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人間の町 ①

「おめぇ……一体何者だ?」 


 緊張が走る。

 せっかく警戒心を緩めてくれていたイワノスから、再び最大限の警戒心を感じる。

 初級の《魔法》を"魔法陣"無しで発動したぐらいでこんなにも大事になってしまうなんて、想像も出来なかった。

 しかし、あの時俺が戦闘に参加しなければ、今イワノス達が生きていた保証も無い。

 せっかく出会えた人間なのに、いきなり目の前で死なれてしまうぐらいなら、同じ事がもう一度起こったとしても、俺はやはり戦っていたと思う。


 それに、今更どれだけ後悔しても、もう遅いのだ。

 それよりも、この状況をどうやって誤魔化そうか……


「俺は……」


 良い言い訳が浮かばない。

 額から、冷たい物が滴り落ちる。

 "見間違い"と言い切るには、バッチリと見られ過ぎている。

 どれだけ考えても、この場を乗り切るべき上手い言い訳が思い浮かばない。

 ピンチだった。


「……」


 沈黙が痛い……

 やはり、隠し通すのは諦めて、ある程度までは状況を説明するべきか……

 いや、やはりそんな事が出来る訳が無い。

 この時代の文明レベルはまだ解らないが、俺が『時空を超えて来た』事など言える訳が無い。

 異世界人で、更に"人間では無い"事など以ての外だ。

 何とか真実を言わずにイワノス達を納得させるしか無い。

 やはり無理矢理にでも、"必殺"の記憶喪失のフリで貫き通すべきだろうか……


「え、っとですね……」


 緊張した時間が流れた。

 ほんの僅かな数秒の時間が、まるで永遠の様に感じてしまう。


 どうしよう……

 時間だけが過ぎていく。


「ガーッハッハ!」


 気まずい沈黙が流れる中、突然イワノスが大声で笑いだした。

 突然の行動に動揺してしまう。


「ガッハハ!すまねぇ!そういえばおめぇは記憶がねえんだったな!しっかしすげえ馬鹿力だったな!おかげで命拾いしたぜ!」

「本当だぜ!お前のおかげで助かった!」

「ああ!凄かったな!ありがとうよ!」


 イワノスが大きな口を更に大きく開けて、高らかと笑っていた。

 隊員達もみな、顔を見合わせて笑ってくれている。

 少し、ぎこちない手付きで俺の肩をポンポンと叩いてくれた。


「イワノス……」


 俺は、その行動に対して何も返せる事が出来なかった。


「記憶喪失だろうが何だろうが、お前は命の恩人だ! 俺達【竜の髭】の大切な客人だ!」


「ありがとうございます……イワノスさん」


 俺には、それしか言えなかった。

 言葉が出なかった。

 こんな不審な俺の事を、イワノスは見逃してくれたのだ。


「何言ってやがんだ!礼を言うのは俺達の方だ!しかもクイーンだぜ!すげえ大収穫だ!今日は宴だぞ!」

「うおお!やったぜ!」

「よーし!今日は呑むぞー!」


 イワノス達は再び満面の笑みで騒いでいる。

 助かった。と心の底から思えた。


「ほら!客人!おめぇも勿論強制参加だぞ!主役だからな!」


 これからアジトに戻って宴を行うらしい。

 どうやら俺も強制的に参加させるとの事だった。

 最高に有難いお節介だった。

 酒に興味は無いが、飯を食えるのはありがたい。


 イワノス達の気遣いに深く感謝した。

 不審な俺を見逃してくれたイワノスの誰が見てもわかる程の嘘臭い演技と、それを瞬時に悟ってくれた隊員達の優しさに……



 ☆。.:*・゜



 イワノス達と町へと向かう。

 馬に乗ったイワノス達の速度に走って着いていくのは本来ならば簡単な事では無いが、俺はかつて何年も一人で歩き続けていたので、全く問題無い。

 今なら全力疾走で丸一日だって走る事が出来るし、その気になれば、空を飛ぶ事だって出来る。

 馬の速度に着いて行くぐらいは雑作ない。


 そんな道中、イワノス達は"記憶喪失"の俺に、色々な事を教えてくれた。

 この大陸はかつて、大小様々な17つの国々が覇権をめぐってひしめき合う、厳しい『戦乱の世』だったらしい。

 だが、20数年前に只の小国の王であった現バビロディア王がたった一代で周辺国家との戦いを終結させ、巨大な勢力を築き上げた。

 17つあった国も、全て合併吸収されて今は4ヵ国になっているらしい。


 そして、大陸に平和をもたらした後は現【バビロディア帝国】を築きあげ、今もずっとその平和が続いているらしい。

 4ヶ国は一応停戦状態で、小さないざこざ程度はあるものの基本的には関係は良好で、再び戦争に突入する可能性は低いらしい。


 なので基本的には、モンスターに襲われる事以外には"脅威の無い"平和な世界なのだそうだ。


「たった20年で……」


 歴史にそれなりに明るい俺にはよく分かる。

 この星、はかなり広い。

 俺が何年も歩き続け探索した距離も、後々マテラの背に乗って空から見てみれば、ほんの僅かな距離だったと知ってビックリしたものだ。

 それこそ、当時の俺が徒歩でゼジャータの大陸を横断しようなどと思うと、一体何十年かかるか分かったものでは無い。

 マテラみたいな《転移》や《超高速移動》なんかが使えたとは思えない。

 いくら"魔法陣"を使ったとしても、あんな高度な《魔法》は俺にも使えないし、"魔法陣"を使わずに《魔法》を発動した俺に驚いている程度の彼らに使いこなす事など出来るとは思えないからだ。

 バビロディア王は、たった20年足らずで、一体どうやってこの広い大陸を治めたと言うのか……


 この世界は地球とは違って"陸"もある程度は繋がっているとは言うものの、地球の様な移動手段や、核兵器の様な対軍平気も無しに、この大陸全てを移動して戦争を終わらせるなどとは、とてつもない"偉業"なのだ。

 そして、どうやらその和平も決して属国や民衆を奴隷化させて無理やり従えるような"恐怖政治"などではなく、合併された国も昔よりも遥かに"平和"で豊かになったと大絶賛されているのだ。

 そのカリスマ性や名君っぷりは英雄譚として語り継がれ、バビロディア全土に轟いているそうだ。


 もしかしたら、人間では無い何か不思議な力の持ち主なのだろうか?

 マテラの様に……


「調べてみる必要があるかも知れないな……」


 機会があれば是非会って話をしてみたいとは思うが、相手は大国の王であり英雄。

 同じ王でも偶然滅亡した世界で知り合えたマテラとは訳が違う。

 素性も開かせぬ俺なんかが、簡単に会えるような人物では無いのだろう。


「客人!見えてきたぞ。あれが俺達の町『ヤマシーナ』だ」


「うおお……」


 遠くに見えた巨大な城壁が見えてきた。

 想像してたよりも、遥かに巨大で立派な町だった。



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