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危険な天使 ①

「あと、その肉10kgとこの肉20kg、調味料も全種類下さい」


「あいよ!沢山買ってくれてありがとよ!」


 次々と食材を買い込んでいく。

 既に道具入れはパンパンだが、町の外へ出れば『ストレージ』に入れらるので、買えるだけ買っておく。

 カイラさんに借りた宿代を返済しても、資金は250万$近くある。

 これなら数ヶ月分の食料を仕入れるのには充分過ぎるだろう。

『ストレージ』にはゼジャータで採った食材も入っているし、モンスターを食べる事も出来るので問題無い。


「こんなもんかな。じゃあそろそろ行くか……」


 旅に必要な準備を揃え終わり、町を出る為に門へと向かった。

 二人はいつ見つかるかわからない。

 いくら居心地いい場所でも長居している暇は無いのだ。


 門では先日顔を合わせたイワノスの知り合いの門番が番をしていた。


「おう、お前はこの間の……」


「お疲れ様です」


「まさか、こんな時間に外へ出るつもりか?お前さんの実力は知らないが止めといた方が良いぜ?いくら町の近辺でも夜はモンスター共がやたらと好戦的になるからな」


 夜になれば危険は増す。

 その辺はモンスターも地球の獣も同じなのだろう。

 地球でも夜に野生動物が闊歩する山へ狩りに行く者は熟練者だけだ。

 だが、俺は夜目が効くし何年も外で一人で生きてきた経験もある。

 何より、この世界のモンスター程度ならば襲われても多分問題は無いだろう。


「ご心配ありがとうございます。ただ、急ぎの用なので……」


「禁止されてるわけじゃねぇから無理には止めねぇよ。せいぜい夜道に気を付けてな!」


「ありがとうございます」


 門番が快く扉を空けてくれた。

 注意だけで通してくれるあたり、俺と同じ様に夜に出歩く冒険者も少なからずいるのだろう。


「お世話になりました。イワノスさん達に会いましたらよろしくお伝えください」


「おう!気を付けてな。イワノス達に心配かけんじゃねぇぞ」


 最後にイワノスに挨拶したかったが、何故か今日は姿を見せなかった。

 少し寂しいが、きっと何か用事でも合ったのだろう。


 門番に何度も挨拶をしながら町の外へと出る。

 全く嬉しくは無いが、久しぶりの一人旅が始まったのだ。

 だが、あの時と今の俺は違う。

 必ず二人を見つけ出してみせる。


 周りに人が居ない事を確認し『ストレージ』に買い込んだ食材等を収容していく。

 この世界にも『ストレージ』に似た『道具袋』と呼ばれる物が存在しているのだが、俺がマテラに貰った『ストレージ』に比べると圧倒的に性能が劣っているので人前ではあまり使いたく無かったのだ。


 今は記憶喪失という設定になっている為、あまり便利な道具や力をホイホイと見せる訳にはいかない。

 色々と不便な事が多いので、また何か良い言い訳を考えなければ行けない。

 まあそれは、次にまたこの【ヤマシーナ】に戻ってくる時で良いだろう。

 まずは、帝国にあるという『図書館』目指して一直線に進む事にする。


「このぐらい離れれば良いかな……」


 町が小さな豆粒ぐらいに見えるぐらいまで離れて再び人目が無いことを確認する。

 周囲には人は居ない事を確認し、俺は走り出した。


(ヒュイン……)


 久々に《黒》の力を使ったが、この世界でも俺の体質は変わらないらしい。

 むしろ、前よりも《力》が増しているかのように感じた。

 あっという間に町が消え去り、初めてイワノス達に合った思い出の場所を通り過ぎた。

 風を切り裂くように走る。

 今の俺なら時速200km以上の速度で何時間だって疲れずに走る事が出来そうだ。


「すまんが相手してる暇は無いぞ」


 途中何度もワーム達を見掛けたが、相手にする気など無い。

 全て無視してひたすら走り続けた。

 カイラさんには『一週間ほど歩けば……』と言われたが、このまま道さえ間違え無ければ明日の朝までには余裕を持って到着出来るだろう。


「方向だけ一度確認しておくか……」


 30分ほど道無き荒野をひたすらに走っている。

 計算によればもう100kmぐらいは進んでいる筈だ。

 俺は《黒》を発動させて《重力操作》の力で上空へ落下していく。

 高度がどんどん上がり、遠くの景色が見えてきた。

 いくつか小さな集落の様な物は見えるが、あれが【帝国】だとは思えない。

 首都という話なのでヤマシーナよりも巨大な都市の筈だ。


「まだ見えないか……」


 さらに高度を上げていく。

 気温は急激に下がっていき、雲がすぐ近くまで迫ってきていた。

 眼前にはゼジャータと変わらぬほぼ手付かずの美しい大自然が見えた。


「あった!」


 人工的な光が殆ど存在しないこの世界では、ほんの僅かな"魔力灯"の光でさえ、とても目立つ。

 遥か遠くに薄らと光る巨大な建造物の様な物を発見した。

 おそらくあれは帝国に灯されている"魔力灯"の灯りだろう。


「面倒臭いな。このまま近くまで飛んでいくか……」


 空を行けば道を間違えようも無い。

 上空の冷たい空気を切り裂きながら、そのまま走るよりも遥かに早い速度で帝国へと近づいて行った。


 走っていたとしてもモンスターに追い付かれる事は無いものの、それでも万が一人目に付く事は避けたかった。

 ここならば人間に見られる事はおろか、まさかこんな高高度の夜の空を生身で人間が飛んでいるとは思われないだろう。


「あぁ気持ちいい。けど、早く着き過ぎたかな……」


《黒》を使えば、ほぼ自由落下に近い速度で自由自在に空中を飛ぶ事が出来る。

 マテラに比べれば遅いとはいえ、俺の飛行速度もかなりのものである。

 朝までには到着するどころか、あと一時間もすれば余裕で到着出来る所まで来てしまった。

 明るくなるまではまだ時間もある。

 ここから先はまた地面に降りて、のんびりと自分の足で歩いて行く事にする。


【ヤマシーナ】よりも遥かに巨大で堅固な【バビロディア帝国】の外壁が近付いてきた。














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