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想起の地へ ②

「よし!そろそろ行くぞ!捕まれ!」


「はいっ!」


 もはや慣れた手つきでラーは俺の背にしがみつき、更に紐でしっかりと固定して念には念をいれておく。

 飛行中はラーが不快な思いをしないように厳重な《障壁》を張ってあるとはいえ、何が起こるか分からない。

 幼い故に、何時でも何処でも急に眠気に襲われてしまうラーが落っこちたら大変なのだ。


 王都からは随分距離を取ったし、更に飛行による移動は夜間限定にしている。


 この世界の事を調べてわかった事なのだが、《飛行魔法》はこのバビロディアでは極々一部の『上級魔法師』しか使う事の出来ない高難度の《魔法》だった。

 俺の場合は《飛行魔法》で飛んでいるわけではなく、《重力干渉》で正確には横方向に『落ちて』いるだけなので《魔法》ですらないのだが、傍から見ていれば違いなど分からないし、万が一誰かに見られると、色々と面倒くさい事が起こりそうなのでなるべく隠す事にしている。

 ラー以外には記憶があやふやな冒険者を貫いているのに『帝国ギルド』に目をつけられたくないのだ。


 ちなみにマテラが『何処でも扉』みたいに簡単に使用していた《転移》の魔法は、誰も使える者がいないどころか、《転移魔法》その物が消失していた。

 確かに目的地の正確な座標も分からないし、その為の高度な計算も出来ないので、あったとしても使える者がいるとは思えない。


 俺はその魔法陣や構成術式も完全に覚えているが、複雑な位置計算を完璧に行う事が出来ない為、使用は控えている。

 一歩間違えば空や海に放り出されてしまう危険な《魔法》なのだ。

 なので移動手段は夜間の飛行か自分の足で走る事しか選択肢は無かった。


「しっかり捕まってろよ!」


「うんっ!」


 肩にグッという力を感じ、俺は飛び立った。

 取り敢えずの目的地は領内最南端にある獣族の集落を探す事。

 それについての目星はある程度調べてあるので問題無い。

 夜の内に……いや、急げば数時間で到着出来る予定だ。


「どうだ!兄ちゃん速いだろう!?」


「うん!めっちゃ速い!」


 空を気持ち良く飛行し、夜とはいえ眼下に拡がる壮大な地形を満喫する。

 ラーも俺との飛行をいつも楽しんでくれている。

 ラーを背に乗せて飛行するのは初めての事ではないが、それでも俺は少しだけ誇らしい気持ちになった。

 俺の全力の飛行速度はおそらく時速2000km以上。

《重力干渉》の能力が上達すれば、それだけで惑星の自転速度ぐらいは出せると思うし、《風魔法》を上手く併用すればもっと速く飛ぶ事が出来るかもしれない。


 だが、流石にそこまでの全速に幼女が耐えられるとは思えないので、少し速度をセーブしている。


「ラーちゃん。大丈夫か?気持ち悪くなっていないか?」


「全然大丈夫や!ありがとう!」


「よし。じゃあもう少し速度を上げても大丈夫か?少しでも早く最南端近くまでは進みたい」


「大丈夫やで!ママはもっと速かったから大丈夫や!」


「え?ママも空を飛べたの!?」


 もう何度も俺の背に乗って飛行していると言うのに、今の少女の言葉は初耳だった。

 何でもっと早く教えてくれなかったのか。

 この世界で《飛行魔法》はかなりレアな能力だと言うのに……


「ママも父ちゃんも、ウチの仲間は皆空を飛べるよ!ウチかて遅いけど飛べるんやで!」


「あ、そうなの?へ~」


 どうだ!俺の飛行は?と、自慢げに飛行出来る事を誇っていた事を恥じ、少し微妙な空気になりつつも、傷付いた誇りを挽回すべく俺は速度を上げていく。


 1300km……

 1500km……

 1800km……


《障壁》があるとはいえ、とてつもない速度だ。

 飛行自体に魔力は使わないが、《障壁》を展開している魔力がガリガリと削られていくのを感じる。

 飛んでいる俺自身が余りの速度に恐怖を感じてきた。

 若干俺も意地を張っていた事を顧みる。


 ラーは大丈夫だろうか?


「わ~!これやったらすぐに着きそうやな!けど、もっと速くても全然大丈夫やで!」


 怖がる所か、まだまだ余裕さえ感じられる。


「いや、何が起こるかわからない。本当は!もっと速く飛ぶ事も出来るけど!あえて、このぐらいに抑えておこう!」


「うん!わかった!安全運転やな!その方が安心や!」


 この速度すら意に介さぬラーの種族とは一体何者なのか……?

 ラーの話ではエルフでも竜族とも違うと言うし、どれだけ調べても他に該当する種族は見付からなかった。


 まだ五歳だと言うのにこの度胸。

 この世界で数々のモンスターと戦い、一個体の生命体としては俺はかなりの実力を持っていると認識していたが、上には上がいると痛感させられる。

 たった一ヶ月そこそこだと言うのに、最近は俺といつも一緒に居たせいか、言葉も大分流暢になっている。

 やはりまだ見ぬこの世界の最奥には、俺の想像

 を越える凄まじい種族や人間がいるのだと痛感させられた。


 そんな若干の戸惑いを感じつつも、俺は夜の大空を何時間も飛び続けた。


 そして……


「山脈までかなり近付いて来たな。目当ての集落までもそう距離は無い筈だ」


「到~ちゃ~く!」


 背中から元気な大声が響く。

 既に3時間以上飛び続けて、既に日が変わっていると言うのに、子供の元気さには感服させられる。


「よし!降りるぞ!」


 そして、俺達は領内最南端へと到着した。







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