必ず…… ⑤
周りには何も見えない……
またこの夢か。
気の所為か、いつもより激しい孤独感を感じる。
一体この夢は何なのだろう?
何故"私"はこの夢を見続けているのか?
「う……」
突然、身体を不快な感覚が襲った。
嘆き。妬み。苦しみ。
大量の"負の感覚"が、私の身体をまるで洪水のように埋めつくしていった。
だが、それだけだ。
きっとそれも気の所為なのだ。
その感覚を、私自身が感じる事など出来ない。
出来る筈が無い。
五感の全てが失われ"思考"以外に何もする事が出来ない私は考えた。
だが、どれだけ考えた所で『何も分からない……』という事が分かっただけ……
そんな私の瞳からは、今も大量の液体が流れ続けている……
………
……
…
✩.*˚
頭がズキズキする……
激しい頭痛で目が覚めた。
どうやら俺は、また気絶してしまっていたようだ。
それにしても痛い。頭が痛い。
俺は、こんな所で何をしているのだろうか?
頭の割れそうな痛みに耐えられず、地面にへたりこんだ。
痛みに強い筈の俺が、これ以上耐えられない。
まるで脳を誰かに直接描き毟られている様な痛みだ。
いくら瞬時に回復するこの身体とはいえ、永遠に続くかと思うこの痛みには、心が耐えられない。
余りの痛みに、また意識が途絶えた。
¸¸☆*゜
目が覚めた。
いつの間にか、強烈な頭痛は収まっていたようだ。
一体……どのぐらい気絶していたのだろう?
暫くボーっと働かなかった頭が、少しづつ目覚めてくる。
そして、意識が鮮明になっていく。
そして、自分が《転移魔法》で時間を飛び越えてきた事を思い出した。
同時に、マテラ達と別れてしまった事も……
「そうだ!マテラは?マテラはどこだ!?ここは、帰って来れたのか!?」
帰郷の喜びよりも先に、一秒でも早くマテラに会いたいと思った。
だが、周りを見渡した所で、誰も居ない。
この時代では、俺を救う為に《転移》の魔法陣を使った『マテラと縁のある者』が待っている筈だったのだが、マテラはおろか、周りには誰も居なかった。
「誰も居ない……な」
ゼジャータとは多少風景は変わっているようだが、相変わらず広大な荒野が拡がっているだけだ。
どこかでみんな隠れていて、俺を驚かせようとしているのか?
淡い期待が脳裏に過ぎる。
だが、そんな事有り得る訳が無い。
もし有ったとしたら、俺は本気で怒ってしまう。
「お~い!お~い!!」
どれだけ声を、張り叫んでも、どれだけ遠くを見渡してみても、やはりこの場所には人の気配は感じられない。
忘れていた"孤独"という最悪の感情が、再び押し寄せて来る。
どうやら、俺は再び一人ぼっちになってしまったようだ……
「くそ!全然話が違うじゃないか……」
悲しくて涙が出た。
こんな事なら、やっぱり《転移》などせずに、マテラ達と共に"あの時代"で楽しく過ごしていた方が良かったと思った。
二人とさえ一緒に居れれば、俺はもう、あそこで充分に満足していたのだ。
「また一人か……しかし、ここは一体どこなんだ?本当に《時間転移》出来たのか?」
相変わらず何も人工物の見当たらない荒野がひたすらに拡がっているだけだった。
取り敢えず、念入りに周りを見渡して見る。
気候等は特に変わっていないようだが、ゼジャータに生えていた様な、巨大な植物等は見当たらない。
ゼジャータとは違う世界の様にも感じられる。
だが、どう見ても日本でも無さそうだ。
そして、俺の記録に無い植物しか生えていないということは、残念ながらここは、日本どころか"地球"ですらも無い。という事だった。
そんなに上手く行く訳が無いとは思っていたが、淡い期待は崩壊する。
「お~~い!マテラー!スザリオー!誰か居ませんか~!?」
力の限り叫んでみるが、予想通り何の反応も無い。
もしかして……マテラ達とは全く関係の無い"まったく別の世界"へと来てしまったのだろうか?
マテラは《時間転移》とハッキリ言っていたが、不安になって最悪の考えが浮かんでしまう。
暫く考えたが、考えた所でまったく状況は変わらない。
悩む心と不安な気持ちを押し殺して、取り敢えず少し移動してみる事にした。
「良かった。使える……」
幸いな事に、この世界の大気中にも"魔力"は存在している。
《携帯倉庫》も問題無く使う事が出来た。
中には様々な貴重品の他にも、大量の食料も入っている。
これで暫くは、飢え死にする事も無いだろう。
「ん、なんだろう?これ?」
少し時間が経って気分が落ち着いたのか、身体に抜け落ちた"髪の毛"の様な物が付いていた事に気付く。
色んな意味で、不気味で怖かった。
まだ俺は禿げたりしない筈だ。
人間じゃあるまいし……
そんな事は置いておき、ここが時代の違うゼジャータで、必ず何処かにマテラとスザリオが居ると言う事を強く信じる事にする。
そうでも思わないと、押し潰されてしまいそうだった。
取り敢えず二人を探し出す為に、より深く現状を確認する事にする。
「む……」
異常に目の良い俺は、1km程先に異様にデカいミミズの様なシルエットをした動く物体を発見した。
怪物なのだろうか?
