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新たなる脅威 ④

「あっ、え……」


 隊員達は、信じられないものでも見たかのような顔で俺を凝視していた。

 面倒くさがって、一撃で瞬殺してしまったのはやり過ぎだったようだ。

 体液で汚れる事を恐れて、取った方法が迂闊だった。


「あ、イワノスさん……」


 すぐに俺は、それどころじゃ無い非常事態を目にする事になる。

 爆散したワームの残骸が、周囲に激しく飛び散ってしまい、近くにいたイワノスの身体が紫色の不気味な体液まみれになってしまっていたのだ。

 イワノスに当てない様に配慮したつもりが、結果として余計に悲惨な目に合わせてしまったようだ。

 ヤバい。

 とてつもなく"申し訳ない"事をしてしまった感がある。

 まるで友達の服に付いた"虫"を払おうとして、勢い余って潰してしまった時の様な後味の悪さだ。


「……」


 イワノスも体液まみれになった自分の身体と、気絶したクイーンを見て呆然としていた。


「あ、あの巨大なワームを放り投げた、だと!?」


 隊員達はまだ驚きの余り、口をポカンと開けて放心していた。

 気を付けていたと言うのに、やり過ぎてしまった事を反省したが、もう遅かった。

 どっちみち、あのまま皆を見殺しになど出来なかった。

 もう、なるようになるしか無い。


「すみませんイワノスさん!大丈夫ですか?わざとじゃないんです……」


 さっきから、全く動かない"モンスターの体液まみれ"のイワノスの事が心配になる。

 もしかすると、体液に"毒"でも含まれていたのだろうか?


「……いや、大丈夫だ……それより……」


「ああ……良かった。毒でもあったのかと……」


 イワノスの無事を知って安堵する。

 朧気ではあるが、ちゃんと意識はあるらしい。

 あの体液に即効性の神経毒などは無かったようだ。

 そして、怒ってもいないようで安心した。

 

「む……むむ……」


「ほ、本当に大丈夫なんですか!?」


 意識はあるようだが、やはりまだイワノスの様子がおかしい。

 軽卒とはいえ、俺のした事は、ただモンスターを放り投げただけだ。

 そこまで驚かれる程の事だとは思えない。

 そんな事よりも、今の所気絶して動かないとはいえ、クイーンはまだ生きている。

 このままイワノスが回復するのをジッと待っている訳にも行かない……


「うおお!ボ~としてる場合じゃないぞ!今の内にイワノスさんを守るんだ!やれ~!」


 一足先に、隊員達が動き出した。

 今のこの状況に気付いたようだ。

 隊員達は未だに覚束無い状態のイワノスを守る為、まだ起き上がってこれないクイーンに、一斉攻撃を始めたのだ。


「《火炎嵐(ファイヤストーム)》!」

「《雷龍の咆哮(サンダーブレス)》!!」


 隊員達は次々と"魔法陣"を詠唱発動させ、多種多様な《攻撃魔法》がクイーンを襲う。


「あっ!それは!」


 隊員達が放つ《魔法》を見て、俺は歓喜した。

 "魔法陣"の根幹となる基本的な構成式には『スメーラ語』を"記号化"させた物で描かれた術式が描かれている。

 今、隊員達が使った魔法とそれを生み出す為の"魔法陣"は、マテラが生み出した"魔法陣"と非常に酷似していた物だったのだ。

 ほんのついさっきまで、毎日の様に見ていた"魔法陣"だ。

 俺でなくとも、見間違う筈も無い。


 つまり、間違い無く両者の根幹となる術式は同系統の、『マテラの魔法』なのだ。

 それはこの世界が、マテラ達と過ごしたゼジャータと同じ世界である証明であった。


「良かった…… 本当に……」


 本当に良かった……

 涙が零れそうになる。

 俺は、再び二人に会える希望を、確信を持つ事が出来たのだ。


 さらに、俺が普通とは違う事をしてしまったとしても、「《魔法》で何とかした!」と、言い訳する事が出来る!


