危険な天使 ⑤
「ラーちゃんの家は何処にあるんだ?」
「んー。あっち?」
「西か…… 丁度ヤマシーナの方向だな」
「んー。やっぱあっちやったかも……」
「おい…… そっちは真逆じゃないか」
「んー。ラーちゃんわからへん……」自身の目的とラーの故郷を探す為
ー
「いつどうやって誘拐されたんだ?」
「わからへん。知らん間に牢屋に入れられてた……」
「知らん間に?記憶が無いのか?周りには誰も居なかったのか?」
「わからへんって!寝て起きたら牢屋やったんやもん……」
ラーの目が涙ぐむ。
どうやらこれ以上問答を重ねても意味は無さそうだ。
むしろ普通の幼女に道や誘拐された時の経緯を聞いて答えを得ようとした自分の安易さに腹が立つ。
何でもかんでも完全に覚えていた俺を基準にしてしまった俺が悪いのだ。
種族的に知性溢れるエルフとは言え、幼女の記憶力や知能レベルなど、たかが知れているのだ。
これが普通なのだ。
「所でラーちゃんは何歳なの?」
「んー。五さい……」
大体想像どおりだった。
むしろ俺の妹が五歳だった時よりも、幾らかしっかりしているぐらいだ。
(グギュルルル~)
突然盛大な腹の虫が鳴り響く。
見ればラーちゃんが恥ずかしそうに赤くなっていた。
グギュルルル。
俺の腹からも同様に腹の虫が暴れている。
そう言えば俺も昨日は晩飯を中断されて腹が減っているのだ。
取り敢えず何か腹に入れよう。
だが、エルフとは一体何を食うのだろうか?
「ごめんごめん。朝ご飯にしよう」
俺は昨日の食べ残した大量のモンスター肉にかぶりついた。
流石にエルフの少女にこんな冒険者丸出しの肉塊を食べさせる訳にもいかず、考えた末にストレージからパンとスープを取り出してラーちゃんに手渡した。
ストレージ内部は亜空間なのでどれだけ時間が経っていても出来たてホヤホヤだ。
きっとこれならエルフでも食べれるだろう
「ムシャムシャ……」
肉塊を次々と飲み込んでいく。
大量の肉塊も悪くないが、俺は本当は朝食は納豆ご飯みたいな物が食べたかった。
だがやはり、その夢はバビロディアでも叶いそうに無い。
だが、この世界はバビロディア以外にも幾つか文化形態の異なる国があるそうなので、いつかその夢が叶う事を望んでいる。
やはり日本人は和食に限る。
肉も悪くはないが、いつか腹が破裂する程白米を飲みこみたいものだ。
「ラーちゃんどうだい?美味しいかい?」
「ん……」
てっきり出来たてホヤホヤのパンを貪り食っているかと思えば、ラーちゃんは出された食事に殆ど手をつけていなかった。
あんなに盛大な"腹声"を出していたというのに、やはりエルフは人間の食事など食べれないのだろうか?
「あれ? パンでもダメだった?困ったな……」
「ぅん。ラーちゃんもそれがええ……」
その小さな指が示した先には俺が齧っている、およそ普通の人間が食べれるサイズとは思えない巨大な肉の塊があった。
調理されているとはいえ、小分けにしてもらうのも面倒くさいのでほぼ丸ごとの肉塊だ。
イメージからてっきりエルフなんかはベジタリアンチックな食生活だと思い込んでいたので驚いてしまった。
「あっ。そうなのか!ごめんごめん。エルフが何を食べるか知らなかったから……はいどうぞ」
巨大な肉の一部を掌サイズに引きちぎって手渡した。
すると少女はそれを一口で美味しそうに丸呑みにしてしまう。
幼女とは思えない食いっぷりだった。
「ん!もっと!」
「あ、はい……」
「ありがと。ングング……ガツガツ……」
少女の口内からはまるで肉食獣の様な立派な犬歯が見えた。
「す、凄い牙が生えてるんだね……」
「ありがと!ひひひ……」
少女が嬉しそうに笑顔を見せた。
昨日からずっと塞ぎ込んでいた少女の初めての笑顔だった。
角を触ると激昴するが、牙の事を褒められるのは嬉しいらしい。
次々と俺の抱いていたエルフのイメージ像とは異なる事実が見えてくる。
そして、まあまあ巨大なサイズの肉塊が次々とラーちゃんに飲み込まれていった。
もちろん俺やマテラに比べれば小食ではあったが、それはとても幼女の食事量とは思えなかった。
次々と明らかになる、知られざるエルフの生態。
漫画などで覚えたイメージが如何に適当だったのかを知る。
エルフは肉食動物だったのだ。
しかも、身体の割にはかなりの大食いの……
「はぁ。美味かった~。ごちそうさん」
「それは良かった。兄ちゃんと好みが合いそうだな」
「ぅん。イロリも沢山食べるんやな。父ちゃんみたいや !」
「へぇ~ ラーちゃんの父ちゃんも凄いねぇ」
どれだけラーちゃんが大食いとはいえ、俺の比では無い。
既に目の前には10数kgに及ぶ肉の塊から出た大量の骨が積み上がっている。
ラーちゃんの父親がその俺と同じレベルであると言うのなら、エルフと言うのはとんでもない種族である。
「よし、腹も膨れた事だし、そろそろ出発するか!」
「ぅん!」
「よいしょ!」
「わぁ!」
有無も言わさずに小さなラーちゃんを担ぎ上げた。
俺の肩はそんなに大きくないが、幼女の一人乗せるぐらいは問題無い。
帝国はもう見える距離にまで来ている。
後は歩いて一時間もあれば着く予定だ。
子供とゆっくりと歩いていくよりも乗せてしまった方がよっぽど速いのだ。
「あ、ラーちゃん!兄ちゃんが手から色々物を出してたの、皆には秘密だぞ!」
「え!なんで?」
「うん。兄ちゃん色々不思議な事が出来るんだけど、皆が驚いちゃうから隠してるんだ……」
「ん。分かった!内緒やな。人間にバレたら大変やからな!」
「頼むな!」
こんなこの世界の事が右も左もわからない俺に助けられた事は、この少女にとってラッキーだったのかアンラッキーだったのか。
もし事情の明るい冒険者に助けられていれば今頃仲間の居場所など、とっくにわかっていたかもしれないと言うのに。
だが、どちらにせよ少女は既にこんな俺に助けられてしまったのだ。
他に頼るべき人も居ないだろうし他に方法も無い。
もし帝国に同胞や仲間が居て、少女がそれを望むならば託してしまっても良いと思っていた。
だが、少なくてもそれまでは力になってやろうと思った。




