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想起の地へ ①

 東に"謎"の民族がいると聞けば、もしやラーの仲間の事かも知れぬと足を運び。


 西に恐ろしく強い女戦士が居ると聞けば、愛しい彼女の事かと会いにゆく。


 南にこの世に断てぬ物の無い名剣あると聞けば、一生を共にすると誓った奴の事かと探しに行けば。


 北に世界最高の海産物があると聞けば、取り敢えず食べに行く。


「う~ん。今回も収穫無しやなぁ。兄ちゃん……」


「って。ラーちゃんがいつも食べてたご飯って言ってたじゃないか。今度こそ間違い無いって言ってたのに…… 」


「う~。食べてみたら全然違ったんやもん。でも美味かったからええやんか」


「ええやんか。って……」


 ラーと出会って既に一ヶ月。

 決死の作業で俺は図書館の蔵書を『記録』し尽くした。

 実際の書物をパラパラと捲る作業はPCでデータを閲覧する100倍大変な苦労を伴い、俺の精神をすり減らしたが、昔味わった地獄に比べれば幾らでも耐える事が出来た。


 結果、二人の居場所やラーの故郷の直接的な情報は見付からなかったが、ラーの朧気な記憶と合致する調べる価値のある場所や、二人の痕跡を求めて捜索し続けているのだ。

 残念ながら進展は全く見られないが、この世界の事をかなり理解する事が出来た事だけは成果と言える。


 結論、この世界はやはり"ゼジャータ"と時代の異なる同じ世界である事が、ほぼ間違い無いと判断した。

 微細な違いはあれど、マテラが体系づけたとされる基本的な"魔法"の概念や"魔法陣"の術式構成は完全に一致しているし、大まかな恒星や衛星の周期も誤差の範囲だ。

 これはこの星がゼジャータと同じ星である決定的な証拠に思えた。


 正確な時計で測った訳では無いが、俺の正確無比な体内時計では惑星の自転速度も"ゼジャータ"と同じ24時間。


 不思議な事に地球、ゼジャータ、バビロディア。

 全て自転速度は同じである。


 もしや三つの世界は全て同じ物なのでは?

 と一瞬思ったが、残念ながら地形や生態系が地球で学んだ歴史と大きく異なっているので地球では無いと思う。

 地球が誕生して46億年間、このような『記録』は化石はおろか、伝承や逸話すら残されていないのだ。

 それ以外は殆ど地球と酷似しているのだが……


 そんなこんなで、このまま捜索を続けて行けば、いつか"目的"に辿り着けると信じて俺達は歩き続けていた。


 最初は慣れない子供を連れての旅に苦労したものだが、今ではすっかり慣れて立派な子連れ冒険者になってしまっている。

 出会った頃はあんなに人間に恐怖していたラーも、少なくとも俺と一緒にいる間だけは人間を怖がったりしなくなってきていた。


「兄ちゃん、次はどこへ行くんや?ここは寒かったし今度は暖かい所がええわ……」


「そんな理由で、あちこち無駄足してたまるか!」


 自分の事だと言うのに、どこか緊張感に欠けた幼子に呆れる。

 だが、ラーの言う通り、帝国周辺はもう粗方の所探し尽くしてしまった。

 これより先は更に未踏の南エリアに捜索範囲を拡げるしか無い。

 だが……


「もう帝国周辺のめぼしい箇所は捜索しつくしちゃったしな…… 後は、国交や情報があやふやな他の大国に行くしか無いんだけど……」


「ええやん!なんか気になる事でもあるん?」


 この世界にはバビロディアが収めるこの【大バビロディア帝国】の他に、【トラアティス】と【アスムリ】という二つの大国が存在している。とされている。

『されている』と言うのは、情報が余りにも少なく、信ぴょう性にかける情報だったからだ。


【トラアティス】は【バビロディア】から遠く離れた大陸の南に存在し、国交はおろか、本当に存在しているかは分からない。

 もしくは、かつて存在していたのかも?と言うレペルだ。

【トラアティス】までの道程は激しく苛烈な山脈に閉ざされており、南に行けば行くほど強力なモンスターが生存しているので、一度もそこを越えた人間は存在しないし、勿論帰ってきた人間も居ない。