「しぶとい!まだ生きてるぞ!攻撃を続けろ!」


「あれ……?」


 少し離れた場所で、激しく《魔法》の炸裂音が木霊している。

 俺が安心している間も隊員達の《魔法》攻撃は激しくクイーンを襲い続けていた。

 だが、隊員達の放つ《魔法》は全てクイーン命中していたものの、体皮を少し焦がす程度の効果しか持たないようだった。

 おかしい。

 そんな筈は無い。

 隊員達の放つ《魔法》は、俺の覚えた《魔法》とは微妙に異なる物ではあったものの、描かれた"魔法陣"から推測するに、中級魔法相当に位置する《魔法》だ。

 簡略化の為に"魔法陣"を用いているとはいえ、異常に攻撃力が無さ過ぎる。

 あの《魔法》ならばクイーンと言えどもとっくに消滅させれる程度には攻撃力がある筈なのだ。

 いくら何でも、あの火力では魔法適正が最悪な俺にも劣っている。


「うおお!死ねぇ!《火炎嵐(ファイヤストーム)》!」


 だが、それはすぐに理解出来た。

 どうやら隊員達の使う《魔法》は、予め覚えていた"魔法陣"になんの思考も無く、ただ"魔力"を流し込んで、無理矢理発動しているだけの《魔法》の真似事のようなものなのだ。

 本来複雑な発動工程を"魔法陣"が見事に簡略化している為、あれなら誰でも簡単に《魔法》を使う事が出来るが、やはり"魔法陣"に頼りっきりで"事象の干渉"という"大原則"を理解出来ておらず、しっかりと魔力が練られていない為、激しく威力に欠けているようだった。

 あれではいくら《魔法》が発動出来ているとはいえ、必要最低限以下の効率しか生み出せない。

 最低とダメだしされた俺以下の魔力効率の低さである。

 あれでは、直ぐに魔力が足りなくなってしまう。

 現に隊員達は、既に魔力切れを起こしかかっていた。


「ヤバいな……」


 せっかく気絶していたクイーンが、軟弱な《魔法攻撃》で、逆に"目を覚まして"しまっていた。

 このまま隊員達が攻撃を続けていても、クイーンを倒せそうに無い。


 ここまで来たらもう仕方が無い。

 俺も少しだけ手伝う事にしよう……


「ん……?」


 気のせいだろうか?

 いつもよりも魔力の"集まり"が悪い気がする。

 念の為、考えてたよりも少しだけ強めに魔力を練る。


「《אֵשׁ(火の玉)》」


 そして、一番ポピュラーで初級の《火魔法》を放った。

 俺が一番初めに成功した《魔法》をただ目標に飛ばしただけのものだ。

 放たれた《火の玉》は一直線に飛んでいき、そのままクイーンに命中して勢いよく燃え上がる。


『ギャシュアアア……』


 クイーンはそのまま断末魔の叫びを上げながら燃え尽きて灰になっていった。

 辺りにも無駄に燃焼させたものもなく、綺麗にモンスターだけを焼失させる事が出来た。

 この世界でも、ちゃんと魔力量の調節をうまくする事が出来たようだ。


「あ、う、な、何だあれは……」


 隊員達が再び、どよめいている。


「お、おい!なんだあの馬鹿みたいな《火炎魔法》の威力は!?まさか《上位魔法》か!?」

「それよりも!今"魔法陣"無しで発動しなかったか?」

「馬鹿言え!"魔法陣"無しでどうやって《魔法》を発動したんだ!?」

「いや!間違いない!俺はハッキリ見たぞ!」

「バカな!そんな訳あるか!"魔法陣"無しの《魔法》など見た事無いぞ!」


 隊員達が騒ぎ出してしまった。

 確かに"魔法陣"無しの発動は難易度が上がるが、キチンと理論を理解出来ていれば《初級魔法》程度は難しくないのだが……


「あ… いや……」


 どうやら、またやってしまったようだ……

 どうやらこの時代はゼジャータとは随分勝手が違うらしい。


「おい。おめぇ……一体、何もんだ?」


 自分の仕出かしてしまったミスに戸惑っていると、ベトベトになった紫色のイワノスが、慌てる隊員達を掻き分けてこちらへゆっくりと近づいて来た。

 先程まで少し警戒心を緩めてくれていた筈のイワノスの姿は、そこには無かった。

 目が、真剣そのものだ。

 むしろ、初めて会った時よりも鋭い表情でこちらを警戒してしまっている。


「あ……あのですね……」


 細心の注意を払っていたつもりだったのだが、度重なるミスの連発で、どうやらこの世界では見せてはいけない物を見せてしまったらしい……

 ゼジャータではマテラ達に異常な化け物っぷりを散々見せ付けられていたお陰で、俺は自分を正体など気にもせずに過ごす事が出来ていた。

 どうやらそのせいで、俺の自慢の『正体を隠す』という偽装能力は完全に麻痺してしまっていたのだ。


 ヤバい……

 取り敢えず敵は排除出来たものの、それよりもヤバい状況に追い込まれてしまった気がする。

 まさか、目撃者であるイワノス達を殺す訳にも行かない。

 《洗脳魔法》は俺には難易度が高過ぎる。


 この状況を、どうやって誤魔化そうか……




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