幸い、まだこちらの存在には気付いていないようだ。
近づいて、様子を見てみる事にする。
そして、それが、ただのデカいミミズでは無かった事に気付く。
「なんだコイツは……」
見た事が無い、異様で不気味な生き物だった。
というより、どう見ても"普通"の生き物には見えない。
3mほどの巨大なサイズの"ソレ"は、形状こそミミズの様ではあったが、丸い形状の口の様な物の中にはびっしりと鋭い歯が並んでおり、頭部には黒くて丸い物体が何十個も付いている。
これは、目?なのだろうか?
ミミズの癖に、胴体部分からは細長くて体毛に覆われた猿みたいな手が何十本も生えていた。
まるで、ミミズとムカデと猿をごちゃ混ぜにした様な姿なのだ。
気持ちが悪すぎる。
気持ち悪すぎて、直視する事が出来ない。
ゼジャータで見た怪物達が、可愛く見える程に気持ちが悪い生物だった。
こんな不気味で異質な生物が地球には存在した記録は無い。
やはりここは、地球では無い可能性が高い。
「う、しかも何か臭い……」
まだ数十mは離れているのにドブみたいな悪臭が漂ってくる。
食べれそうにも無いし、これ以上近づく事は止めておいた。
万が一にでも襲われて戦闘になってしまったら、変な体液を付けられてしまうかもしれない。
(ドドドド………)
その時、こちらに向かって複数の"何か"が近づいて来る音が聞こえた。
「ん?馬?」
ミミズとは反対の方角から、馬に乗った人間達が近づいてきたのだ。
「おおお!人間だ!!」
久々に人間に出会えた事に感激し、酷く興奮した。
二人には会えなかったものの、これはかなりラッキーな展開だ。
どうやらこの世界は、人間のいる世界らしい!
「おい!!そこのお前!!早く"キラーワーム"離れろ!何してるんだ!」
三人組の屈強そうな男達の中でも、一際体格の良い男が大声で叫んでくる。
「ああ……こいつ、キラーワームって言うんですか……」
「何言ってんだ!?この荒野でキラーワームを知らねぇとはどういう事だ!?と、いうか、何でお前ぇ服を着てねぇんだ!?」
「あ、いや……」
言われて見れば、今までマテラ達以外には誰にも見られる事も無かったので、適当な布を腰に巻いていただけだった事を思い出す。
どうせ服を着たとしても、一日も持たずに訓練でボロボロになってしまう。
マテラのセクシーな服装の事しか考えて無かったので、自分の服装などどうでも良かったのだ。
それに比べて彼らは簡素ではあるが、きちんと布や絹で"縫製"された服を着ていた。
それだけで、この世界に文明という物が存在している事が伺える。
「何だお前ぇ。怪しい奴だな……」
男達は、俺に対して攻撃してくるような雰囲気こそ無かったものの、明らかに強い警戒心を抱いている様に見えた。
まるで犯罪者でも見るかのような鋭い目で、俺の事を睨んでいる。
言われてみれば、今の俺は不審者そのものだ。
俺ですら突然半裸の男を見れば、不審がってしまうだろう。
「う……」
ヤバい…… 俺は全力で頭をフル回転させる。
だが、この危機的状況を切り抜ける為に最適な言い訳が見付かる筈も無い。
かくなるうえは『あの作戦』しか無い。
「あ、いや、すみません。だが、ここは一体どこだ?……私は、誰なんだ?……」
「はぁー?お前ぇ何言ってんだ?まさか記憶喪失だってぇのか!?」
リーダーっぽい男から警戒心が薄れた様に感じられた。
良かった。
どうやら必殺の作戦が通じたようだ。
これはこれで後々大変かも知れないが、これで全ての問題を一時的にでも乗り切れる筈だ。
「うう、自分が誰だかまったくわからない……教えてくれませんか?ここは、一体どこなんです?」
「何を言ってるんだお前ぇは?ここはバビロディア帝国の属領『ヤマシーナ』だ。それも分からねえってのか??」
「まったく、思い出せない……今は何年ですか?」
「まったく、とんでもねえ奴を拾っちまったようだなぁ……今はバビロン歴25年、大星3つ、小星10の時だ」
聞いた事の無い暦。
何故か言葉は理解出来るし通じているが……
俺は……この世界で再び二人と再開出来るのだろうか……
第一章 世界の調律を護る者 ~ 完 ~
第一章読んでくださいまして、ありがとうございましたm(_ _)m
物語はまだまだ続きます。
二人の主人公が長い時間をかけて旅をする物語を少しでも興味を持って頂けましたら、是非ブックマークとこの下にあります評価欄に☆でご評価頂けますと、私のモチベーションになりますので、何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m
皆さんに最後まで読んで頂く為に何度も何度も修正を重ねて更新が遅れる事も御座いますが、是非最後までお付き合い下さい。
花枕




