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人間の町 ③

 まるで荒くれ者の様な態度の男達が、こちらへと近付いてくる。

 まだ昼が少し過ぎたぐらいだというのに、既に大分酔っているようで、足元は覚束ず、口からは酷い悪臭がする。


「ちっ……めんどくせぇ。構わずに早くアジトに帰るぞ!」

「おい!貧乏ギルドの癖に俺達をシカトすんじゃねえよ!」


 さっきまであんなに明るかったイワノスの顔が、彼等のせいで急に険しくなっていた。

 どこの誰だかわからないが、イワノスにとって関わりたくない奴等なのだろう。

 俺もこんな見るからに害悪な奴らとは関わりたくない。


「相手すんな。行くぞ……」

「ケッ!根性無しが!」


 集団はまだしつこく罵倒し続けていたが、イワノスは決して相手にしなかった。

 そして、そのまま冒険者集団を無視し続け、逃げる様に足早にアジトへと向かった。


 ☆。.:*・゜


「イワノスさん……」


 集団と大分離れているというのに、イワノス達はあれからずっと無言だった。

 折角、数年ぶりの町を歩いて楽しい気分になっていたというのに、台無しだ。


「嫌な思いさせて、すまなかったな……」


「いや、大丈夫ですが……」


 少し経って、イワノスは少しバツが悪い表情で呟いた。

 イワノスに謝罪される理由など無い。

 過去にどんな因縁があったのかは分からないが、少なくともイワノスに非が無いのはわかる。

 仮に有ったとしても、俺はイワノスの肩を持つ。


「あいつら、一体何者何ですか?とても感じの良い奴等には見えなかったですけど……」


「あいつら俺達をやたら目の敵にしておちょくってきやがるんだ」

「毎度毎度、面倒臭いったりゃありゃしねえ」


「余計な事いってんじゃねえ!」


 イワノスが部下達を窘めている。

 不快ではあるが、何処の世界にもあの手の輩は必ず存在する。

 俺も日本でどれだけ不良達に嫌がらせを受けた事か……

 もう随分昔になってしまったが『ガリゾンビ』だった時の事を思い出してしまった。

 暴力こそ俺には通じないが、精神的にはかなりストレスになっていた。

 正体さえバレなければ、いつか本気で復讐してやろうと思っていた。

 それは俺としても忘れてしまいたい過去であったが、なまじ記憶力が良すぎる為に、今でもハッキリと完全に覚えているのが忌々しい。

 頭の中を美しい女性の姿だけで埋めつくしたいぐらいなのに、どれだけの女性を見ても、残念ながらあの事を忘れる事など出来なかった。


 しかし、奴等の態度はそんな俺の記録を遥かに上回るものだった。

 俺の時のような冗談混じりの悪ふざけ等では無く、明確な"悪意"と"殺気"を感じたのだ。

 日本とは違い、バビロディアは武器を携帯する世界だ。

 喧嘩の先には容易に"死"もあるのだろう。

 警察に準ずる憲兵の様な役割の兵士もいるだろうが、秩序に固められた日本と比べれば治安などは比較にならない。


「おめぇには関係ねぇ事だ……」


 どんな因縁があるのか知らないが、イワノスはなるべく奴等の事を話したくないようだ。

 であれば、気にはなるが、俺からとやかく言う必要も無い。

 その事について、これ以上話題にするのは止めておいた……


 ☆*°


 ____ギルド【竜の髭】____


 町の中心部から少し離れた所に、多少古びているものの、元々は立派な建物だったのであろう屋敷があった。

 イワノス達が拠点としているギルド【竜の髭】だ。


「おう!戻ったぞ!」


「あら、おかえりなさいイワノス」


 この古びた建物には、似つかわしくない程の美しい女性が出迎えてくれた。


【竜の髭】通称【髭】は『ヤマシーナ』にある無数のギルドの中でも、かなり古くから存在する伝統ある由緒正しいギルドらしい。

 イワノスは丁度4代目マスターで、現在の団員は全部で12名。

 その他に先程の『マネージャー』と呼ばれる秘書のような立場の女性がいる。

 規模としては、小と中間の間ぐらいらしい。


「おう!今日はすげぇ事があったんだ!」


 イワノス達は遠征に出ていなかった団員達やマネージャーに、今日あった一連の流れを報告していた。

 勿論俺の事も詳しく紹介されたが、名前も素性も何も分からない正体不明の俺だ。

 結果的にイワノス達を救った恩人とはいえ、余りにも怪し過ぎるのは俺も自覚している。

 イワノスの手前、邪険にこそされ無かったものの、他の隊員達からは、とても微妙な感じの対応を受けた。

 まあ、仕方ない。

 むしろ、この程度で済んだのは幸いと言える。

 こんな怪しい俺に親身にしてくれるイワノスが善人過ぎるのだ。


「私はこのギルドのマネージャーを務めているカイラよ。命を助けて貰った事はお礼を言うわ。ありがとう…… 」


「初めましてカイラさん。イワノスさん達のお言葉に甘えてお邪魔させて頂きました」


 これ以上不安がらせないように、最大限に丁寧にお辞儀する。

 正体は明かせないが、せめて受けた恩や礼儀だけはちゃんと返したいのだ。


 この美しい女性の名はカイラ。と言うらしかった。

 金髪ロングの髪を一つに束ねた知性的な美人だった。

 余り利口そうには見えない者も大勢いるギルドの冒険者達と帝国ギルド本部の間を取り持つ立場の人らしい。

 会社で言うと"経理"や"受付"などをまとめて行う人。みたいなイメージだろうか?

 若干厳しそうな雰囲気もあったが、それはマネージャーと言う立場から来るものなのだろう。


 後、カイラさんはとても胸が大きかった。

 俺に対する懐疑的な態度はともかく、俺にはその見事な巨乳が、まるで宝物の様に輝いて見えた。


「あの、そんな露骨に私の胸をジロジロ見ないでくれるかしら……」


「はっ!すみません。余りにも大きくて美しく、魅惑的だったもので……」


「あなた……記憶以外も少し問題があるようね……」


 久しぶりに見たマテラ以外の女性の胸に、俺の心は酷くザワついていた。


 そして、マテラとの生活のおかげで、こんな恥ずかしい台詞もスラスラと言える様になっていた自分に驚いた。

 おかげで道中に会った、嫌な集団の事などすっかり頭から消えてしまっていた。





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