想起の地へ ④
「うわっ気持ち悪っ!なんやこれ……」
「どうやらアクジキ様とやらは、随分趣味が悪いらしいな……」
俺達は訪れた山麓で村長の言う通りの不気味な光景を目撃する事になる。
目の前には、見るも無惨にバラバラになったモンスターや人間だった者達が『石化』して放置されていたのだ。
『石化』して遺体となった身体に一貫性は無く、頭だけ齧られた様な状態で『石化』されたものや、内蔵だけ綺麗に取り出されて苦しんだ表情のまま『石化』されたもの。
何の為にこの様な姿のまま石にされているのか全くわからない。
通常、モンスター達が他の生物を食す場合、部位によってこんなに好き嫌いがあったりはしない。
ある程度可食部である"肉"の部分は食べ尽くされたりするものなのだ。
なのに、これを作った犯人は余程好き嫌いが激しいというか、ただの気分屋の殺人鬼のように感じた。
食う為に敵を殺したというよりも、まるで殺した敵をついでに摘み食いし、そのまま『石化』させられたような……
そんな悪意を感じさせられたのだ。
不安な気持ちが膨らんでいく。
俺は今まで『石化』という攻撃法を持つ敵と対峙した事が無い。
対峙する時はメデューサと戦った神話の様に、"鏡"でも用意せねばならないのだろうか。
しかし、生憎"盾"となるほどの大きな鏡など持ち歩いてはいない。
出来れば、戦闘は避けたい所だった。
俺はいずれ現れるであろう恐ろしい敵への対策を考えながら、ひたすらに山道を歩いていく。
「はぁはぁ……疲れた。兄ちゃん抱っこして!」
「はいはい。よっこらしょ……」
自分で歩く!などと威勢の良かった割には30分も歩かずに根を上げてしまったラーを担ぐ。
もう村からは大分離れたが、まだ用心の為に"飛行"するのは我慢していた。
険しくろくに整備もされていない天然の山道は子供にはキツいかもしれないが、俺にとってみればこの程度はキツい内に入らない。
それに、行軍を邪魔するモンスターはいない事が幸いだった。
「よしっ!ペースをあげるぞ!」
「いいぞ~行け~!」
むしろラーに合わせてゆっくり歩いていた速度を上げる事が出来た。
獣道すら無い、自然のままの剥き出しの山肌を駆け上がっていく。
あっという間に村が小さく、そして見えなくなった。
そろそろ飛行しても問題無い所まで来たかと思った瞬間……
『グギャギャー!』
せっかく戦闘もなく、順調に進んでいたというのに、遠くの方で不気味な鳥の鳴き声のような音が聞こえた。
アクジキ様だろうか?
だとしたら、直ぐに進路を迂回せねばならない。
「兄ちゃん聞こえた?」
「ああ。アクジキ様って奴かもしれない。どうする?怖くなったか?」
強がってはいてもラーはまだ子供だ。
あの様な光景を目撃し、実際に声まで聞いたとなれば引き返す事を求めるかもしれない。と思った。
「大丈夫やって!ウチには兄ちゃんがついてるし!」
「随分頼りにされてるけど、俺だってそんな初めての敵どうなるかわかんないぞ……」
「大丈夫や!兄ちゃんはまあまあ強い!自分を信じて!」
「一応、ありがとう……」
何の保証も期待できない励ましを受けても、子供を無駄に危険に晒す訳にはいかない。
《石化攻撃》に対する有効な防御法も見付かっていないのだ。
俺はラーを担いだまま、上空へと飛び上がった。
「あっ!なんで!?兄ちゃんが戦う所見たかったのに!」
「馬鹿言うな。戦わなくて済むなら逃げた方が良いに決まってる」
期待してくれたラーには悪いが、山肌から約200m上空に離れる。
この距離ならば例えアクジキ様に見付かっても逃げ切る事が出来る。
『ギャー!ギャー!!』
だが、どうやらすんなりとは見逃してはもらえないようだ。
ラーには聞こえていないようだが、俺の耳にはしっかりと徐々に近付いてくる不気味な鳴き声が聞こえていた。
その声を避ける様に、俺は敵との距離を確保しながら飛び続けた。
俺達の目的地はこの先の土地だ。
山や敵自体に興味は無い。
逃げれるのならば、とっとと先へと進むのだ。
『ギャー!ギャギャー!!』
だが、そこそこの速度で飛行して鳴き声から離れる様に迂回しているのにも関わらず、聞こえてくる鳴き声は大きくなる一方だった。
ヤバい。まだ姿は見えないが、どうやら敵も相当の速度で空を飛べるらしい……
「面倒くさい。ラーちゃん、速度を上げて一気に山を越えるぞ!」
「はいっ!」
俺は急に方向転換し、一気に山を抜ける事にした。
あっという間に山頂が近付き、もうすぐ山頂を抜けそうになる。
恐らく山さえ超えてしまえば敵とて諦める筈だ。
このまま一気に飛び抜ける!
『ギャーッ!』
だが、後方から恐ろしい速度で必死で追いかけて来る不気味な鳥型のモンスターを目撃してしまう。
「ヤバい!見付かった!このまま逃げるぞ!」
「うん!」
限界まで速度を上げる。
敵も中々の速度だが、それでも全速の俺の飛行速度の方が僅かに速いようだ。
徐々に敵から距離が離れて逃げ切れると思った時……
「兄ちゃん!ちょっと待って!あの鳥ウチ知ってるやつや!」
「何だって!?」
こんな時に少女がとんでもない事を言い出した。
あの不気味な鳥、アクジキ様をラーは知っていると言うのだ。
今まで散々モンスターと対峙していたが、ラーがそんな事を言うのは初めての事だった。
見知った敵が居ると言う事は、まさか、ラーの種族の住処が近いとでも言うのか!?
「あれ、父ちゃんが時々採ってきてくれた鳥に似てる!めっちゃ美味くてみんな大好物やってん!」
「なん……だと……?」
「ほんまやで!めっちゃ美味いねん!あのでっかい鳥みたいなやつ!父ちゃんが昔『"下"で採ってきた!今日はご馳走や!』って言うて見せてくれたん覚えてる!ほんでな、それをママが料理してくれてな!めっちゃ美味いねん!」
「いや、そんな事じゃなくてな……」
「お願い!兄ちゃん捕まえて!」
「正気か!?」
『ギャギャギャー!!』
突然の報告に慌てふためいている内に、鳥型のモンスターはすぐに近くまで迫っていた。
美味しいというのは確かに少しだけ気にはなるが、リスクを犯す程の事柄ではない。
ラーの提案を無視し、急いで鳥から距離を取った。
「そんな事言ってもダメだ!逃げるぞ!」
「ええ~!美味いのに~」
『ギギャギャギャーー!』
その時、激しい咆哮と共に周囲を埋め尽くす程の眩い光が俺達を覆い尽くした。




