危険な天使 ⑦
大修正の為、再投稿しています。
「大丈夫か?もう少しだからな」
「あかんわ。兄ちゃんと一緒やったら大丈夫やと思ったけど……」
憔悴して涙ぐんでいるラーちゃんを何とかなだめる。
結局、即席の抱っこ紐で抱き抱え、なるべく視界に人間が入らないようにして図書館へと向かう事になった。
何とかしてやりたい気持ちは山々だが、無理にでも図書館で情報を集めないと、今の俺達は全く前に進む事が出来ないのだ。
人間が怖くなくなるような便利な《魔法》でもあれば良かったのに。
☆*°
この町は、視界に飛び込むもの全てが新鮮で興味をそそられる。
だが、今は呑気に買い物出来る状態では無かった。
まるで小動物の様に震える幼子をかかえ、一時的に"兄"から"父"へとランクアップした俺は一目散に図書館を目指す。
馬車や車の様な四輪車での移動も考えたが、この状態のラーが乗れるとは思えない。
「ラーちゃん。少し揺れるぞ」
「あい……」
だから走った。
走る事は問題無い。
だが、速度を抑えて走る事がキツかった。
人々に怪しまれない限界ギリギリの速度で街路を駆け抜けていく。
苦労の甲斐あって30分程で目的の図書館へと着いた。
「さ、着いたぞ。あともう少しの辛抱だから我慢しろよな……」
「うぅ……」
恐怖で死ぬ事は無いだろうが、心配を通り越して不安になる。
立派な図書館の建築に目をくれる暇もなく、駆け足で図書館の中へと入っていった。
図書館は中々に立派だった。
母校の図書館に比べれば蔵書数は少ないと思うが、広さは母校の数倍はある。
そして、当然の事ながらこの中には無数の書物を閲覧している人間がいる。
やっと目的地に到着したと言うのにこれではこの先の作業が難航するのは間違い無い。
「は……!」
と、今更ながら良い方法が…… いや究極にして唯一の方法を思い付く。
何故もっと早くに気が付かなかったのか。
いや、余りに過剰に恐怖するラーを見て神が舞い降りたのか。
「ラーちゃん……」
「うん?早うして……」
「《добра ноќ 》……」
「え……? すぅ……」
幼女は先程の悲痛な顔がまるで嘘であったかのような健やかな顔で眠りに落ちた。
これで皆が幸せになれる。
もっと、早く気付けば良かった。
「よ~し!兄ちゃん全力で調べるからな!」
☆*°
俺は図書館にある書物を片っ端から見ていく。
最初は何が何だか全くわからない。
変な記号で構成されたバビロディア文字は、まるでクイズの様な厄介さだ。
だが、それでも少しづつ理解出来てくる。
何冊も何冊も『記録』していく内に、少しづつではあるが確実に理解が深まっていく。
少しづつではあるが確実に、まるで思い出すかのように。
脳内にバビロディアの情報が溢れ出てくる。
作業は止まる事無く取り敢えず片っ端から"見て"いく。
今は完全に理解出来ない事があっても、必要な知識は後から思い出せばいい。
最初に見たのは『バビロディア語辞典』的な書物。
難解な記号文字ではあるが、基本的な文法はラテン語に相関性がある。
次に『地図』。
地球みたいに細かい精密地図がある訳も無いが、大雑把に分かればいい。
そして『歴史や伝承』。
俺には関係の無い知識でも、何が手がかりになるか分からない。
片っ端から『記録』を続ける。
辞典や地図は数冊で充分。
優先順位を下げる。
今、全て『見る』必要性があるのは、この星の歴史や伝承。
その中でも"エルフ"竜""武器"に関する物。
この書物の大海の中に、必ず二人の事が載っている物があると信じて。
☆*°
ラーが眠ってくれたお陰で作業は順調。
傍から見れば大切な書物をパラパラめくるだけの奇人のようだろうが、既に100冊以上の本を『記録』する事が出来た。
だが今の所、有益な情報は見付からない。
それどころか、むしろ俺が【エルフの里】と思っている様な場所は一つどころか世界各地に無数点在していると言う事がわかった。
そして、エルフと呼ばれる種族の具体的な特徴や言語なども……
「……」
根本的な事が違っていたのかもれしない。
だけど、《《たまたま》》この書物にそう書いてあっただけなのかも。
まだ見ていない書物は無数にある。
ただの勘違いなのかも知れない。
俺は更に『記録』を重ねていく。
ページをめくる速度が無意識に上がる。
あまりに早くページをめぐり過ぎて、周りの人間に怪しまれないようにしていた事も忘れてページをめくる。
まるで確信していた認識が全て間違っていた事を恐れるように……
「あ……」
だがその時、視界に薄い水色の美しい髪をした人影が見えた。
痩身で背は高く、整った顔立ちとピンと先の尖った鋭い耳。
覚えたての知識にある"エルフ"そのものの特徴を持つ男性。
彼ならば…… 彼に聞けば何か書物に載っていないような《《他の》》"エルフ"の情報が聞けるかも知れない。
俺は『記録』作業を中断して、彼に話しかける事にする。
「あの、すみません」
「ん?何だ?私に何か用でも?」
やや無愛想にも感じられる素っ気ない表情で男は応えた。
だけど、これはエルフの個性というか種族としての特徴らしい。
決して怒っている訳では無い。
エルフ達は普段『感情』を激しく表情しないだけで、決して冷酷でも冷たい訳でも無い。
多少プライドが高いだけで、中身は自然を愛す情愛高い種族なのだ。
「今、エルフの部族について調べていているのですが、どうしても分からない事があって少し質問させて頂きたい事柄があるのですが……」
彼等エルフは総じてプライドが高い。
目の前にいる彼も見た目は20代だが恐ろしく年長者の可能性も高い。
言葉は選んで使わなければいけない。
「私達エルフに興味があるとは、快楽にしか興味を持たぬ筈の人間にしては珍しい。良いでしょう。私に分かる事であればなんなりと……」
エルフの男性は流暢で標準的なバビロディア言語で答えた。
「はい。エルフの中には『ピンク色』の髪を持つ部族はいるのでしょうか?もしくは、子供の内は『ピンク色』であったり……?」
「その様なエルフの部族はいませんね。エルフはどんな部族であれ、『青』または『薄い青』の分けられます。色が薄ければ薄い程、より"源祖"に近い血の濃いエルフとされます。我々の上位種であるハイエルフ等は限りなく"白"に近い青の髪を持っていますが、ピンク色などと言う低俗な髪色はありえまん」
「ははぁ。なるほど"……まさか"角"が生えてたりなんかって事は?」
「まさか、あなたは私達エルフを馬鹿にしているのですか?動物やモンスターじゃあるまいし、エルフに角が生えている訳が無いでしょう!」
じゃあ今もこの胸の中で眠る子は一体……
「そもそも、人間や獣人でさえピンク色の髪で角を持つ種族など見た事がありませんが?」
「そ、そうですよね!ありがとうございました!」
「ちょっ。待ちなさい!」
まだまだ調べたい事は沢山あったが、制止する男を振り切り足早に図書館を後にする。
獣人ですらない。
ドワーフ族や、何かのハーフとも考えにくい。
不安に似た焦りが俺を貫く。
一体俺は、誰を…… いや、何を助けてしまったんだ?




