人間の町 ②
予想していたより遥かに巨大な外壁に驚く。
同時に、この時代は予想していたよりもずっと進んだ文明があるようだ。
これ程立派な外壁は地球でも滅多に見る事は無い。
恐らく強力なモンスターから町を守る為に作られたのであろう。
そして、町へと続く門の前には金属鎧で身を固めた屈強そうな門番の姿も見えた。
「そのカッコじゃあ、無駄に怪しまれちまうな。これを着てろ!」
イワノスからマントの様な物を渡された。
本当は『ストレージ』の中には服の代わりになるものぐらいは入っていたのだが、みんなの前でそれを使う訳にもいかなかったのだ。
なので、今の俺はボロボロの布切れをただ腰に巻いただけの、まるで原始人みたいな格好だったので、身を隠せるマントは大変有難かった。
「うっす。お疲れ様!」
「おう!イワノス!新人か?珍しいな」
顔見知りなのか、軽い挨拶程度で大した検査も無く町へと入る事を許可される。
そして、ドキドキしながら門を潜り、遂にこの世界で、と言うよりも異世界に来て初めての町へと入る事になる。
地球にいた時も海外旅行などした事が無かった俺の興奮は最大限に達していた。
「ん?この、匂いは……」
町から感じる風と共に、数年ぶりの懐かしい"香り"を感じたのだ。
この、日本人であれば全ての人が知っているであろうこの"匂い"は……
「おおお!」
【大帝国バビロディア】の大都市【ヤマシーナ】は素晴らしいの一言だった。
立派や石造りの建築物と、それに少し離れた場所に見えた"美しい海"。
外壁の外からでは見えなかったが、ここは港町だったのだ。
「ああ、海だ……」
海がある。
潮風と共に感じる、何とも言えない海の匂い。
太陽光に反射してキラキラと光っている。
たったそれだけの事なのに、俺は感動して涙が出そうになった。
何度も何度も見飽きる程見ていた筈のただの海が、信じられないぐらい美しく見えた。
勿論、感動したのはそれだけでは無い。
町には人々が溢れ帰り、活気が満ち溢れていたのだ。
今までたった三人で生活していた俺からすれば、この町は信じられない程に華やかで賑やかに感じられた。
とにかく嬉しかった。
異世界に飛ばされて幾数年……やっとまともな人間の文明に出会えたのだ。
そう言えば……何故かゼジャータではマテラと海へ行く事は無かった。
スメーラ人には魚を食うと言う習慣が無かったのだろうか?
「あ!あれは!?尻尾!?」
町を歩く人々の中にはどう見ても人間とは異なる獣人っぽい人達もいた。
ファンタジーの世界では定番の存在だが、勿論生で見るのは初めての事なので、その事にも激しく興奮してしまった。
「なんだ?もしかして、獣人も見た事が無かったのか?」
「あっはい。覚えて無いですけど……」
重ねた嘘にボロが出そうになって、慌ててシラを切る。
興奮しても声には出さない様に気を付けよう。
「そうか……それよりどうだ!ヤマシーナは良い町だろう!」
「はい!最高です!」
イワノスは町を褒められた事が嬉しかったのか、クイーンという特大の獲物を収穫が出来た事が嬉しかったのか、とにかく上機嫌だった。
俺もお世辞等では無く、本当に心の底から驚いていた。
今まで何も無い荒野で、原始人の様な格好でひたすら戦闘訓練に明け暮れていた俺からすれば、この活気溢れる町並みは驚嘆すべきものだったのだ。
流石に日本に比べれば文明レベルは劣っているが、"魔力"を使った簡単な機械っぽい物、灯り、医療所、レストランの様な物までもある。
港町の為、新鮮な魚介類や穀物など食材は豊富であり、船を使った大規模な"都市間移動"や"流通"まで可能にしている文明都市らしい。
そのどれもが滅びていたセジャータには無かった素晴らしいものだった。
勿論、近未来の様なスメーラ王国には全てあったのだろうけど、あそこは何となくノーカウントだ。
全てが有ったとしても、もう誰も居なかったからな……
全てはそこに生きる"人"が居てこそなのだ。
「しかし、本当に何にも覚えてねぇんだな……」
「う、はい……」
嘘をつき続ける事に罪悪感を感じつつも、本当の事を話す訳には行かない。
そんな俺に、イワノスは色々な事を説明してくれた。
どうやらこの世界には『モンスター』と呼ばれる凶暴な生物が無数に蔓延っており、常に市民の生命を脅かしている。
なのでモンスターを退治する事によって、国家から金を貰えるシステムになっているらしい。
それらを生業にする者は、総称して『冒険者』と呼ばれ、大抵の者は『ギルド』と呼ばれる団体に所属している。
別に冒険をしなくても『冒険者』なのには若干気になったが、取り敢えず便宜上そうなっているらしい。
冒険者とモンスターは『A』から『E』の五段階に分けられていて、最高ランクのAクラス冒険者ともなると、とても贅沢な生活が約束されているらしい。
だが、Aクラス冒険者に昇格する為の審査ともなると、滅多に通る事の出来ない大変厳しいものらしく、この大きな町にも数人しか居ないらしい。
イワノスは真ん中の『C』クラス。
クイーンは同じCの中でも『C+』に属するらしい。
真ん中の普通レベルなのかと思いきや、Cクラスでさえ、簡単にはなれない立派な冒険者なのだとか……
俺からすればなんて事ないあのクイーンでも、準災害級の強敵らしい。
いまいち基準が分かりづらいが、イワノスを見る限り、今の俺なら余裕でAクラスに成れるのではいだろうかと思ってしまう。
少なくとも、Bクラス以上である事は間違い無いだろう。
そんな感じでこの国家の説明、町の様子やギルドの事。
色々な話をしてくれながら、ギルドへと向かう道をついて行く。
時折、地球で時々目にしていた彼等を見かけたのが、数多くの人間が生活している都市だという事を感じさせる。
マテラと二人で居た時は何年間も見ていなかったが、人の集まる所では彼等は必ず存在するし、特に悪さをしそうな悪い感じもしないので気にしないでおく。
「おい!イワノス!珍しく上機嫌じゃねえか!」
その時、見知らぬ冒険者集団が話しかけてきた。
ニヤニヤと、まるで馬鹿にするような顔で俺達の事を嘲笑っている。
笑ってはいるが、好意を感じさせる笑顔などでは無い。
不快だった。
なんだ、こいつらは……?
激しく不快感を感じた。
集団は、山賊の様な見た目のイワノス達よりも更に見た目が悪い。
その粗暴で品の無い立ち振る舞いは冒険者と言うよりも『荒くれ者』と表現するのがピッタリだった。
地球ではずっと我慢し続けて来たせいか、俺はこの手の奴等が大嫌いなのだ。
イワノスの知り合いの様ではあるが、一体何者なのだろうか……




