか、フランクさんが部屋の横にある扉を開けて入っていった。すぐに戻ってきたフランクさんの手には、昨日置いてきてしまった私のリュックがあったのだ。
「私のリュック!」
手元に戻ってきたのが嬉しくて、思わず席を立ちフランクさんの元に行く。
「すぐに渡してあげられなくてごめんね」
そう言うとフランクさんは、リュックを渡してくれた。ギュッと抱きしめ安堵する。
「安全が確認できたので、それは貴方に返そう。失礼かと思ったんだが……、その……、中身を確認させてもらった……」
途中から、隊長さんの言葉の切れが悪くなる。そして、ナカミヲカクニン……。聞こえてきた声に一瞬思考が止まる。
「な、中見たんですか?!」
「すまない! 職務の一環なんだ! その鞄は見たこともない作りで、危険なものが無いとは判断できずっ」
隊長さんに悪気があった訳じゃないのは、必死な態度からわかるけど……、わかるけどっ! 毎日部活がある私は、常備着替えを入れていたのだ。シャワー室完備の部活棟で使うための、着替えを! それこそ、まるごと! 全部! 一式で!
「本当にすまなかったっ!」
隊長さんが謝っているのは、たぶんそう言うことなのだろう。年頃の女の子の下着を見てしまったことの謝罪だ。
恥ずかしさで顔が一気に熱くなる。リュックに顔を埋めて冷静になれ! と、自分に言い聞かせた。
「忘れてください」
「え?」
「忘れてくださいっ!」
「……ぜ、善処する……」
隊長さんは耳まで真っ赤になってそう言った。いつまでも立っているわけにもいかず、私は仕方なくソファーに戻り腰を下ろした。
少しの沈黙の後、話を再開したのはフランクさんだった。
「その鞄の中身をなんだけど」
まだ言うか?! とクワッと目を見開きフランクさんを睨む。
「いや、そんなに怒らないで。そうじゃなくて、色々と見たこと無い物が入ってるんだけど、何か説明してくれないかな?」
「見たこと無いものですか?」
私はチャックを開けて中身を確認してみた。入っていた物は、陸上ウェア・学校指定のポロシャツ・シャンプーセット・ボディソープ・教科書・ノート・筆箱・スマホ・お菓子に、下着一式等々。
自分としては、ごく普通の通学に必要な物だけど、こちらの世界では珍しいものなのだろう。
下着一式や細かい物を除き、全部テーブルに出して説明をした。
「しゃんぷー? すまほ? こちらの書物は見たことの無い文字だな」
「シャンプーは、髪の毛を洗う物で、スマホは……、何て言ったらいいんだろう、遠くの人と話したり知りたいものを調べたり、写真をって、写真じゃわからないか。んー、姿見? を写したりできます。そしてこれは教科書、えっと指南書? です」
スマホの説明もしたけど、残念ながら電池切れでただの板に成り下がっていた。悲しい……。
「遠くの者と話せるとは、魔法か何かか? そして指南書。貴方は学者なのか?」
さらっと言ったけど、この世界。魔法あったよ……。
「学者ではなくて、学生です」
「商家や貴族の出なのか?」
「いいえ、一般家庭で育ちましたよ?」
隣にいたフランクさんも、扉の近くにいたリュカでさえテーブルに張り付いて、珍しそうに見ていた。
「この袋は?」
「これは筆箱で、書くための物を入れています」
筆箱の中からシャーペンとボールペン、油性ペンなんかを出して、ノートに試し書きをして見せた。
「インクも付けずに書けるのか?」
「インクは中に入っているんですよ」
隊長さんは不思議そうにボールペンを手に取り、いろんな角度から見てから私に返してくれた。
「貴方は、この国の者では無いのか? 隣国でもこのような物は見たことがない」
隊長さんの指摘に、言葉がつまる。本当の事を言ったところで信じてもらえるかわからない。でも、なんだか含みのある言い方に少し違和感を感じて、その直感を信じてみた。
「信じてもらえるかわからないですが……、私はたぶんこの世界の人間ではないと思います」
「この世界、とは違う……?」
隊長さんの真剣な顔を信じて、更に言葉を続ける。
「私のいた世界は、魔物もいない、魔法も無い、貴族も日本じゃいないし、井戸なんで生活圏内にないんです。なんで言葉が通じるかなんてわからないですけど、文字も全然違います」
「…………」
隊長さんは、黙って考え込んでしまった。リュカやフランクさんも、困り顔だった。
はぁ、と私がため息をつくと隊長さんが視線を合わせてきた。
「精霊を、貴方は精霊を見たことがあるか?」
「精霊、ですか? 物語でしか聞いたことはないです。信じている人もいたみたいですが、私もいたら良いなぁ。くらいで、見たことはありません。そういえば、こちらには精霊がいるんすよね? どういう感じなんですか?」
「精霊は気まぐれで、滅多に人前に姿を現さない。言い伝えや、文献はたくさんあるが……、見たことのあると記された文献では、光っているそうだ」
「光……」
「フワフワと漂っていたり、スーッと通りすぎたり。そんな記述はある」
精霊さん、光ってるんだ。そういえばファンタジーモノなんかでも光ってるよね。ん? 私が見たキラキラってもしかしてもしかしたら、精霊さんだったりするかも?!
「もしかしたら私、精霊さんに連れて来られたんでしょうかね?」
「……その可能性は、あるかもしれないな。実際にその鞄も、普通だったら絶対に見つからない状況で、光が漂っていた為に草むらの中でも見つけられたんだ」
本日一番の衝撃事実かもしれない件。精霊さんは何故に私を連れてきたのでしょうかね?
不思議なことばかりだったけど、戻ってこないと思っていたリュックが、精霊さんのおかげで見つかったことに関しては、ただただ感謝しかなかった。
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