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想起の地へ ③

 

 簡易テントで睡眠をとり、日が上がるのを待って目的の集落を目指す。


「結構帝都から離れたけど、景色はそんなに変わらないな……」


「うん。けど、ちょっと暑いわ……」


「大丈夫だよ。すぐにまた涼しくなるから……」


 南に来て赤道に近付いた為、周囲の気温が上がっている。

 俺はあまり気温の変化が気にならない体質なので平気だったが、ラーはあんなに暖かい所へ行きたいと駄々をこねていたクセに、もう暑い事に愚痴を言っていた。


 バビロディア領最南端まで来たのに、変わった所と言えばが少し気温高く、生えている植物の種類が若干違うぐらいでその他は大差無い。

 だが、この先にそびえ立つ巨大な山脈の上部には赤道にかなり近付いていると言うのに、今も真っ白な雪で覆われていた。

 富士山やエベレストを遥かに越える規模の大山脈だと言う事がわかる。


「お、ラーちゃん。そろそろ準備を……」


「はいっ」


 ラーが取り出した薄茶色のカツラをしっかりと被り、集落の中に入る。

 ラーのピンク色の髪はバビロディアではとても目立つ事がわかったので、人前に出なければならない時はしっかりと髪の色を隠す為にカツラを被っているのだ。

 集落にはこれと言った門番や外壁等も存在しない。

 モンスターに襲われたらどうするのかと思うが、そこは戦闘力に長けた獣人には問題無いのだろう。


「まあ、想像どおりだな……情報だけ集めて夜になる前には出発しよう」


 集落は小さな木造の建物が10数個ならんでいるだけの小規模な物だった。

 特に気になる箇所は見付からない。

 と言うよりも、用さえ無ければこんな所には一秒足りとも居たく無い程に過疎っていた。


「兄ちゃん!あそこに人が居るよ!」


 何とか余り多くない住民を見付けて話を聞いてみる事にする。


「あの、すいません。私達は旅の者なんですが、町長さんか誰かはいらっしゃいますか?」


「ウモ~。人間がこんな辺鄙な所まで珍しいなぁ。村長なら一番奥の黄色い家の中に居るよ~」


「ありがとうございます」


 身体の大きな牛みたいな顔の獣人が教えてくれた。

 人間だからと言って特に警戒も歓迎される事も無いようだ。


 言われた通り集落の中を進むと周りの家よりも少し豪華な気がする黄色い壁の建物を発見する。

 村長の家とやらは、間違い無くここだろう。


「もしも~し!」


「すいません、村長さんはいらっしゃいますか?」


 少し待つと奥から立派なたてがみを備えたライオンみたいな獣人が現れた。


「はいはい。人間なんかがこんな辺鄙な村に何の用じゃ?この村には何にもありゃせんぞ……」


 肉食系の獣人の見た目に反し、対応は柔和な村長だった。

 顔は獣なので一体何歳ぐらいか判断出来ないが、あちこちに白い毛が生えているし、爺っぽい喋り方なのできっとかなり高齢なのだろう。


「はい。実はこの村には山脈を超えた大陸の南側にまつわる伝説みたいな物があると聞きまして。良ければお話を聞かせて頂けませんでしょうか?これは、つまらない物ですが……」


 俺は予め用意していた高級な"肉塊"をそっと差し出す。

 "賄賂"と言う程の物ではないが、肉食系の獣人である以上、肉に目が無いのは間違いが無い筈だ。


「おっおおお。こりゃすまんのう……」


 村長が肉を奥へと運んでいた。

 少したって戻ってきた時には、僅かに口から肉の匂いがした。

 よっぽどお気に召して頂けたようだ。


「良いもんもらっておいてなんだが、伝説などとそんな大層な話は無いぞ?ワシらの親や爺さんから子供の聞かされてた、そんな程度の話があるだけじゃ….…」


「ありがとうございます。そんな話が聞きたいのです。是非お話を聞かせて下さい。伝説ではこの村の何人もの人が、山脈の奥に巨大な"光"を見た。と……」


「ああ。儂らが子供の時に悪さをすると親に脅されるんじゃ。『誰ぞ悪い事をしている者がおらんか、御山がピカっと光って神様がこっちを監視しているぞ!』なんて言うてな…… 勿論子供を怖がらせる為の嘘じゃ。勿論ただの迷信じゃ。神様なんか見たものなんぞ誰もおらんわぃ」


 なるほど、ほぼ事前に見た記録と一致する。


「じゃあ"光"と言うのも嘘なんですか?」


「いや、御山が光るのは本当の話じゃ。近頃はめっきり光らんようになってしもうたが、儂らが子供の頃は確かにしょっちゅう光っとった。だが、最後に見たのはいつだったか……今ではもう滅多に光る事は無いわ。まあ、大方御山の氷に太陽の光が反射したとか、そんな程度の事だとは思うが……」


「なるほど……」


 微妙に期待外れな感じもするが、収穫もあった。

 神様やその他の存在は完全な創作話だが、かつて何かしらの"発光体"が存在した事は事実だと言う事だ。

 流石に光の正体が太陽光の反射だとしたら、子供でも気付くのでは無いだろうか?


 もしかしてその発光現象は大規模な"魔力光"だったのでは無いだろうか?


 だとしたらそんな大規模な"魔力光"を発生する事が出来る人物の正体が気になる。

 少なくとも相当な力を持っていた筈だ。


 それとも、村長は何か隠しているのだろうか?


「貴重な情報ありがとうございます。他にも何か思い出話などでも良いので何かありますか?どんな事でも良いんですが……」


「む~ん」


 元は立派であっただろうたてがみか髭なのか判断のつかない体毛を触りながら村長は答えた。


「話を聞きたいなんぞ言うとったが、お主らも他の者と同じ様に御山を越えようと思っとるんじゃろ?」


 図星をさされてドキっとする。

 だが、この寂れた村を訪ねる人間の目的などみんな同じなのだろう。

 きっと皆同じ様に、この村で情報を集め旅立って行くのだ。

 俺達人間を珍しがってはいても、対して驚いてもいない様子から察するに、俺達の様な命知らずの冒険者に飽き飽きしているのかも知れない。


「はい。そうです。俺はあの人類未踏の地を調べに行くつもりです。その為に色々情報を集めているのです」


 村長は全て察した上で情報をくれた。

 俺も今更、回りくどい事をするつもりも無い。


「止めといた方がええ。御山には神様はおらんが、代わりにとんでもなく恐ろしい"アクジキ"様がおる。みんな儂らの言う事聞かんで御山を越えようとして、アクジキ様に食われて死んでしまうんじゃ….」


「アクジキ、様…… ですか……?」


「そうじゃ。近付くもんは人間だろうが魔物だろうが何でもかんでもみんな食われちまう。アクジキ様の姿を見て生きて帰ったもんはおらん…… だから儂らは決して山には近付かん。嘘だと思うなら山の麓に行ってみるがええ。アクジキ様の食い散らかした残骸が幾らでも見付かるだろうて……」


 村長の目には俺達を脅す為に嘘を付いている気配は感じられない。

 ただ単に、若者が無駄に命を散らして行くのを見ていられない。といった感じだ。

 だが、そうと聞いても俺達は、いや少なくとも俺はそんな事で引き返したりは出来ない。


「うん……」


 話を聞いてラーが俺の目を見て、そして、コクッとうなづいた。

 ラーとて俺と同じ気持ちの様だ。


 覚悟を決める。

 今までまともな強敵という強敵に出会った事など無かったが、遂に俺も強力な敵と戦わなければならないようだ……










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