 バビロディア領最南部に住む獣人族の一部が、僅かながらの伝説や情報を伝えているだけで、今もその国家が存在しているかどうかは、誰にもわからないのだ。


【アスムリ】に至っては海の向こうのある大陸とされており、【トラアティス】以上に存在が疑わしい。

 むしろ、何処かの創作物や夢物語な可能性の方が高い程だ。

 もし捜索するとするならば【トラアティス】捜索を終えてからだろう。


 今の俺の力ならば、空を飛ぶ事でどんな過酷な旅路でも踏破する事が出来る。

 恐らく地球のエベレスト山頂にだって、簡単に日帰りでハイキング程度に到達する事が出来るだろう。


 だが、問題はラーの存在だ。

 あるのかどうかも分からない上に、強力なモンスターのせいで危険度だけは間違い無く過去最大級だと思われる。

 そんな過酷な捜索にこの小さな幼女を連れて行っていいものだろうか……

 とはいえ、ラーちゃんが一人で留守番する事が可能だともとても思えず……


「ラーちゃん。この先、兄ちゃんが探そうと思っている場所はめちゃくちゃ遠くてもしかしたらとても危険な場所かもしれないんだ。どうする?ここで兄ちゃんが帰ってくるまで待っていられるか?」


「イヤや!うち兄ちゃんと一緒にいく!」


 絶対拒絶の強い意志を幼女から感じる。

 わざわざ聞くまでも無い話だ。

 幼女に理屈など通用しない。

 俺は彼女にとって唯一の『人外』の知り合いなのだ。

 確かに一人ぼっちのその孤独の気持ちは分からなくも無い。

 だったらもう少し真剣に手がかりになる事を思い出して欲しいのだが……


「今から兄ちゃんが行こうと思っている【トラアティス】って場所はな、今まで人間が誰一人として帰って来た事の無い程の過酷な場所だし、行っても何も無いかもしれないんだ。もしかしたら恐ろしいモンスターがウジャウジャ居るかもしれない。そんな危険な場所でラーちゃんにもしもの事があったら、兄ちゃんは悲しい…… だから……」


「あっ!なんかそれ聞いた事あるかも!お父ちゃんが言うてた!」


「何だと!?何を!どこで!?」


 突如放たれたラーのとんでもない発言に動揺する。

 まさかこのラーこそが、伝説のトラアティス人だとでも言うのか!?


「忘れた!なんか聞いた事あるような気がしただけや!」


「ぐぐぐ……」


 燃え上がった期待に冷水を浴びせかけられる。

 このやり取りを、この一ヶ月幾度となく繰り返した事か。

 だがそれとて、今の俺達には僅かな期待には変わりないのだ。

 そのあやふやな記憶にすがる他無い。


「兄ちゃん!大丈夫や!父ちゃんが世界で一番怖いのは『人間』って言うてた!ここより怖い世界なんかあらへん!それに、めっちゃ強い兄ちゃんが一緒やったらウチはどこ行っても怖く無い!」


 幼女は目をランランと輝かせてこちらを見ている。

 まさか、とは思うが、この子はまるで『旅』を楽しんでいるのだろうか?

 早くママに会いたいとは思わないのだろうか?

 しかし、俺とてラーの事ばかり考えて、二人の捜索を断念する訳には行かない。


「仕方ない…… 兄ちゃん全力でお前を守るつもりだけど、どうなっても知らないからな……」


「よっしゃー!!行こー!」


 ラーは握り拳を高く高く振り上げた。

 とても親とはぐれた迷子には見えない。

 こちらは、身を削る思いでラーの親探しと護衛に全力を尽くさなければ行けないと言うのに。


 本当に、大丈夫なのだろうか……

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