新たな脅威 ①
大柄な体格の男が口にした"暦"は、聞いた事が無いものだった。
バビロン歴? バビロディア帝国? そんな国名も聞いた事も無い。
それに、先程のキラーワームとやらが、地球に生息していた記録など無い。
この世界が地球ではない事は、おおよそ検討が付いていたし、その覚悟も出来ていたつもりではあったが、それを確信させられた事は少しショックである。
まあ、二人にさえ会えればそんな事はどうでもいい。
問題は、どこかで俺を待ってくれている筈のマテラ達と、どうやって再開すればいいか?なのだが、取り敢えずこの世界の常識を知るまでは、迂闊に動いたり喋ったりしない様にしなければいけない。
変に目立ってしまって、俺の素性をあれこれ探られると面倒な事になってしまう。
しかし、あれ程強く、あのマテラが《時間転移魔法》だと言ったとはいえ、それでもやはり、俺は不安になってしまう。
ここがマテラ達が居たのと同じ、ゼジャータと同じ世界であるという確信が欲しかった。
「おめぇ、一体何処から来たんだ?」
俺の決死の名演技が通じたようだ。
大男の口調が幾分か、和らいでいるように感じた。
屈強な体格の巨大な大剣を背負ったボスらしき男は、先程までの警戒心を緩めてくれたらしい。
しかし、先程の威圧感は和らいではいるものの、大男は見るからに"山賊の親玉"みたいな極悪人の様な容姿と口調をしている。
虫の機嫌でも損ねてしまうと面倒くさい。
なるべく低姿勢で、怒らせない方がいいだろう。
「いや、それが、全く何も思い出せないんです……」
今は情報を集めるのが先だ。
こちらからの不用意な発言も極力控えよう。
「仕方ねぇ。めちゃくちゃ怪しい奴には変わりねえが、取り敢えず俺達も町へ戻る所だ。町まで案内してやるから付いてこい!」
「あ、ありがとうございます」
見た目と口調は乱暴なものの、男はどうやら極悪人と言う訳では無さそうだった。
しかし、まだ油断は出来ない。
とは言うものの、右も左も分からないこの荒野で、一人残されても何も解決しない。
不安は残るが、男に着いて行く事にした。
「おう!任せとけ!」
マテラ達を探すにも、まずは情報収集だ。
町ならば、情報も集めやすいだろう。
こんな山賊男の住まう町など、どんな場所かわかった物では無いが、取り敢えず人間がある程度集まっているのは間違い無い。
それだけでも嬉しかった。
「町までは遠いのでしょうか?」
「そうだな。一時間程だ。しかしお前ぇも俺達に見っけられて運が良かったな!素人が一人でキラーワームに近づくなんて、命がいくつ合っても足りやしねぇぞ!それに、この辺りにはキラーワームの他にもモンスターがウヨウヨいるんだぞ!」
どうやらこの世界には、モンスターがいるらしい。
モンスターとは、不気味な"アレ"の事だろう。
確かに、キラーワームは俺がゲームや映画で知っているモンスターと言うに相応しい不気味な形をしていた。
まるで虫と哺乳類を無理やり合体させたような、不自然で不気味な姿なのだ。
ゼジャータで凶悪な"怪物"達は見慣れていたが、確かにキラーワームに比べて見れば遥かに生物としては"まとも"だった気がする。
なんと言うか、怪物達はあくまでも"進化の過程"にある未完成な生命体、という感じがしたのに対し、モンスターとはなんだか訳の分からない"ごちゃ混ぜ"感があったのだ。
虫の"脚"のあるべき部分に哺乳類の"手足"が生えるなど、通常の進化の過程からは考えにくい。
あれは、俺の知っている全ての生物とは、明らかに進化形態が異なっていた様に見える。
「助かりました。ありがとうございます」
どうやらここは、ゼジャータとは大分事情が異なっているらしい。
マテラの事を信じてはいるものの、不安が過る。
「しかし、襲われなくて良かったな!!もう迂闊にモンスターに近寄んじゃねぇぞ!」
この男……俺の事を心配してくれているのだろうか?
山賊顔なクセに、実はなかなか優しい奴かもしれない。
こんなにも不審な俺を、モンスターから守ろうとしてくれていたのだ。
いやしかし、まだ油断は出来ない。
もしかすると、この世界には奴隷制度があって、巧妙に売り飛ばされてしまうかも知れない。
その為に優しい顔で近寄ってきたのかも……
俺の見た目はあくまで高校一年生のピュアな性少年だからな。
表面的には信じたフリを続けながら、気を抜かないでおこう……
「助けてくれて有難うございました。もし良ければあなたの名前を聞かせてくれませんか?」
「俺の名前はイワノスってんだ。これでも『ヤマシーナ』を拠点にする探検ギルド【竜の髭】のギルドマスターをやってる!」
探検ギルド!それでこの厳つい見た目なのか!
取り敢えず奴隷として売り飛ばされてしまうような危険性は無さそうな事に安堵する。
そして、この世界は俺がよく漫画等で読んでいた所謂【異世界】と似た世界のようだ。
俺は少しだけ安心する事が出来た。
ここがもし《魔法》等が日常化された漫画の様なファンタジーの世界であれば、俺もそこまで目立たないかもしれない。
うっかり変な事をしでかしてしまっても、全て《魔法》のせいにしてしまえばいいのだ。
機会があれば、ギルドに所属してみるのも悪くないかな。とさえ思った。
俺にはそんな事してる暇など、無いと言うのに。
「そうなんですか。よろしくお願いします。イワノスさん」
「おう!しっかり町まで届けてやるからな!大船に乗ったつもりで安心しろや!」
イワノスを騙している事に少しの罪悪感を感じつつも、一行と共に町へと向かう事にした。
取り敢えず、町で最低限の情報が集まるまでは、記憶喪失のフリをして、大人しくしていよう。
そう考えながら町へと向かい出したその時……
俺は見知らぬ魔力の塊が、こちらの方向に急速に近づいて来るのを感じていた。




