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懐かしい縁

作者: 瀬川なつこ

懐かしくもあり、恐ろしくもあり。

黒電話が鳴っている。

あれはたしか物置。

コードを指すコンセントなんかありません。

おそるおそる、物置に近づいて、黒電話を取ると、

「過去に旅せよ」

と命令された。

しゃがれた、叔父のような声をしていた。

夢のまにまに。宿場町の幻。

夏だけにしか咲かない花。向日葵。

懐かしい縁。君の横顔、夕立、蝉時雨。

旅の雲水さん。ちりんちりん、錫杖の音。

夜寝ていたら、部屋の隅に雲水さんが立っていて、

六文銭を寄越せと手を差し出してきた。

財布を覗くと、なぜか古い硬銭が入っていた。

それを手渡すと、雲水さんは煙のように消えてしまった。


蝉時雨。ミンミンゼミ、ニイニイゼミ。

関節の曲がった子供、と思ったら、三輪車の取っ手だった。

見間違い。

樹の高い所にお爺さんが張り付いている。

目が赤く光っていて、死にたければ、ここまでおいでと誘うのであった。

祭りの夜、宵祭り。りんご飴を舐めていると、

狐面の少年が、手招きをしている。尻尾が生えている。

あれは人間ではない。


片指が外れたんです。どこを探しても見つからないのです。

と思ったら、鬼に喰われた鏡の前に落ちていました。

慌てて、くっつけると、元に戻りました。不思議なことも在る訳です。

ドッペルゲンガーが現れて、足元の影に吸い込まれていった。

奴は影法師。余計な事ばかりいうから、地獄の閻魔にひっぱたかれまくって、

今は、私の影になって休んでいる。


お爺さん、お爺さん、そこには誰もいませんよ。

看護婦さんが何度呼びかけても、

死んだ孫が、遊びに来たと言って、お爺さんは毬をそちらのほうに持っていきたがる。

世の中不思議なことが一杯ある。

夏の供養。お盆、送り火、迎え火。

そういえば、もうそんな季節でしたか。

先ほどから、みつあみを引っ張られている。

彼岸からのお誘いだ。




夏の到来。宿場町にも夏がやってきた。

物置の片隅で、かき氷を喰っている小鬼。

さきほど、作ってあげたのだ。

打ち水も、すぐに蒸発してしまう。

蜃気楼、陽炎。

脳病院のほうから、逃げ出してきた男が、

裸足のまま、血まみれの鉈を持っている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怖い絵本のシリーズを思い出すような童話風で詩的でとても好きなテイストです。体言止めや言葉選びのセンス、リズム感・全体として雰囲気がいいです。 昭和的な懐かしい日常に、何かしら怪しいものが…
[良い点] ドッペルゲンガーさんの事はよく存じ上げないので、そこだけ引っ掛かりました。本邦の「ぬらりひょん」のように捉え所がなく「のっぺらぼう」みたいな顔のない方なんでしょうか。 のっぺらぼうと言えば…
[一言] 家紋武範様の「夢幻企画」から拝読させていただきました。 不思議な悪夢から目覚めたような、そうでないような、懐かしい感じの作品でした。
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