最弱無敗
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内界──ブリタニア。巨大な壁、聖者の盾に護られた世界。だが、その壁を外界から迫る悪しき者達から守護するのもまた、内界の人間に変わりはない。螺旋の如く、この世界は平穏が赦されず。
しかし、人は目を背けか背けずか今の生活を順風満帆に謳歌している。魅せる笑顔も猛る怒りも果たして本物──なのだろうか。
この窓から見る景色すらも──
「最弱無敗? なんだそれ」
「馬鹿ッ。声がデケーって! つか知らねーのかよ?」
「知るも何も──クラス替えしたせいで全く人を知らないし。つか矛盾じゃねーか」
「あの窓側に座る奴を見てみろ。あいつが──」
「人類初の無属性であり、この軍学校・ファランクスに入って尚、未だに試験や訓練を欠席。故についたあだ名が最弱無敗。くだらねーな。と言うか俺様から言わせたら徴兵制度ってのもくだらねー。そんなンがあるから、ああやってやる気ねー奴まで」
「……えっと君は?」
「俺様か? 俺様はラインルハル=シュベルスタ。いずれ外界に出て四天の座に就く男だ」
なんとでも言えば良いし呼べばいい。別に馴れ合うつもりもないし、背の高い奴が言った通り俺にはやる気がないなる気もない。出来ることならこんな学校を直ぐにも辞めたいが、辞めれば非国民の名がついて回る。それだけは恩人の為に避けはしたい。
てかさ、馬鹿じゃねーのか。態々なんだって危険が蔓延る外界に行かにゃならんのだ。コイツらは自分の命が惜しくねぇのかね。
──自分の命は一つしかないってーのに。
「四天て、まさかあの四天?」
「おうよ。その四天だ! 外界にて巨大な力を権力的にも武力的にも所持した英雄達さ!」
「ばっかじゃない……」
「ンだと? このアマ!」
「アンタみたいな人間が四天の座につけるはずないじゃない。ましてや扱う属性は?」
「……火だ」
「火? ふうん。まだ四式? 火属性の極地である炎桜──四光にすらなってもないのね。体だけじゃなく口もでかくちゃ生きにくそうね」
「ンだと?! 産まれ付き才能に恵まれたからって調子くれてんなよ?アマが」
うわ。新学年早々に火花バチバチかよ。いやまあ、見慣れたものでは有るけれど、慣れたくはないものだ。
──だが、背の高い男は兎も角、あの黒い髪の女性は確か。
「彼女って」
「間違いないわ。あの赤と黒、左右不対称な色をした瞳。神導の巫女──ゼノン=マイリ」
人間には産まれつき属性が宿っており、個々の才覚により強弱が現れる。故に就職先も軍に入れなかった場合でも、属性を基準に考えられる訳だが──稀に二つの属性を所持した者が産まれる。彼らの事を期待と希望を乗せて人々は神導と習ったのを思い出す。
言い方を変えれば化け物、か。恐ろしく畏ろしい。
さりげなく横目で見ていれば──
「まあ、私はアンタに用事があった訳じゃないのよ。興味もないの」
なぜ俺と目が合う。つかこっちに来てやいませんかね。揉め事とか勘弁して欲しいんだが。そんな思いを乗せて再び空の景色を眺める。迫り来る足音を聞き流していれば──
「ライル」
何故俺の名前を知っているのだろうか。友を作らず目立たず空気のように一年間生活してきたと言うのに。成績優秀、容姿端麗の貴女なら兎も角。とりあえず無視をしよう。それがいい。
「ライル=カイン。私は今から貴方に決闘を申し込むわ」
「えっと……はい?」
思わず目線を交じあわせれば、大きく綺麗な瞳に強い信念を宿しているように見える。俺には一切なく、手を伸ばしたとしても届かないような心構えを感じざるを得ない。そんな──爺の言葉を借りるなら、いい色をした瞳をしていた。
そして彼女と交した初めての対話だった。
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